わたしに任せろ、というその言葉は本当に心強かった。
何という圧倒的な話術。素人でも感服する。
あれよあれよと周囲の人間を嘘でまとめ上げ、四宮さん追放の空気にしていく周防さん。
どうなのかしらね、四宮さん?
あなたが十文字さんを殺したのでは?
ふ、巫山戯ないでよ!!
なぜあたしが彼女を殺す必要が……
理由なんて、決まっているでしょう?
分かりきったことを……
わたしに任せろ、というその言葉は本当に心強かった。
何という圧倒的な話術。素人でも感服する。
あれよあれよと周囲の人間を嘘でまとめ上げ、四宮さん追放の空気にしていく周防さん。
あたしは、無実よ!!
大体霊能者だって言ってるでしょう!?
なんで聞いてくれないのよ!!
逃れたいがために、そういう風に言うのは予想がつくわ
ここで感情に任せて手を緩めたらあなたの仲間はまた人を殺すでしょう?
なら聞くけど、なんで現場にあなたの髪飾りが落ちていたの?
知らないわよ!!
殺してないし!!
こいつ偽物だわ!!
みんな聞いてよ!!
……駄目だ。
見事に皆、周防さんの話術にハマっている。
今朝、話し合いで早速周防さんは偽占い師で出てきた。
真占い師は名乗り出ず、このことから本物は既に死亡していると思われる。つまりは十文字さんが本物だ。
で、こちらは出てきた霊能者二人のうち、四宮さんを吊ろうとしている。
占い先は四宮さんで、結果は黒。
彼女が狼だと言っている。
更には、何時の間に盗んでいたのか四宮さんの私室にあった彼女の髪飾りを、現場の十文字さんの部屋にさり気無く置いておき、現状証拠に仕立て上げた。
……手際が良すぎて見ていて恐ろしい。
あたしも占い師に賛成だよ
あたしが調べれば答えは出る
これで白だったら、あの占い師を吊ればいい
何より、二人いるうちのもう一人の霊能者が、周防さんに味方している。
これも大きいだろう。
恐らくどっちかは狂人だろうし。
今みっともなく足掻いているのが狂人だったら明日周防さんは吊られる運命にあるけど……。
聞いてよ!!
何で聞いてくれないの!?
ヒスを起こして騒ぐ四宮さん。
違う、違うと訴えるけれど。
状況が……状況、だしねぇ……
ごめんなさい……信じられません……
無理しかないぞ
以下同文
こ、これはもう……進むしかないのであります
…………
皆、信じていない。
私は村人のフリをして、困ったようにしているだけ。
後はもう、抵抗させない。みんなで殺す。
私の時みたいに……。
何で……誰も信じてくれないの……?
四宮さんの消沈した声が、辛い。
わかるよ。その気持ち、すごくわかる。
だけど……ごめんね。
私はあんなのはもう味わいたくないの。
やりたくないけど……ごめんね。
…………
本物ならいいけど……
一ノ瀬さんが小声でそう呟いた。
私は近くにいたから聞こえた。
……疑っているんだ、周防さんのこと。
まだ完全には信じていないようだった。
…………
何だろう、波乱の予感がする。
この人、何か考えているのだろうか?
…………
じぃとグレーの瞳で周防さんを見ている一ノ瀬さん。
怖い。その生気に乏しい瞳が怖い。
まるで爬虫類みたいな感情がない眼。
怖いから早めに……。
早めに……退場してもらったほうがいいかな……?
やっぱりきたね、二人とも
っ!?
えっ!?
夜。人狼の私達はまた闇夜に紛れて動き出す。
昼間、霊能者一人を追放した私達は、五分五分の確率で周防さんは立場を約束された。
あの抗っていたのが本物なら、もう一人の二木さんは狂人なので、きっと合わせてくれる。
逆なら死ぬ。それも覚悟の上で、と周防さんは言う。
今夜はまだ、グレーを噛み付いても問題はない。
占い師は恐らくもう死んでいるし。
今此処で、もう一人の霊能者を噛むのは愚かだ。
最悪、外れたら私が二木さんを仕留めるしかない。
なので今夜は言動が変だった一ノ瀬さんをどうにかして、と私が頼み込んだ。
了承した周防さんと共に部屋に向かうと、そこには真夜中にも関わらず起きていた一ノ瀬さんがいた。
待ち構えるように。
……わたしを殺しに来たんでしょう?
……悪いけど、金島さんは連れて逝くから
ひぃっ
嫌な予感がする。あの時の感覚がまた来た。
ヤバイ。
自分で言い出したことだけどこの人は不味い。
……妙に金島さんに優しかったからね
まさかと思っていたけど、やっぱり対で動いていたんだ
私達の行動を見ていたのか。
ってことは、この人は……狩人!?
護衛先に私を選んでおいて、狙われる前提で巻き添えで死ぬつもりか!?
