『あのババァは
死んでも嫌がらせをしてくる。
それに比べりゃ私は可愛いモノさ』
と彼女は言う。
~その2~
『あのババァは
死んでも嫌がらせをしてくる。
それに比べりゃ私は可愛いモノさ』
と彼女は言う。
~その2~
栗藻羽町
~ルチアの家~
☆光輝君(みつてるくん)☆
【通称】お弟子君
【職業】マギカライターのお弟子君
【年齢】???
【外見】25歳前後
【服装】シャツとズボン、メガネ
一年中服装は変わらない
【性格】淡々としている、事務的
ただ最終的には師匠に従順
【嗜好】シンプルなものが好き
【弱点】たった一人、
勝てない人が居た
ええと、ソフトウェア名……って言うか書籍名『ポナンザ君と学ぶ将棋入門』
その中にある『最後に実践してみよう』の機能がこのゲームと
ただの初心者用将棋ソフトかと思っていた……。
まあ、古本屋とかに100円で売られてそうな見かけだわよね
でも、ぶっちゃけ彼女の事だから、そんな可愛らしいものじゃないですよね。
もっとえぐい何かでしょう
小根が腐ってるからな。
きっと絶対に勝てないようなロジックを組んでいるはずだ。
この初心者用の見かけもカモフラよね。きっと、最後の最後で達成できないような嫌がらせなのよ
達成感を奪い去る所業か……あり得るな
いや……あり得るの!?
人が悩んだり困ったりするのを見てるのが大好きな人でしたからね
……だからこんな弟子ばかりになったのか
聞き捨てならないな。
そうよ、あれに比べれば私たちの性格なんてそよ風のように爽やかだわ
比べなきゃただの暴風なことは理解してるようで何よりだ
しかし……つまりこれは、普通に将棋を打っても絶対に勝てないカラクリがあるはずですね。
俺に絶対に勝てる方法……。
例えばその都度強い歴代の棋士を召喚しているとか
有り得るな。
女子魔の魔術書みたいな、英霊召喚みたいなものなら……
で、でもルッチー。英霊召喚すると、基本的に気配や実態が出てくるはずだけど……。
それは無かったと思うわ。
あくまで私たちはCPUと戦っていた。
確かに……。
なんていうか、狂いなくこっちの弱点を突いてくるところは、まさにCPU戦だった。
……なるほど。
……ちょっと俺も打ってみて良いですか?
なに?
弱点でも見つかったのか?
いえ、とりあえず負けてみない事にはどういうロジックか解らなそうだなって
好きにしろ
では……
ロリ魔とエロ魔の師匠はおおよそ数十年前に亡くなっている。ロリ魔の祖母と自ら発言していたが、実際は血の繋がりがあるだけで、ロリ魔の何代前の祖先か解っていない。
面識があるのは、ロリ魔とエロ魔、あとお弟子君のみである。ただし、彼女の残した魔術書は各地に散らばっており、研究員であるイデグチはその存在を知っている。
なお、女子魔のマギカライターとしての師匠はいない。独学である。
……
……なんだか、普通の打ち方だな
お師匠みたいにハチャメチャに打ちませんからね
あー確かに。
強いけど雑だよな、ルチアセンセ
ほっとけ
まあ、それだけに綺麗に打つな。
………矢倉か
ですけど、このままたぶん弱点突かれますけどね
って、何の対策も練らずに打ってたのか?
相手の出方を伺いたいだけですからね
……ま、もう少し進めてみましょうか
ん、投了ですね。
負けたか
綺麗に負けたな
まったく癖の無い戦いだったわね
……良く解かんない
エロ魔さん、マナはどんな感じでしたか?
んー。
計測してみた結果は、弟子君が盤上の駒を動かすためにタブレットを触った時に活性化したわ。
相手が動くときは?
その時は逆に静かと言うか……もうすでに行動を決めているみたいだったわ
……こっちが駒を動かす時にMANAも動いているのか。
こちらに絶対勝てる機能を動かすために、こちらの操作を逆利用しているんだろうが……。
ロジックが解らないわよねぇ
………………。
いや? そうですか?
メアリーの婚活結果並みにけっこう解りやすいですよ?
む!! 解かったのか!?
たぶんですけどねぇ……。
彼女は変な所シンプルで子供的でしたから……。
イデグチさん、さっきの俺の戦い見て、何か感じませんでしたか?
ん? どういう事だ?
お師匠でもエロ魔さんでも良いです。今の戦い見てて相手がそんなに強く見えました?
