鳳利幸

つまり、チュータくんと呑みに行く日の朝に戻ったってことだな…
今日されを誘は無ければ、無事に明日を迎えられる訳ってことか

昨日と言っていいのか分からない。日付感覚が狂っているせいだろうか…日付はチュータと飲み会に行った日。8月20日を示している

衣が言った通り、チュータくんに「奢る」という行為をした結果が今の状況である
しかも財布の中身も、一銭たりとも減っていない

鳳利幸

本当にあの子は何だったんだ?

呼びましたか?

鳳利幸

ど、どこから入ってきたんだ

利幸の疑問さえも耳に入ってない様子の衣
あっちへふらふら。こっちへふらふら一通り歩き回って、利幸の横に座る

まー、説明してあげてもいいですけど、長いですよ?むっちゃ長いですよ?
それでも聞いちゃいます?

鳳利幸

いいから説明してくれないか

あ。やっぱりめんどくさくなりました

鳳利幸

なんなんだよ!!

わわ、嘘です冗談です
ちょっと長くなりますけどご容赦くださいね

おじさんがあの居酒屋で願ったことがありましたよね?

鳳利幸

ずっと奢り続けたい…てやつかな?

はい、ご名答です
しかし、おじさんの薄給では到底無理なお願いですよね

鳳利幸

う…確かにそうだけれど

ですから、そのお願いを叶えるための最短の方法が奢る前に戻るということです!

鳳利幸

もっと他の方法はなかったのか?

ありましたよ、昔
ある人の願いを永久に叶え続けたことが…

その結果、その人がどうなったか知りたいですか?

さっきまでのへらへらと冗談を吐いていたのが嘘のように、急にまじめな表情を形成する衣
その豹変ぶりに、利幸は固唾を呑んで見守っていた

鳳利幸

もしかして、死んだとか?

まさか、そこまで物騒な話ではないですよ
…ただ、その人は望んでしましたのです。永遠に死なないからだが欲しいと。だから特例で永遠の命を与えました。その代わり、一生独り身という条件付きですが

鳳利幸

そんなの、人によっては全然苦じゃないと思うけど

確かに、おじさんみたいなアラサー独身貴族には全くもって苦痛じゃないと思います。
しかし、その人は家族も最愛の人もいました。それでもなお、永遠の命を望んだので…こういう条件にされたみたいです。
まあ、おじさんには全く関係のない話ですけどね

深刻そうな話さえも、井戸端会議を行う主婦のように話す衣
その話を踏まえたうえで、利幸の疑問はどんどん膨らんでいくのであった

鳳利幸

どうして、俺には願いを叶えてもらうだけという選択肢が無いのだ?

私たちの研究グループは、先の研究結果を重く受けとめ、新しい制度を導入しました。
その人が望む状況に一番近い時代にその人を飛ばすというものです。
今回、おじさんはずっと奢り続けたいという要望だったので、奢る前の状況に戻るということです

鳳利幸

なるほど…
俺が望んだ状態に一番近い状況に戻される。納得はしてないけど理屈は理解したぞ

おお、早い理解力
脳みそはまだまだお若い様子ですね

鳳利幸

…それで、お前は誰なんだ?
何の目的でこんなことに俺を選んだんだ

私たちは、人間の願望を最大限叶えようと取り組む団体です。おじさんはその研究のモルモットみたいなもので、私はその監視兼報告者というところですかね

鳳利幸

変な団体だな

酔っていたからこんな話に食いついてしまったのだろうか…一回目のループを行う前だったらこんな話に聞く耳を持つことはなかっただろう
しかし、今の状況下では信じるを得ないといったものである

鳳利幸

その実験というのはいつ終わるんだ?

おじさんがループの力を必要としなくなった場合、または、五回連続ループの力を使ったら終わります

鳳利幸

なら、さっさと五回連続ループすればいいんだな?

そんなに簡単な実験ではありませんよ?
もし、おじさんが五回連続ループの力を使ってしまいますと、ある種の罰ゲームを行わなければなりませんので

鳳利幸

罰ゲーム?
それはいったい!?

それは口にすることさえ躊躇われることなので…秘密です
こちらとしては、ループの力が必要ないと認識していただける状態になるのが望ましいとだけお伝えしときますね

鳳利幸

それは…

「無理だと思う」
そう続けようとして口を閉じた

奢ることによって自分の威厳が保たれると感じている自分にとってこの状況は願ったり叶ったり。
しかも、ループすることによって財布の中身も無傷。こんな便利な力を簡単に手放すことはできないだろう

まー
こちらからお伝えできることはその程度ですから、後はおじさんのやりたいように使ってください
私はあくまで、監視役兼報告者ですので

微笑みの裏に、闇を潜めながら衣は利幸へ簡単な説明を終わらせるのであった

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