『異レイヴン』






最近、巷を騒がせている犯罪集団ーーカラスの宴。元は一種の都市伝説であったはずのそれが、最近になってその存在を顕にしてきた。リーダーのヤタガラスを中心に、何人かで組織を構成しているのではないかと、警察は調査を進めているーー。
まあ、その考えはあながち間違えていない。実際、カラスの宴は複数人からのグループで成り立っている。

しかし、それだけだ。

なんでそんなことを知っているかって?それはーー

私が、ヤタガラス本人だからさ。

ーー16:25・高架下

八葉

うう……

いつの間にか意識を失っていた僕は、鼻先にバッタが止まったことにより目が覚めた。体中痣だらけ…あとが残らなきゃいいけどなぁ…。

八葉

うわ…またやられた…

あたりに散乱した荷物を集め、財布の中身を確認する…と、既にそこはもぬけの殻だった。
クシャクシャに丸められたレシートがあるだけで、そのほか、硬貨紙幣はすべて抜き取られていた。なぜこんなことになったかは、僕が一番よく知っている。
僕の名前は日神八葉(ヒノカミ ヤツハ)。わりかし有名な私立高校に通う16歳…カースト最下位。
そんな僕が、カースト最上位の奴らに集られて金を抜き取られるなんて当然なことで…。いや、十分立派な窃盗罪なんだけど…。

八葉

今日は殴られるだけで済むと思ったんだけどなぁ…

どうも、僕のこの態度が相手の癪に触ってしまうようで。何をしても面白くないんだとか。
それならいちいち関わらないでくれないか、と声を大にして言いたいところなのだが…悲しいかな、それを口にできないのがカースト最下位だ。

八葉

はぁ……面倒くさそうだな…

僕は足を引きずりながら、もう一度帰路についた……。

ーー16:50・嘘鳥荘

八葉

ただいま…

星乃

お帰りやっつー…ってなにそれどうしたの!?

白口

おーおー、また派手にやられてきたなー

八葉

おかげさまで…小久麻にはーー

小久麻

わー!!やっつー!!

八葉

遅かったか…

家に帰ると、僕は早々に同居人たちに囲まれた…ここには、僕の他に10人の同居人がいる。
今ここにいるのは…大学生の留 星乃(トドメ ホシノ)、管理人の深山 白口(ミヤマ シラクチ)、中学生の西黒 小久麻(ニシグロ コクマ)。他にも、ここにはいない人たちもいるのだが…まあ、それは後でもいいだろう。
この中でも小久麻は人一倍心配性な気がある。それ故…

小久麻

やっつー!!また喧嘩してきたの!?

八葉

あー…喧嘩ってか…うん…

一方的に殴られて、挙げ句の果て全財産盗られたなんて、年下の小久麻に言えるわけもなく、僕は目をそらしつつ頷いた。

白口

どーせ、またカースト上位のやつにボコられたんだろ

星乃

大丈夫だった?お金とか盗られなかった?

八葉

お見通しかよ…

白口

やっぱりな

星乃

警察訴えてもいいんじゃないかしら…

小久麻

その前に!!やっつーどうしてやり返さないの!?やっつーの能力使えば、そこらの不良なんてーー

八葉

はい小久麻そこまで

頬をふくらませる小久麻の頭にぽんと手を置き、リビングへと歩みを進める。

八葉

普通のヒトに、異能の力を使って勝負なんて挑んだら…下手したら死んじゃうよ

小久麻

やっつーをいじめるのが悪い

八葉

僕は神様じゃないんだぞー

小久麻

でも…

白口

…まー、そこは八葉の言う通りだな。八葉の能力は俺らの中じゃ一番やべえし…

八葉

そういう白口のも結構やばいと思うよ

え?何の話なのかさっぱりだって?…まあ、そんなに気にすることじゃないさ。きっとすぐにわかるし。

八葉

そんなことよりさ、白口…

白口

んあ?

八葉

お腹減っちゃった。今日の夕ご飯は何?

白口

………おいおい、あんなこと言いつつ、しっかり憎悪蓄えてんじゃねえか

小久麻

狩るの!?