……まあ、基本に乗っ取った教科書通りの試合だったからな。……裏をかけば出し抜けそうだった。
でも、それってただ単に弟子君が基本的な打ち方をしたから、相手もそれに合わせてきただけじゃないの?
まあ、そうですけど……。
問題は、どうやってこちらの実力に合わせてきたか、ってところなんですよ
定石に定石で対抗するのは別に変な話ではないと思うが
でも、イデグチさんの試合は見てないですけど、そんな定石を返してくるような試合運びになりました?
それについてはそうでも無かった。むしろ駆け引きやだまし討ち、かなり高度な試合になったな。
なんていうか、こっちの動きの裏をかき続けるというか……。本気で嫌らしい将棋だったな。
でもそれは、相手のタイプによって対応してるんじゃなくて?
相手の弱点を付くために、定石というよりは打ち方を使い分けているって言うか。
ま、エロ魔さんの言うのも一理あります。
でもそうなると、やっぱりこっちの実力を読んで、それに打ち勝つ打ち方を選択して打ってきてるんですよ。
その都度、このAIの実力は打ち手によって変化します。
その理論が正しいのなら生半可な強さでは『頑張れば勝てそう』を永遠に繰り返すことになります。
さらに、もしこの将棋ソフトの『強さ』に上限が無いのなら、お手上げですよね
どうだろう……。最強の戦法って言うのは、未だに確立されていない。
今も進化しているゲームだからな、将棋は。
だからこそ、いずれ過去に作られた古いAIはいつか負けることになるはずだ。
でも、例えばこのAIが今も成長しまくってるとしたら?
……いや、それこそたぶんいつか負ける。
成長って言うのは、案外苦戦を強いられた時に起きるモノだ。
元より今以上の成長を期待するようなモノだったら、どこかで負けるだろう。
そうやって進化するはずだ
でもね。
お師匠も言っていましたが、彼女の性格からして『絶対に勝てない』モノを作り上げると俺も思うんですよ
きっとこのまま俺たちが何度挑んだところで、不老不死になったところで勝てません。
彼女なら、そう言うのを作ります。
……随分、理解してるのね
………。
まあ、解りやすいっちゃあ解りやすい人だったからね
……まて、つまり弟子君。
君は諦めるほかないって言うのか?
いやいや。
確かに俺たちは勝てません。
そう言う風に作られています。『勝てない』が彼女の目標でしたからね。
でも、実は勝つ方法はありますし、勝てる可能性がある人も居るんですよ。
どういう事だよ。絶対勝てないんだろう?
ええ、『この魔術書を読んだ人間』はまず勝てません。
あと、将棋を知ってる人も勝てないでしょう
この魔術書は、高等な嫌がらせなんですよ。
『将棋の教本のくせに、将棋を学んだ人間に将棋で勝たせてくれない』と言うのが最大のミソなんですよ
???
と言うわけで、とっとと退治してしまいましょう。
そんなわけで
君の力が必要なんだ。
で、デデデデデッデ、デッシー!?
頼めるかい?
あ、あわわわわわわわわわわ私で良ければ!!
☆越田ヘレナ(えつだへれな)☆
【通称】女子魔
【職業】女子高生/マギカライター
【年齢】16歳
【服装】セーラー服
【性格】負けず嫌い、慌て者
いざという時、責任感は強い
【嗜好】辛いもの好き、大食い
お弟子君
【弱点】解りやすい子、地味
カラクリは簡単なんですよ。 あ、そこの金っていうのを前に出して
相手に勝つには何が一番必要かって想像できれば、絶対に勝てる状況を作れるんですよ。
そこ三つ目の歩をだして
単純に誰でも、一手打つ時二つのことを考えているんですよ。
あ、桂馬ってのを前二つ進めて右に一歩
それは『相手にしてほしい状況』と『してほしくない状況』を考えているんです。
また金を前に出して
その人に絶対に負けない方法があるとすれば、その人が考えている『相手にしてほしくない状況』が解かれば良い
で、デッシー。……相手、動かなくなっちゃったよ?
女子魔さん、良いこと教えてあげるよ
あの飛車って言う駒は、前後左右無限に動けるんだ。
そ、そうなの?
だから、こっちに飛び込んで来たら拙くない?
そ、そうかもしれない
じゃあ、今金の前に飛んできた飛車を取って
え?
これ取れるの?
