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『四回目』の僕は、こうして命を捨てた。

『四回目』のときの、友人の僕を見る目が忘れられない。

 僕は、狂っていたのだろうか……狂っていたかもしれない。……いや、どうかな?

 一箇月と言うのは、実は無駄に長いのだ。狂うには、正気に戻る時間が多い。多く気を逸らすことが出来てしまうと言うか。集中して、異常事態と常に向き合う訳では無いから。

 だからって、限界が無いなんて、ことは絶対無い。事実僕は限界だった。

 単純な異常事態だったら、友人が、彼女が、仲間がいた。だけど、コレは違う。

 僕だけが、同じ一箇月を過ごすんだ。『初日』に戻れば誰も覚えていない。同じことのリピート。

 差異は在るさ。僕だけが覚えているんだ。僕の言動で、変わるだろう事柄は在る。そうでも大筋はいっしょなんだ。何日何時何分何秒誰某多少の差が付こうとも、起きることは、時系列は変わらない。『二回目』には、はっきりしたことだ。

 あれから、もう何度だろう。片手で数えて、足らずもう片方も折り返すこと、数十回。

 結論から言うと、何をしても駄目だったんだ。ヤツじゃなく、黒幕を倒しても。

 幾度も繰り返す内、僕はいろんな道を試した。メールのURLにアクセスしなかったのでダウンロードしないときも在ったし、黒い染みに突撃して突破しようともした。ヤツと早々に接触して裏から手を回したり、非実在少女にも会ったし、一枚どころか奥の奥まで噛んでいた市長とも会った。

 あの装置の本体を、市長ががっちり抱え込んでいるってどうなの。ヤツを研究所から逃がさないために、非実在少女を人質にすべく装置を手元に置いたくせに、その人質に装置を使われ窮地に陥るとか阿呆の極みでしょ。

 己の動きを制限させないため、早い段階で隣の高校の強者たる彼と接触し、『降参』したことも在った。勿論、怪訝な表情で彼は言った。

何のつもりだ

 って。僕は笑顔を貼り付けて、こう返答した。

長いものには巻かれろ、って言うでしょ? わざわざ強い人と戦わなきゃ行けない理由は、無いから

 僕は彼に従うことで、彼を『主役』の座へ動かした。もともと、彼は面倒見の良い兄貴分で、熱血で、僕より余っ程“主人公”だった。カリスマ性も在ったし。第一、僕が彼に勝ったのが間違いだったんだ。

 これ以上の、『隠れ蓑』は無い。

 ……さて。僕が『主役』を降りたのに、最初のころは何の意図も無かったんだ。

 通算記念すべき『十回目』。半ばあきらめて自棄になってしまっていた僕は、戦うことをやめた。さくさく『降参』して化け物とだけ戦った。

 彼はこの僕の行いを、何か拘りが在るとでも思っていたみたいだ。人とは戦いたくないと考えている、とか。いやいや、疲れてもう関わりたくないだけですから。信念とか、きみじゃ在るまいし。そう自嘲して見せても 「そうか」 って、勝手に納得しちゃったりしていた。

 そんなとき、僕はあることに気が付いた。

 エンディングメーターの動きだ。

 エンディングメーターは、日々、起きることをこなすと減るものだと思っていたんだ。
 そう。違ったんだよ。

 エンディングメーターは、人が死ぬと増えて。
 出来事のアクションによって、減るんだ。

 切っ掛けは。

……だ、い……じょぅぶ……

 彼女が死んだときだった。

 彼女が死んだとき、減っていたエンディングメーターが大きく増えたんだ。そうして、よく見るとメーターの中のメモリに、薄ら文字が浮かんでいることにも気付いた。アルファベットだ。

 メモリのアルファベットは、減ったり増えたりするたびに変わった。

もしかして……

 感付いた僕は、試行錯誤することにした。

 増え方も減り方も、まちまちだった。時機にも依るようだ。同じ人間でも、時と場合に依っては幅が在った。

 全滅させたことも在る。このときばかりは、僕は彼を下すしか無かった。余り派手に見殺しにしてしまうと反発が起きるので、仕様が無い風を装った。終盤だったからか、ヤツと僕じゃないからか、ゲームオーバーにはならなかった。

 彼女も、友人も、殺した。

 程無くして、メーターの真意を理解する。

 アルファベットは難易度だった。減ると難しくなり、増えると楽になる。僕の関係者で、何ゆえ彼女が死ぬと大きく増えるのかと言えば、多分。

駄目

……

危ないよ

 僕を仰ぎ見、懸命に選択を変更するよう要求する彼女。

 多分、彼女が『障害』になるからだろう。みんなで、真実へ辿り着くため必要な通過イベントをこなすのに、彼女は出来るだけ安全策を取ろうとするから。

 悪いわけでは無いけれど、匙加減で達成率が変わるらしく、彼女が推奨する安全策は達成率を下げてしまうみたいだ。

 じゃあ、彼女を殺せば良いって話だろうけど、ループするならいっしょだし。

もう一週間だね

……

大丈夫かな……

 二人きりの屋上、胸中を吐露する彼女。……彼女は賢い。殺すには惜しい────言い訳だろうか。

 いつも、屋上に行かずとも、三日目に出会って一箇月も暮らすんだ。昼も夜も共にいる。情が湧かないほうがおかしい。

 僕のみ、何年も過ごしているんだけれども。

 こうやってループする中、僕は一つの終着点を見付けた。通算……や、すでに数なんて覚えていないや。とにもかくにも、何十箇月何千日過ごす内、僕は思い付く。

 全員を生き残らせ、バランスを取ったら、もしやこのループは終わるんじゃないかと。

 保障は無い。
 賭けだ。

 未だ試していないから、やってみるだけ。

 でも何をしても同じなら、良いじゃないか。

 僕は、だいぶ麻痺していた。

 助けられることも、助けることも、傷付くことも、傷付けることも、誰かの生き死ににも。

……

 暗い中で下ろしていた瞼を開く。夜中の学校。他の避難している生徒と同じ、崩れていない校舎の教室で寝泊りしていた。
 この生活も慣れたもの。明日で、終われるだろうか。

 明日は、全員が生き残った回での、トーナメント最終決戦だった。

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