八葉

気晴らしにね。言っただろう?僕は神様じゃなければ仏でもない

星乃

あらあら…相当お怒りさんなのね…

小久麻

私も行くー!

八葉

ごめんね、今日はひとりでやりたいんだ。それに、小久麻はもう食べたんだろ?

小久麻

えー…つまんなぁい…

不貞腐れる小久麻の頭を軽く撫で、僕は白口に向き直る。

白口

おひとり様かい?

八葉

んー…できれば2人前。多ければ多いほどいいけど

白口

能力使用の限度は?

八葉

あと3回

白口

じゃ、最高3人だな

八葉

ええ…

白口

えーじゃない。お前、この前ひとりで欲張り過ぎてぶっ倒れたばかりだろ?

八葉

能力使用限度くらい守れる…5人

白口

だめだ

星乃

やっつーの『~できる』は信頼できないものねぇ

八葉

星乃まで…わかったよ…

小久麻

喧嘩で負けちゃったばかりだしね

白口

足も怪我してんだし。いくら回復早いからって無茶するなってこった

白口にぐしゃぐしゃと頭を掻き回され、僕は堪らず椅子の後に回り込んだ。

八葉

悪人と見なしていいかな

白口

冗談、やめてくれ死んじまう

星乃

ほら、麦茶でも飲んで落ち着いて

星乃から差し出された麦茶を受け取り、僕はそれを一気に仰った。氷も残さず飲み込み、一息つく。白口はおもむろににテレビをつけ、物色を始めた。

白口

で、今日の夕飯なぁ……あ。あんなのどうだ

白口が指し示した先には、テレビがある。その画面にはーー。

ーーその男、久我 真司(クガ シンジ)は政治家だ。圧倒的支持率の高さで、一時は総理大臣候補とも言われた、優秀な男だった。しかし、最近になり、政治資金の横領が発覚。さらに、賭博行為にも手を染めていたという疑惑まで浮上し始めた。
当然こんなことが公になれば人が離れていく。
著しく下がっていく自身の評価に、久我は焦りを隠せないでいた。

ったく、あのマスコミふざけやがって…!一体どこから情報を…

今の彼は非常に機嫌が悪かった。様々な悪態をついているその姿を、未だ彼のことを慕っている支持者が見たらどう思うだろうか。

ここまで広がるともみ消すのも…

ああ、やっぱり悪人は悪人だ。

やあ、久我氏。ゴキゲンは如何かな?

はーー?

物陰からその様子を伺っていた私は、男のこめかみを蹴り飛ばした。

あ、がアァっ……!?

嫌な鳴き方だ。私たちでもそんな下品な鳴き方はしないぞ

な、あ…!?

ご紹介遅れました…私は…

けっ、警備ぃ!警備はどうしたぁっ!!

はいはい人の話は最後まで聞きましょうね

自己紹介すらもまともに聞けないなんて…全く、どうかしている。鼻頭を思い切り蹴り飛ばしてやると、コキリという小気味いい音がし、血がわずかに辺りに散った…もったいない。せっかくの夕飯が…。

ああ…?ああああ…ああああああ!!

ところで久我氏。弱肉強食って、ご存知ですか?

あ……ああああ…

あ、だけじゃわかりませんよ…ちゃんと…

のどを踏みつぶす。

ひぎっ……!?あ、あ…!!

人の言葉で喋って下さいよ?

喉仏をコリコリと動かすと、その度に相手が呻くものだから、楽しくてやめられない。でも、私は目の前にディナーを用意されて、静かに待てるような紳士ではないのだ。

ああ、申し訳ございません。何も話せませんよね、喉を潰されては…私としたことが、うっかりしていました

男の顔にわずかに希望が見えた。足をどかしてもらえると思ったのだろう…そう。その顔だ。

人数は少ないけど….これは至高の食事かもしれないな…食は量より質派かい?ミヤマ

あ………?

それじゃあ…

私は男に馬乗りになり、頚動脈があるあたりにナイフを当てる。

あ、あああやめーー!!