今更抵抗はしないよ……
……でも、狼に勝たせる訳はいかない
……あと、抵抗していた四宮さんは狂人
残念だったね……
……二木さんが本物の霊能者だよ
そう語る一ノ瀬さんは、無感情の声で説明する。
つまりは……ここで、私達の敗北エンド。
今回も、私たちの負け。
あなた……まさか!
周防さんも、何か感じたんだろう。
まさか。そのまさかだとは思うけど、この人も……。
ご明察、だね……
ようこそ、地獄のループ世界へ……
わたしは記憶しか引き継げないけど多分二人とは同類かな……?
この人も同じ種類の人間だ!!
ただ、あの変な空間で意識があるわけじゃなさそうだけど……。
そんな分類の参加者もいたのか……!?
そう……わたし達とは微妙に違うのね
私達は記憶を引き継ぐだけじゃない。
詳細のルールも知っている。
でも、一ノ瀬さんは知らないようだった。
だから、微妙に違う。
ふぅん……?
……少しは違っても、そっちも記憶を引き継いでいるんでしょう?
ひ、否定はしないけど……
メタ推理も入っていたようだった。
成程。むしろ状況はもっと悪かった。
この人は、私達よりももっと苦しい思いをしていた。
そういう人もいるんだ……。
……同じ立場だったら、わたしも手を貸すことは出来たけど
今回は……敵同士だし、ごめんね?
いいわよ、今回は勝ちを譲るわ
同類なら、少しは対応を変えるし
金島さん以外には初めて見たわ
大して驚きもせずに納得し周防さんは持っていた武器を仕舞い込む。
まだ時間はある。
いきなり殺すのはやめたようだった。
わたしも初めて見たよ……
同じ陣営だったら、楽だったんだけど……
畳の上に敷かれた布団に座り込む一ノ瀬さん。
薄闇に浮かび上がるシルエット。
凄く幻想的だけど……今から私と一ノ瀬さんは真っ赤に染まる。
この幻想を、儚い一瞬に変えてしまう。
あなたは、今何度目?
?
……回数?
それは……なに?
知らないならいいわ
やっぱりわからないんだ。
前のゲームの記憶だけを引き継げるちょっとだけ違う同類の人。
この人の絶望も、きっと大きいんだと思う。
……次は、味方になれるといいね
ここんとこずっと死に続けているから……
……正直、一度ぐらいは勝っておきたいの
勝てば何かが変わるわけでもないけど……
いつか、抜け出せるような気がするし……
一ノ瀬さん……
わかってないから、心が折れそうになっている。
知っていることを教えても、多分信じてもらえない。
この異常空間の中でも、極めつけの荒唐無稽な話。
誰が信じるものか……。
……はぁ
ほんと、嫌になるわね……
そうだね……
私達は自覚できるもの同士として、呆然とする。
嫌になっても、どうにもできない。
どうにかしたって、抜け出せない。
でも、こうして出会えたことだけは。
互いに、救いだったかもしれない。
でも……こうして、同じ苦しみが分かる人がいるだけ、少しは楽になったよ
前向きだね……金島さんは
絶望し切った目をしている一ノ瀬さん。
でも、三回だ。三回、勝てばいい。
その貴重な一回を、一ノ瀬さんはこれからもらう。
それは大きな前進ではないだろうか。
頑張ろう、一ノ瀬さん
今回の勝利は一ノ瀬さんの糧になる
そのためなら一度ぐらい死んでもいいよ
まだ、先はあるんだもんね!
私には周防さんもいるから寂しくない!
……金島さん単なる能天気だったんだね
しかも優しすぎるよ……
ポジティブと言ってあげて
簡単に心折れない子だから
何か酷いこと言われているけど、別にいいよ!
私はそういう考え方の人間だから。
一度ぐらい、いいもん!
私はもう一回勝ってるし、多分。
あと二回勝てば出られるし、多分!
まぁ、いいか……
じゃあね一ノ瀬さん
次のゲームで会いましょう
必要経費とはいえごめんなさい金島さん
もう一度殺すようなマネをして、挙句に負けてしまうようだけど
いいよ、こればっかは仕方ないし!!
責めたって何も変わらない。
次があるんだ、まだまだ。
だったら、次で頑張ろう。
次は村人になれることを祈って!
一発で殺して欲しいんだけど……
金島さんも苦しむことになる
共倒れの場合似たような死に方をしてしまうらしい。
即死なら即死。
なぶり殺しならなぶり殺しという具合に。
周防さんは何処からか拳銃を取り出して、一ノ瀬さんに構える。
了解
脳天貫いて即死させるから
二人とも目を閉じて
闇が支配する世界。
私は目を閉じた。
次また会えるかどうかわからないけど……
その時は、わたしも協力するね
約束する
ありがとう、一ノ瀬さん
それじゃあ、いくわよ
死ぬ前に、次回のゲームでもしも再び出会えたら。
もう一人、同志が増えてくれる。
これで果てない道のりがまた一つ、楽になれる。
お互いが抜け出せるまで、頑張っていこう……。