……ああ、もう。
それこそ良く解る教本シリーズ並みに、良く解ったよ弟子君。
こいつの魔術は読心術か。
そうですねぇ。
相手の指先から心を読みとって、一番嫌な手を打ってくる。
……だから、弟子君と俺の時の実力が、若干違ったように見えたのか
そっか……。
この機能を動かす段階って、おおよそ教本を読んで将棋の知識を覚えてるはずだから……。
どう足掻いても勝てるわけがないってことね
ヘレナセンセは将棋の事が全く分からないから、嫌がる手を読めないってわけだ
初めから何が嫌な手なのか知らないわけですからね。
なんて性格が悪いモノを作るんだ。
センセがそう思うんだから相当だよ
というわけで、きっと相手は最後の手段でどんどん駒をこっちの陣地に送って来るぞ?
気を付けて
ちょ、今更どう気を付ければ……!!
じゃあ、指示通りに、全部の駒取っていこう
……お、おう。
産卵シーズン中のサケ並みに大量だなぁ。
あのババァの魔術書が、デンプシーロールくらったボクサーみたいにメッタメタに。
……前から思ってたけど、弟子君って私らの師匠に唯一勝てる存在よね
ま、良く知ってる人ですからね
……実の孫よりも理解してるってどんだけだよ
ね、ねえデッシー。
そうこうしてる間に相手の駒が王ってのだけになっちゃったんだけど?
終わったか……
何にせよ、一泡吹かせられたってことか
ん?
フリーズしましたね。さてはWIN画面作ってなかったんですね?
こういう自分で気付いてない自信過剰さも彼女らしいですねぇ。
お師匠、ちょっとこのタブレット借りますよ?
どうする気だ?
仏壇に掲げて拝んできます。
きっともんのすごく悔しがるでしょうからね
……お前もあのババァが関わると性格わるくなるよなぁ
数日後、ルチア宅
魔術書については様々な系統があるが、今のところ大きく分けて三つのモノがある。
一つ、『物語』
内容はフィクション小説。世界観や主人公の感情などを理解、解釈すればするほど能力を発揮する。作者の腕、読み手の感性の両方に左右されるが、発現する能力は予測が立てにくい。
二つ、『理論書』
とある現象や法則を専門的に書き記された文書。発現する能力はほぼ決まっており、完結的で使いやすいものが多い。使い手の理解力に威力は依存するが、おおよそ出せる力の限界値を超えることは無い。
三つ、『歴史書』
歴史上の人物や逸話について書かれている。対象の霊魂と仮の肉体を召喚することが出来る。真実味があればあるほど霊魂の能力は、高まるが、適当だとうさん臭い偽物が限界する。
なお、物語はロリ魔、理論書はエロ魔、歴史書は女子魔が執筆を得意としている。
ロリ魔とエロ魔の師匠は、オールマイティに書けたらしい。
そうそう、そこは金で受ければ良いです
あ、その手は悪手ですねぇ。
……でも挽回は出来るはず
ん、そうそうそれで良いですよ。スジ良いですよね女子魔さん
そ、そうかなぁ
って、連日何やってるんだよお前ら!!
いや、女子魔さんがせっかくだから将棋教えてほしいって
べ、べべべつに、教本でも読めばいいんだけどね!! で、デッシーが教えてくれるって言うから仕方なく!!
あのな、だからって私の職場でやるなよ!!
パチンパチンうるさいんだよ!!
良いじゃないですか、どうせ今の作業は終わりそうにないんだし
終わらせる!!
ロジック解けなかったとしても、せめてこの魔術書の解析くらいは……!!
そう言って、もう何日かけてるんですか。
大人しくイデグチさんとこの研究チームに回せばいいじゃないですか。
あのババァに負けっぱなしは気に食わないんだ!!
……そう言って、未だに彼女の魔術書を解析しきった事なんてないじゃないですか
そろそろあきらめないと、月刊誌の締切にまた間に合わなくなりますよ?
あまりシジミさんを泣かせないでくださいよ?
だったらお前ら即刻将棋止めて、静かな環境にしろ!!
集中して解析して、今回こそ三倍のスピードで終らせるから!!
終わりの無い事を何倍にしても意味ないですよ
察してください。
将棋の問題を将棋で抗議してるんです。
将棋でお師匠が遊ぶのなら、俺も女子魔さんと将棋で遊び続けます
ど、どうしてもって言うのなら、仕方ないから付き合ってあげるわ!!
ていうか、ルッチー永遠に終わらなくていいよ!!
だから、私は遊んでいねえええええええ!!
私も解析終らせて、仏壇で拝んでやるんだあああああああああああああああ!!
~終わり~