都に隣接する森の中の湖で、聖人、否、悪魔契約者は、体を休めていた。
騎士よりもはやく居場所を突き止めたのか、そこへ、少年が駆けよってくるのが見えた。

こんなところに居たら、捕まってしまいますよ?

はは・・・。
捕まってほしくないような口ぶりだな。

それは・・・。
僕の故郷が遠いので、捕まってほしくないだけです。

何日、生き残れば足りるのだ?

五日もあれば・・・足りるかもしれません。
でも、もっと遠くから来た人もいるかとは思います。

そうか。そうだな。
ならば、もう少し遠くまで逃げよう。

お前も、早く病人のところへ水を届けろ。

そういうと、悪魔契約者はその場を立ち去ろうとした。

なぜ、こんなことをしたのか、聞いてもいいですか?

なぜ、とは?

悪魔契約の事です。

・・・もう何年も前になるが、昔、病が流行ってな。
辺境の地にある私の故郷の村は、壊滅的な被害を受けた。
それこそ、誰しもが病を恐れて、近づかなくなり、薬などもってのほか、物資すら届かず、病人が病人を介抱する状況では、悪魔契約すら希望の光に思えたのだよ。
・・・それだけの話だ。

悪魔との契約で売ったものは、なんだったのですか?

幸福感という感情を対価にした。
おかげで、大切なひとたちが助かっても、私自身には、どうでもよくなってしまったよ。

あなたは、やっぱり聖人様です。

昨今の流行り病の元凶なのに、か?

・・・・・・!

私は、悪いことを悪いと知ってやっている。
だから、悪人だよ。

そう言って、少年を黙らせると、いよいよ悪魔契約者はその場から立ち去った。

















それから後日、教会に孤児を育てる施設が誕生したという話が、噂として少年の耳に届いた。

もしかしたら、お金集めはこのために?
聖人様はやっぱり、聖人様だったんだ。

病の完治した母とともに、少年たちは祈る。
どうか、聖人様が幸福な感情を取り戻せますように、それよりなにより、生きていてくださるように――。

神様に、祈る。

pagetop