《柱の側壁1》
大黒駅ー喉黒駅































スグル
ユウジ



そこには、若い男の視線を意に介さず



今まさにかつて人だった物を



咀嚼し嚥下しつづける異形の者。






そして、その食事はもう



間もなく終わろうとしていた。





残るは左手だけ。

ユウジ

……コイツは……一体なんなんだ!?



その禍々しい見た目は


若い男の身をすくませた。






一刻も早くこの場を離れなければ。







若い男はそう思ったが


恐怖に震える足がそれを許さなかった。

スグル

……手……手だ……

ユウジ

!?




浅黒い肌の少年の言葉に


違和感を覚える若い男。





禍々しい存在よりも


残り僅かな食事に意識が行く


その理由に……。


ユウジ

どういうことだ?
スグルにはあのバケモノは見えていないのか?





ユウジ

うっ……






食事の手を止める異形の者。




若い男は異形の者と


目があったような気がした。





……そして


若い男の頭の中に低い声が響く。

貴様……
見えてるな?

ユウジ

……気づかれた?



若い男は戦慄した。


次は俺の番だと。




安心しろ。
見える貴様は
悪いようにはしない。

ユウジ

な……なんだと?






我が見えるのなら、
貴様は王の資質を持つ、
という事だからな。

ユウジ

王……?
資質?



我が下僕の出す試練を乗り越え
王の座を勝ち取るが良い。

ユウジ

……試練?




にわかに信じがたい話にも関わらず、


それまで上に立てず


苦渋を飲み続けてきた若い男は


王という名の響きに


心を動かされていた。








スグル

あの腕時計……。

スグル

ぎ……

ユウジ

バカッ!スグル!

スグル

え?

ユウジ

駅員とか呼ばれたら面倒だぞ!

スグル

あ……そうか……。
でも……。






大毅
柚葉





ユウジ

クソ……
面倒そうな奴がこっちに来やがる。

スグル

……あれ?
ない……。






金のトサカを持つ鶏……。
それなりに美味であった。

ユウジ

やっぱりスグルには
見えていないんだな……。





目を離した間に



食事を終えた異形の者は



若い男の方へと近づき


顔を寄せる。

……ふぅむ。

ユウジ

うっ……




……資質があるとはいえ、
ここで終わらせてはつまらぬ。

かと言って、
資質のないものが残っては意味が無い。

何より生け贄が圧倒的に足らぬ。

ユウジ

終るとか残るとかなんの話だ?
資質がある俺を
王にしてくれるんじゃないのか?






自惚れるな。

貴様はまだ盤面のコマに過ぎぬ。

力を欲するのであれば、
みごと我が試練に打ち勝ってみよ!



そう言うと、異形の者は


その手らしきモノに持つ杖で


二つの広告を指し示したかと思うと、



煙のようにその姿を消していた。







若い男は指し示されたその先を見る。

ユウジ

チラ……。

車内に示される試練に基づき、
生け贄を捧げ続けよ。

さすれば、地獄の王としての
力を与えられん。

『喉黒駅は羊の入れ替え。』
『乗るは新たな生け贄候補。』
『降りるは用済みの生け贄。』






ユウジ

おいおい……。
王は王でも地獄の王かよ……。



若い男の中に


ふつふつと湧き上がる野心。

ユウジ

ふっ……。

ユウジ

悪かねぇなぁ。





ユウジ

チラリ。

スグル

クソっ……、アイツこっち来んなよ……。

ユウジ

用済みの生け贄……。
クックックッ……。

ユウジ

さて、どう降ろさせてやるか……。

スグル

あん?
なんか言ったか、ユウジ。

ユウジ

いいか、スグル。
とにかく、何でもないって言い貼れ!
関わられたら面倒だからな。

スグル

あ……ああ。
分かったぜ。





ユウジ

俺が……王になる。
……地獄の王に。

ユウジ

クックックッ……





これまで虐げられ続けた若い男は



王の座を夢見て高揚する。





















降車拒否
〜Another Side〜








[柱の側壁1] 大黒駅ー喉黒駅

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