ーーいただきます

私は迷いなく、ナイフを横に滑らせたーー。

八葉

うう……ただいま…

白口

おー、おかえり、八葉。って、どうした?

八葉

油分多すぎ……胃もたれ起こしそう……

白口

悪人の血なんてそんなもんだろ…肉しか食えない旅人よかマシじゃねえか

八葉

贅沢な食事だったよ…本当に

白口

そりゃよかったよ…満足はしてもらえたか?なあ…

白口

ーーヤタガラス?

八葉

ああ。でも、しばらくはいいや

白口

贅沢だなぁ…選ぶこっちの身にもなれよ…

八葉

次は血糖値低めでお願い。頼りにしてるよ

白口

あー、やだやだずるい人!親愛なる我らがリーダーに、そんなこと言われちゃあ張り切るしかねえっての!

八葉

僕がいつリーダーになったのさ…

白口

世間じゃそう言われてるぜ?まあ、名前が一番リーダーらしいしな

八葉

日神って名字で八が入ってるからってだけなのに…

白口

食事が一番リーダーらしいぜ

八葉

人肉と憎悪の方が悪の組織らしいけど

白口

別に俺達は悪じゃねえだろ?

八葉

僕はそう思ってるけどね。世間体には悪いと思う

白口

世間体なんて気にしてたのかお前!?

八葉

この体質で生まれた時点で世間体なんて気にしてる暇はないよ。世間的にはそうだってこと

白口

確かになぁ…くくっ、思い返してみれば、ずいぶん奇妙な体質で生まれたもんだ、俺達、カラスの宴は…

八葉

憎悪で腹が膨れたり、血液じゃなきゃ腹が膨れなかったりね

白口

本当になぁ…あ、そういえばこんな面白いの見つけたぜ

八葉

え、なにな……に……

白口

ヤタガラス総受け

八葉

なにこれ!!なんでそれを僕にわざわざ見せたわけ!?ってこの絵お前だろ!!

白口

掲示板サイトがうるせえからよ。一個投下してやったんだ

八葉

今すぐ消せぇぇぇぇぇ!!

次の日、とある事務所にて政治家の惨殺死体が見つかったというニュースがワイドショーを騒がせたが、僕はそんなことより、昨晩見せられた絵が、誰かの端末に保存されていないかがひどく心配で仕方がなかったーー。

Fin

あとがき

ルシフェル

完全思いつきの趣味です。ごめんなさい

るりいろ

某曲を聞いて、『カラス…これいけるんじゃね?』と言って書き始めた結果がこれですよ

ルシフェル

前書いたオモイツキジャーよりマシかと

るりいろ

あれは本当にひどかったですね

ルシフェル

ストリエに載せる分が貯まりまくってる

るりいろ

流石にログあさりが大変だと思うので、コピペくらいやっておいたらどうです?

ルシフェル

せやな

るりいろ

そろそろ作品について触れましょうか

ルシフェル

んー

るりいろ

登場人物がそれぞれ異能力を使えるようですが、それについては?

ルシフェル

主人公の八葉は、悪人を裁く能力(物理)、小久麻はポルターガイスト、星乃は絶対記憶、白口はモノを壊す能力

るりいろ

食事について

ルシフェル

八葉は血液、小久麻は愛情、星乃は記憶、白口は憎悪。彼らはこれ以外のものでは絶対に腹が膨れません

るりいろ

今回出てきてませんが、食人もいますね

ルシフェル

実はこの食人の人がキャラの中では一番好き

るりいろ

旅人……

ルシフェル

カテキンさんです

るりいろ

確かに好きそうな性格でしたね…天然腹黒毒舌……

ルシフェル

本当はただの天然にしようとしたんだけどね。星乃と被る

るりいろ

星乃に毒盛ったら旅人になるんですかね

ルシフェル

そうだね。星乃死んじゃうけど

るりいろ

旅人は毒耐性持ってそうですよね

ルシフェル

世界各地でいろんなもの口にしてるからな…毒耐性くらい余裕でついてるでしょ

るりいろ

旅人つおい

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