私は慌てて意識を……。意識を……?
うぅ、頭が痛い……。
へあぁっ!?
すんませんっ!?
どうしたの?
ぼーっとして?
私は慌てて意識を……。意識を……?
うぅ、頭が痛い……。
大丈夫?
あまり、無理をしないでね?
あ、はぃ……
ええと……
周防澪よ、よろしく
あ、はい……
私は金島旭と言います
敬語はいらないわ
見た感じ、似たような年でしょう?
私は……? ここで、何をして……?
頭がズキズキと痛む。しかも妙に重たい。
何でこんな鈍痛がする?
何かが違うような気が……。
…………
!?
何を考えたか、周防さんなる人が私のこめかみを指先で軽く叩いた。
すると、鈍い頭痛が突然クリアになる。
同時に思い出す。この人のことを。
そうだ、私は……無限地獄の中にいたんだ
次のゲーム!?
もう一度聞くわ
大丈夫?
私に同じ問いを投げる周防さん。
だが意味合いが違う。
この意味は……。
だ、大丈夫……
そう、ならいいわ
ソファーの隣に腰かける周防さん。
目配せで思い出せた? という問いかけだった。
そう。私と周防さんは自覚できるただ二人の同志。
頷くと彼女は軽く微笑んで視線を戻す。
完全に思い出した。記憶に先程の違和感はない。
私は前のゲームで殺されている。
そうか、これは二週目のゲーム……。
前回は初日で追放されてしまったけど……。
はぁ……初めまして、ね
私は十文字リンというわ
!?
前回にいなかった参加者!?
あんな人は……居なかったはずなのに!?
そっか。
条件さえ満たせば、一人ずつ変わっていくんだ。
今いないのは……あの根暗っぽい三滝さんとか言う人だ。
じゃああの人はこの無限ループから脱出した。
で、その補充としてきたのが、あの人ってことか。
…………
……なにかしら?
……ねぇ、わたしと十文字さん
……どっかであったことある?
えっ?
……ないと思うわ、私は貴方を知らないし
……んー……?
あれ、変な反応している人がいる。
一ノ瀬さんだ。
前のゲームで私にも変なこと言ってた。
あれが本来の反応よ
平行世界に影響されているのかしら
多分、何かしらで出会っているのね
でも精々、朧気にしか思い出せない
自覚できるわたしたちが異常なの
うぇぇ……
隣で小声で周防さんが解説する。
一ノ瀬さんが私に話しかけたのは、恐らく同じ理由。
じゃあパラレルワールドの『私』が彼女と関係あったのか?
私自身は知らないけど……。
……で、どうする?
どうすればいいのかわかんないし
大人しくしておくのが吉だと思うけど?
周防さんは補足説明してくれた。
私達この無限ループの世界に閉じ込められた私達は仮初の名前が与えられる。
私ならこの『金島旭』。
これはここだけの偽名で私自身の本名は違うらしい。
と言っても、名前だけはそのままの人もいるらしいけど。
尚、周防さんの名前も全部違うとか。
本来の世界の記憶は全員が封じられているので思い出せないと言われてしまい、私がどんな人間だったのかもわからないままだ。
この情報はあの傍観者から教えられていたと聞いた。
そして、それぞれの名前には必ず数字が入っている。
分かりやすいのは十文字さんや四宮さん。
10と4。
わかりにくくなると私と周防さんの名前の一部。
私は旭の9、周防さんは澪の0。
数字は0から始まり10で終わる。
そういう規則性があると。
はぁ……逢いたいなぁ……
一ノ瀬さんはそう何か小さくぼやく。
それを耳聰く聞いていた周防さんが驚く。
凄いわねあの子……
引っ張られていても覚えているみたい
余程大切なことなのかしら?
連れてこられている限りは思い出せない記憶。
それでも尚、封じられていても滲み出る感情を頭が、身体が覚えている事はたまにあるとか。
そんな風に、周防さんは一ノ瀬さんを観察する。
……なに?
いえ、別に
周視線に気づいて、一ノ瀬さんが首を傾げる。
私達はなんでもないと誤魔化して、流れに身を任せることにした。
二週目の人狼ゲームの開始であった……。
今回は狼か……
これなら勝てるわね
うぇ……狼だ
10人中、狼は二人だけ。
確認したカードでは、相方の名前に周防さんが書いてあった。
本当だ。私と周防さんは味方だった。
金島さん
ここはわたしに任せて
そう周防さんは私に力強く言う。
何という頼もしいお方だろうか。
私は黙って付いていくことにした。
私は人殺しなんて慣れていないし……。
場数だけなら負けていないわ
わたしは最強のプレイヤーだからね
と告げる周防さん。うわチート臭い。
……などと思っていた私のこの頃は、本当に平和だった。
この後、私は恐ろしい目に合うことになる……。
な、何をするの!?
ふんすっ!!
うぐっ……!?
まだ生きてるのね
しぶといじゃない
だけど容赦しないわ
!!
……本当に慈悲もへったくれもなかった。
夜、狼になった私達は一人目の犠牲者を襲撃する。
その一人目が、十文字さんだった。
寝込みを襲われて、抵抗する暇を与えずに周防さんはスパナで頭を殴り飛ばし、それでも痙攣していた十文字さんの首の骨を無理やりへし折った。
私は目を背けていたが、骨の折れる音らしきものを聞いた。
きっと、殺してしまったんだろう。
終わったわ、金島さん
布団を遺体に被せて、周防さんは声をかける。
慣れた手付きで偽装工作までして、後始末を念入りにしている。
…………
人狼になったらこれが最短よ
さっさと殺せばいいの
どうせ次のゲームで生きてるし
クリアするとはいえ、ここまでしなきゃいけないの?
幾らなんでも……こんなのって……。
死ぬのは、痛くて、辛くて、苦しくて……嫌なもの。
そんなこと、私は他の人にしなくちゃいけないの?
まぁ、殺される怖さと痛さを知っている金島さんにやられるのは酷な話よね
だけど、私が死んだら自分でやるのよ
迷ってはいけないわ
じゃないと苦しいのは自分になるの
……
うーん……やだなぁ。
いくら次のゲームで生きてるからって、このゲームの中では死んじゃってるんだよね?
人狼になったときはこんなことするのは流石に……。
まぁ、いいわ
追追考えればいいから
今は、早く戻りましょう
私達は誰にも気付かれずに部屋に戻るのだった……。