十文字さんでいいの?

私が、十文字さんを追い出すという選択をした七河さんに問う。
……もうこれ以上、無駄に人を死なせたくない。

アスミ

あん?
そりゃどういう意味だよ、金島

七河さんがダメという理由を問う。
私には一応の理由がある。言うだけ言ってみる。
手招きして、近づける。

……?

カンナ

二人は知らない。言ってないから。
これは私の独断だ。
……いいのだろうか。
でもこれは一応伝えておかないと。
優先順位が今回は七河さんのほうが先。
何せ今支配しているのはこの人だ。

アスミ

どした?

村人だって……十文字さん

先程の一幕を、七河さんに説明する。
私に味方するような事をした、と。
主観の様子も踏まえて言い終える。
同じことを、二人にも伝えてというと。

アスミ

おーそか
あと考えてみりゃあ、グレーすくねえな

アスミ

うっし!
私に任せな!

どん、と胸を叩いて笑顔で言う七河さん。
それが何とも言えずに怖いのだが……。
そして、十文字さんに声をかけた。

アスミ

じゅーもんじー

リン

……

アスミ

ちょいと面貸せや、コラ

リン

嫌よッ!

だろうなぁ。
一体何を考えているのか到底理解できない。
その間に私は二人に軽く顛末を説明し、行く末を見守ることにする。
万が一変に刺激して、殺される羊にされたらたまんない。

アスミ

おっ? おっ?
抵抗する気か?

リン

人殺しに近寄る馬鹿がいるわけないでしょう!

アスミ

だろうな!
だが私は強引に行くぜ!
ルール違反にならない限り!
ぐえっへっへっへ……

リン

な、なに……?
やらしい笑み浮かべて……?

禁じられている暴力以外の何かで実力行使。
そんなニュアンスを含ませながら躙り寄る。
明らかエロいことしようとしてる。そんな感じ。
楽しそうであるあのクレイジー。
トチ狂っている七河さんの本領発揮か……。

ミカ

やめなさいよっ!!
この色情狂!!

四宮さんが割って入る。
十文字さんの味方をするようだ。
果敢だなぁ……と思いながら眺める。

アスミ

くははっ!!
やめないぜよォ!

えっ?
何その坂本龍馬みたいな言い方。
あの人キャラ変わってない?

アスミ

ってことでェ!
犯人はお前だッ!
四宮ァッ!!

ミカ

えっ!?

リン

なにがっ!?

突然躙り寄っていたと思っていた七河さんが、人差し指で四宮さんを指差して、犯人だと断定した。
意味不明だ。脈略がない。
でも私達には分かる。
今日追い払う対象を、変えたということだ。
私と十文字さんを信じる、ということ。
なにがってことで、なのかは割愛。

アスミ

お前が数々の参加者を闇夜にまぎれて殺した張本人、人狼だろう!!

ミカ

違うわよっ!!

うわぁ、ノリノリで暴走しているこの人……。
ダメだ、愉快痛快に勝手に進めていく。
もう口出しできない。
周防さんは本を読み始めた。
一ノ瀬さんはメモ帳に眼鏡の落書きし始めた。
……何故眼鏡?
しかもその上にハンマーを描いて叩き割る、みたいなシンプルなパラパラマンガにしようとしている。
無関心にも程があるよ二人とも……。

アスミ

違ってても別にいいけどねえ!!
お前が死ぬんだよ馬鹿野郎ッ!

ミカ

巫山戯ないで!
あたしは何もしてないじゃない!

アスミ

ひゃーっはっはっはっはっ!!
私は最初からフルスロットルトップギアで巫山戯てんだよぶわあーーーか!!

ミカ

こんのッ……!!

私はこの決定に異論はない。
理由は今、真顔に戻った七河さんが言っている。

アスミ

さて、遊んだし真面目にやるか
……理由か?
私が十文字をまさぐりたいから

リン

殺すわよ?

アスミ

冗談だよ
本当は、残りのグレーの数

私含めて残りの人数は、6人。
そのうち私、七河さん、周防さん、一ノ瀬さんは互いを把握している。
残りは、十文字さんと四宮さん。これがグレー。
そのどっちかが、狼になる。
五分五分の確率なのだ。
当然メタなことになるので、彼女たち二人は私たちが互いに把握していることは知らない。
だから、片方を信じれば片方が信じない。
この場合は、四宮さんを信じない。
それが理由。

アスミ

なー十文字
お前は村人なんだろ?

リン

……!

