《柱の側壁1》
大黒駅ー喉黒駅
そこには、若い男の視線を意に介さず
今まさにかつて人だった物を
咀嚼し嚥下しつづける異形の者。
そして、その食事はもう
間もなく終わろうとしていた。
残るは左手だけ。
……コイツは……一体なんなんだ!?
その禍々しい見た目は
若い男の身をすくませた。
一刻も早くこの場を離れなければ。
若い男はそう思ったが
恐怖に震える足がそれを許さなかった。
……手……手だ……
!?
浅黒い肌の少年の言葉に
違和感を覚える若い男。
禍々しい存在よりも
残り僅かな食事に意識が行く
その理由に……。
どういうことだ?
スグルにはあのバケモノは見えていないのか?
うっ……
食事の手を止める異形の者。
若い男は異形の者と
目があったような気がした。
……そして
若い男の頭の中に低い声が響く。
貴様……
見えてるな?
……気づかれた?
若い男は戦慄した。
次は俺の番だと。
安心しろ。
見える貴様は
悪いようにはしない。
な……なんだと?
我が見えるのなら、
貴様は王の資質を持つ、
という事だからな。
王……?
資質?
我が下僕の出す試練を乗り越え
王の座を勝ち取るが良い。
……試練?
にわかに信じがたい話にも関わらず、
それまで上に立てず
苦渋を飲み続けてきた若い男は
王という名の響きに
心を動かされていた。
あの腕時計……。
ぎ……
バカッ!スグル!
え?
駅員とか呼ばれたら面倒だぞ!
あ……そうか……。
でも……。
クソ……
面倒そうな奴がこっちに来やがる。
……あれ?
ない……。
金のトサカを持つ鶏……。
それなりに美味であった。
やっぱりスグルには
見えていないんだな……。
目を離した間に
食事を終えた異形の者は
若い男の方へと近づき
顔を寄せる。
……ふぅむ。
うっ……
……資質があるとはいえ、
ここで終わらせてはつまらぬ。
かと言って、
資質のないものが残っては意味が無い。
何より生け贄が圧倒的に足らぬ。
終るとか残るとかなんの話だ?
資質がある俺を
王にしてくれるんじゃないのか?
自惚れるな。
貴様はまだ盤面のコマに過ぎぬ。
力を欲するのであれば、
みごと我が試練に打ち勝ってみよ!
そう言うと、異形の者は
その手らしきモノに持つ杖で
二つの広告を指し示したかと思うと、
煙のようにその姿を消していた。
若い男は指し示されたその先を見る。
チラ……。
車内に示される試練に基づき、
生け贄を捧げ続けよ。
さすれば、地獄の王としての
力を与えられん。
『喉黒駅は羊の入れ替え。』
『乗るは新たな生け贄候補。』
『降りるは用済みの生け贄。』
おいおい……。
王は王でも地獄の王かよ……。
若い男の中に
ふつふつと湧き上がる野心。
ふっ……。
悪かねぇなぁ。
チラリ。
クソっ……、アイツこっち来んなよ……。
用済みの生け贄……。
クックックッ……。
さて、どう降ろさせてやるか……。
あん?
なんか言ったか、ユウジ。
いいか、スグル。
とにかく、何でもないって言い貼れ!
関わられたら面倒だからな。
あ……ああ。
分かったぜ。
俺が……王になる。
……地獄の王に。
クックックッ……
これまで虐げられ続けた若い男は
王の座を夢見て高揚する。
降車拒否
〜Another Side〜