マスター

アイル・・・

マスター

ビー・・・

マスター

ブァーーック!!

ナルサワ

よっ、ターミマスター!!
っておいおいいやいや、帰ってきたのは僕の方ですから。
はいコレ、アメリカ土産。
佐川さん、カモーーンヌ!

佐川男子

はい!重たいんでお気をつけ下さい!!

ナルサワ

うん、そっと置いて行ってね。

佐川男子

あざっしたー!!

ナルサワ

あーあー、言ったそばからもう。
これだから佐川は好きじゃないんだよな。
元気に挨拶すりゃあいいってもんじゃないよ、ねえマスター?

マスター

な、ななな。
なんじゃこりゃあ~!!







純喫茶モロウ

2nd season

ライク・ア・ピンボール









マスター

な、何かねこれは!!
ナルサワ君、説明したまえ!

ナルサワ

ワォ!レトロ喫茶の店長気取ってるくせにご存じないと?
ピンボールですよ、フリッパーピンボール。

ああ、年齢的にゲートボールの方が馴染みありますよね。何かさーせん

マスター

そういう事を聞いてるんじゃない!!
そして気取ってるんじゃない、本職だ!

どういう了見でこのピンボール筐体を店に持ってきたというのだね!?

ナルサワ

最近THE PINBALLSってバンドにハマッてて。
そんでカリフォルニアのスティ先の近所の豪邸でたまたまヤードセール(※1)やってて。

ほいでコイツがタダ同然で売ってたからビビッと来て。

ふんで必然とこのサイズで空輸だから輸送代の方が高く付きましたけどね。あははウケる!

一杯飲むとヤードセールの説明をドリップするよ

そうそう。

前クールで言い忘れていたが、
ナルサワ君は板橋区で100年続く
老舗乾物屋グループのご子息。


要はおぼっちゃまで大学の長期休暇に入ると
ゼミの提出課題のネタ探しだとか、
趣味のDJ音源を海外に買い付けに行くだとか、
平気で2週間くらい休む
何とも鼻に付くボンボンなのだよ。

まあ私も彼に何枚か
レコードのお遣いをお願いしたり、

ボランティア同然の金額で
彼を雇用しているのだがね。

ぬふふふふふ。

ナルサワ

ここのティラノザウルスの役物がいい味出してるんだよな。
恐竜の目のように光るスイッチもイケてる。

マスター

あのなあ、なるすぅわくん。
ウチは格式高い純喫茶なのだよ。
そこにこんな俗物をだねえ…

ナルサワ

いいじゃないですか~。
どうせ毎日ガラガラだから置くスペース的にも困りませんよね?
インテリア的に見ても結構イケてると思うんですよね、実際。

ナルサワ

マジに話すとこの店にも何か“売り”がないとダメだと思うんですよ。
いくら居放題だからってコーヒーはインスタント、音楽はyoutubeじゃちょっと。
そもそも客が来ないから無料Wi-Fiも全然機能してないし。

マスター

ふむ、悔しいが一理ある。
この浅草の競合店にもインベーダーゲームを売りにしてレトロ感を演出。
さらにはテレビ取材も受ける喫茶店もちらほらあるしな。

ナルサワ

まあ、先方はウチの存在すら知らないから全然競合店になり得てないわけですけれども。アウトオブ眼中。

マスター

え、そうなの?

ナルサワ

逆にこの客入りで何でそう思えないの?
バカなの?

ナルサワ

とりま遊んでみません?
言うまでもなくオフラインだからアカウント等の詳細設定は不問。
コンセント入れるだけでオーケーっす。
いやあ、そう考えるとレトロゲーの方がかえってスマートっすよね。
通信料とかかかんないし。
1コイン1クレ、2コイン3クレがデフォらしいんですけどそれでいいっすか?

マスター

すまん、何を言ってるか全然わからないから全部任せる。
残業手当はちゃんとつけておく。
とにかくあとは任せた。

ナルサワ

貧乏人ほどなぜか努力しないで金で解決したがるんだよな。ああ、嫌だ嫌だ

マスター

今日から君をピンボール担当、ピンボールウィザードの称号を授けよう!

ナルサワ

バカにしてんの?

マスター

うりゃあ!
どうだ!
参ったか!
ソラソラ!
死ね死ね!

ナルサワ

うん、ザ・じじいって感じのベタリアクション。どんまい。

どれかのボールを打ち返すとTHE PNBALLSの曲にジャンプするよ

マスター

ひぃ!!大変だ!ナルサワくん!!ボールが三つになったぞ!?早速故障だ!君、ヤードバーズに偽物を掴まされたに違いないぞ!!

ナルサワ

ヤードセールで、な?
そんなハードボイルドチックな話じゃないです。
今はマルチ(トライ)ボールといって三つのボールを一気に弾いて得点を稼ぐ倍々チャンスですよ!
ヘイ、ロックンロール!

マスター

えー、本当に無理無理!!

ナルサワ

女子か。
あれ、てか何でプレイ中にBGM鳴らないんだろう?
あのジュラシックパークの壮大なテーマがクールなビープ音で再現されていたはずなのに…

マスター

負けちゃったよ!
急にあんなに出てくるのなんて聞いてないもん、卑怯もの!
うぇーんうぇーん!!

ナルサワ

子供か。
てか、もしかして…あの時の佐川じゃん!!

佐川男子

どぅも!あざっした!

ナルサワ

じゃねえ!
うーん、参ったなあ。
実は販売業者とっくに倒産しててパーツ手に入るか微妙なんですよねえ。

マスター

ええ、そんな!?
もっといっぱい遊びたかったのに。

ナルサワ

無邪気か。
てか、すげえハマッてんじゃんこのシルバーボーイ。

マスター

ねえ、どうすれば元通りになるの?

ナルサワ

ワォ、もはや幼児化現象が始まっている。
てか、店内のBGM邪魔しないから逆にいいかも。ねえ、マスター?

マスター

うむ、確かに。
ここは上質な音楽とコーヒーの店。
そのコンセプトが揺らいでは元も子もないからな。

ナルサワ

よかった。
正気を取り戻してくれて。

シューメイカー

ふー、あちー!
すいません、やってます?

マスター

はい、いらっしゃいませ!!



次回
『真夏のシューメイカー』
に続く

ピンボール・ウィザード ~プロローグ~

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