ハッとして、彼女は私を見る。
さっきの事を耳打ちしたことを分かったのか。
私はただ、こう思っただけだ。

私にさっき言ったよね?
村人だって……
私は、それを信じたいよ

リン

……ありがとう……

私の為に知恵を貸してくれたこの人を信じたい。
人の善意は……どんな時でも、黒く染まらないと。
私は、周防さんと一ノ瀬さんと一緒だからここまでこれた。
ひとりじゃ、何も知らずに永遠にこのループを繰り返して、何時か心が折れてループ世界の歯車になっていたかもしれない。
周防さんは私に何度も謝ってくれた。
謝って、泣き出して、それでも一緒にいてくれた。
一ノ瀬さんは私を励ましてくれた。
二人とも、私を支えてくれた。
私は二人を信じる。人の善意を信じる。
繰り返すデスゲームの中でも。
それは決して見失っていいものじゃないから。

ミカ

な……何よ、それっ!?
あたし以外にもわかんない人はいるじゃない!!
周防とか、一ノ瀬とか!!
何で十文字だけ優先してるのよ!?

当然の反論である。
私たちの行為はただの反則。
ゲームの趣旨に外れている。
でも……そんなこと、もう知らない。
悪いけど、私も最後には自分勝手になるよ。
それで勝てるなら。それで抜けられるなら。

私は周防さんと一ノ瀬さんの役職を知ってる
そしてそれは、絶対に信用できるものだということも

アスミ

あぁ、悪いな!
私もあいつらの奴は知ってんだよ

七河さんはカマ掛けで、私達は情報共有で互いに知っている。
私達の役職をそれぞれ明かす。
盛大なネタばらしで、全部終わらせてやる。
こっちを見た七河さんが私達にニヤリと犬歯を見せて嗤いかける。やっぱり怖い。
手伝え、ということらしい。

黙って見守ってきたけど口出しするわ
わたしは残念だけれど、狼ではないの
狩人、よ

カンナ

わたしは残るうちの村人の一人……

二人は白だ。私と七河さんも白。
そして、十文字さんは白だという。
残り一人は……四宮さんだけだった。
愕然とする四宮さん。それでも噛み付いてくる。

ミカ

あんた達こいつの言うこと信じるの!?

憤慨する。
当たり前だろうけど、最後は信じる信じないのさじ加減になる。
この場合は、十文字さんを信じる。
天秤はそっちに傾いた。

リン

私は事実、村人よ!
じゃあ、貴方あの時何であんなこと聞いたの?

ミカ

なにが!?

リン

昨日二人がグルだって言ったでしょ!!
二木さんが居るっていうのに!!

とうとうこっちもブチギレた十文字さんが怒る四宮さんに詰めよった。
それは昨日の話し合い。
私達をひとくくりにして、狼じゃないかと疑っていた四宮さん。
確かにあの行動は不自然だった。
もう一人をかばうように見えても仕方ない。

リン

どう考えても、あの場合は占い師のどっちかが怪しいと見るわ!
なのに貴方は二人を疑った!
あの時点でもう、狂人だって知ってたんでしょう!?
庇うためにあんなことを言ったと見れば納得が行く!

リン

その時点で透けているようなもんよ!

指をさして突きつける真実。
そうか、そうなんだよね。
色々七河さんのことで忘れていた。
今頃納得する私。

なるほろー……

気付いてなかったの?
わたしはてっきりそれで路線変更したかと思ってたんだけど

カンナ

えっ?
……違ったの?

分かってなかったの私だけ!?
私はただ単に十文字さんを信じただけだよ!?

まぁいいけど
わたしも金島さんに同感
信じることは大切だからね

カンナ

うん……

微妙に慰められながら、きちんとした理由を突きつけられて黙る四宮さん。
四面楚歌だった。
これだけの数、彼女一人では覆せない。

アスミ

理由もなしに人なんか殺さねえよ

アスミ

お前が黒だっていう証拠も、確信もある
だからこうして殺そうっていうんだ

アスミ

だから死ね

ミカ

……

四宮さんは追い詰められた。
これ以上、彼女に勝てる理由はない。
確実に、四宮さんは黒だ。最後の狼だ。

みんな……終わらせよう
このゲームを、ここで!

この投票で終わる。
終わらせてみせる。
最後ぐらいは占い師らしく、振舞おう。
ほどんと七河さんに出番を取られてしまったけど。
皆で、抜け出すんだっ!!

アスミ

おうっ!

カンナ

わかった……

リン

ええ

うん

私達は皆で一斉に指を指した。
今回の追放者。
即ち、最後の人狼を。

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