鳳利幸

ふむ…今日も呑みますか

八月も二十日を迎え、新入社員のチュータも職場に慣れてきた様子
親睦を深めるために、呑みという場でのたわいもない話。そんな些細なところに現れるチュータの心を読み取れたら…とか少し期待していたりする

チュータ

利幸さん、あんまり呑んだら帰れませんよ?

鳳利幸

そんなに弱くないっすよ、それにチュータ君も遠慮しなくていいですから

チュータ

じゃあ、お言葉に甘えて

金曜日の夜、賑わう繁華街
意見の居酒屋にて開催される慰労会
「今週もまた、お疲れさま」
利幸の挨拶とともにグラスを鳴らす二人であった

チュータ

いやあ、おいしいです

鳳利幸

チュータくんもなかなかいける口ですな

チュータ

鳳先輩
空になってますよ

そう言いながらチュータは利幸のグラスに酒を注ぐ
おおっとと言いながら並々に注がれた

鳳利幸

そういやチュータ君
今回の企画は進んでいるかい?

チュータ

ぼちぼちって感じです
初めての自分が受け持つ企画なので、頑張り
たいと思います

鳳利幸

まぁまぁ、気楽に頑張りなさい
景気づけの為に呑みなさいな

グイッと飲み干し、グラスを開けるチュータ
どうやら様子はほろ酔い…といった雰囲気である

二人のほろ酔いはの様子で、視界は微睡むのであった
「やはり後輩とお酒を飲むことが、こんなに楽しいことだとは」
そう思う利幸、財布の中を見て現実に戻され目が冴える。ああ。今月もお給料は少ないのか…

奢ることによって自分の威厳が保てるとか、そういうわけではないけど。何となく、こういう場でのコミュニケーシが好きである
しかし、お金が無ければそれもできない…

鳳利幸

今月は厳しいな…

チュータ

どうしたんですか。鳳先輩?

鳳利幸

いやいやチュータ君は気にしなくていいよ

はぁ、お金が無いと奢ることもできない
世の中金がすべてとは言うけれども…そこまで残酷なのだろうか
お金が増えればいいのに…なんてうまいこと行かないか

チュータ

先輩
ちょっとお手洗い、いいですか

鳳利幸

ああ
ゆっくり行って来なさいな

チュータを見送り、一人呑みなおす利幸
…そんな、お金が無限に湧いてくるなんて、夢の中の話でしかないのだ
そう思いながら視界を空中で泳がせる

ねーおじさん
永遠に奢り続けることができるとしたら…やりたい?

鳳利幸

だ、誰だい?

私は衣だよ
それよりおじさんはどうしたいの?ずーっと奢りたくないの?

「それは…できることなら奢り続けたい
利幸の言葉の吐露に衣は「おお」と感嘆をこぼす

鳳利幸

でも、永遠にお金が湧いて出てくるなんてことあり得るのかい?

あ、勘違いしないでください
おじさんが奢ったお金が戻ってくるだけですよ。一定の条件をクリアすればですけどね

鳳利幸

もっと分かりやすく説明してくれないか?

「んー」
と人差し指を口元にあて、衣は考えた

そして、パッと顔をあげ利幸の方に指さしながら言う

ループですよ
おじさんが誰かに奢ることで、その奢る前に戻るのです!だから、おじさんの財布の中身は無事って訳ですよ

鳳利幸

ということは、俺はこの日一日をずっと繰り返すのか?
そもそも記憶はどうなる?
結局同じ日を繰り返すのではないか?

そこはおじさんの裁量というか
この日を超えたいのであれば、誰にも奢らなければいいだけの話です
そして、記憶はおじさんのみにしか残りません。奢られた方の記憶は無くなります

鳳利幸

なんというか、都合のいい胡散臭い話だな

まーまー
騙されたと思って、一回奢ってみてくださいよ

そう言い残すと衣はその席からパタパタと離れる
それと入れ違いでチュータがトイレからもどってくっる

鳳利幸

じゃあそろそろ帰ろうか
…お会計は俺に任せとけ

チュータ

そんな…申し訳ないですよ

鳳利幸

君の企画の成功を祈っての投資だ
奢らせてくれないか?

チュータ

っ!?
鳳先輩、ありがとうございます

チュータは利幸に頭を下げる

それからお会計を済ませる

利幸が目を覚ますと、そこは自室
見慣れた天井、見慣れた家具の配置

時計に目をやると日時
8月20日
チュータと呑みに行く日の朝。
衣に言われた通り財布の中身を確認するが…やはりお金は減ってない

鳳利幸

ほんとに…戻ってきたのだろうか?

pagetop