村人

…悪いが、お前らを泊めることはできない。帰ってくれ!

 乱暴にドアが閉められ、外につけられた鉄製の取っ手が音を鳴らしている。

アルモ

…困ったわね…

アコード

…別の家をあたってみよう。たまたま、この家の人の機嫌が悪かっただけかも知れない

 ところが、どの家を訪問しても、結果はNOだった。

アルモ

…この集落で、一体何があったのかしら?

アコード

アルモ、あそこに見えるのは、寺院じゃないか?

 俺は、まだ足を踏み入れていないこの集落の方角を指さす。

アルモ

確かに。寺院なら、無碍に訪問を断らないでしょうし、事情を聞きに行ってみますか。

 そう言うと、寺院に向かいながら、剣を綺麗な布で包み出すアルモ。

アコード

…その布は?

アルモ

これは、この剣の魔力を外に放出しないために、特別に作られた布なの。寺院に、魔法を使える聖職者がいたら、この剣はやっかいなことになるから…

アコード

確かに。そんなことも想定して、アルモは旅をしているんだな

アルモ

まあ、ね。この布を手に入れたのは、旅立った後だったけどね…

アルモ

そう言えば、旅の目的はさっき話した通りだけど、旅立ちのきっかけとか、身の上話はまだだったわね…

アコード

ああ。今日の寝床を確保できて、話す気があるなら話してくれ。話す時間は、たっぷりあるんだから

アルモ

そうね

 そうこうしているうちに、俺たち2人は寺院の門前に到着していた。

アルモ

…アコード!何か様子が可笑しくない?

 到着早々、アルモは異様な雰囲気を感じ取り、俺に問いかけてきた。

 鉄製の門は、上部の蝶番が外れ、今にもとれかかりそうになっている。

 中庭を経て数歩先にある寺院の建物に目をやると、木製の入口の半分がボロボロに破壊されている。

 中庭に咲いていたであろう花は無残に踏みつぶされ、見る影もなかった。

アルモ

…何者かに襲撃を受けたんだわ…寺院から、血の匂いがする…

アコード

慎重に、中に入ってみよう

 俺はアルモから譲り受けた、魔力を帯びたショートソードを身構え、アルモはさっと魔力遮断の布を剣から取り去ると、鞘から剣を抜き、目の前に身構えた。

アコード

…まだ、寺院に教団の聖職者がいないと決まった訳じゃないぞ。アルモ、大丈夫なのか?

アルモ

そんなこと、言ってられないでしょ!?それに、ワイギヤ教団は、環境整備を怠らないことで有名なの。門や中庭のあの惨状を見れば、この寺院に教団関係者がいない可能性の方が高いわ

アコード

…慎重に進むしかないな

アルモ

ええ

 俺とアルモは、各々の武器を身構えたまま、とれかかった門には触れず、中庭へと侵入した。

アルモ

…血の匂いが濃くなった。やっぱり、あの寺院の中は…

 アルモの言葉に、想像したくない光景が俺の頭を過ぎる。

アコード

あの中に、この犯人がまだ居るかも知れない…

アルモ

ええ。入口まで来たら、両サイドに分かれて中の様子を伺って、様子が分からなければ1、2、3の合図で突入しましょう!

アコード

了解!

 寺院の入口まで到着した俺たちは、アルモの作戦通り入口の両サイドに分かれ、中の様子を伺う。

アルモ

…暗くてよく分からないわね…

アコード

仕方ない。アルモの合図で突入しよう

アルモ

分かったわ。1……2………3!!

 俺たちは閉じかかっているドアを蹴り開き、寺院内に突入した。

 薄暗かった寺院内部を、オレンジ色の西日が照らし出す。

アルモ

!!!

 俺とアルモは、内部の惨状に絶句した。

アコード

…これは、ひどい…

アルモ

誰が、こんなことを…

 寺院内には、参拝者であろう遺体が散在し、中央の台座には、この寺院の主と思しき僧侶の遺体が横たわっていた。

 その時…

アルモ

アコード!気をつけて!!

 突然のアルモの忠告に、何とか身体を動かし、周囲を見渡す。

 すると、目にも留まらぬ速さで動く一つの影を確認できた。

アコード

アルモ!

アルモ

きっと、犯人よ!

 寺院の中央付近まで突入していた俺たちは、互いを背中合わせにしてその場に立つ。

アルモ

背中は預けたわよ!

アコード

ああ!

 刹那、見えない敵が魔法らしきものを放った。

スピリットドミネーション…

 俺たちの頭上に、紫色の雲のような物体が突然現れたと思った次の瞬間には、それは俺たちを包み込んでいた。

アルモ

いけない、アコード。早く、この場から…うっ…

 その場に蹲るアルモ。

アコード

アルモ!どうした!!

アルモ

…私の…ことは……早く…にげ…て…

 そのまま気を失い、アルモはその場に倒れ込む。

ほほう。私の精神支配の魔法に耐えるとは…あんた、何者だい!?

 顔を上げ入口の方向を見ると、露出の多い派手な服を身に纏った女性が立っていた。

アコード

お前!アルモに、一体何をした!?

何さ、簡単なことさね。精神支配の魔法をかけただけさ。命に別状はないはずさ

それよりも、あんた、魔法に耐性でも持っているのかい!?私の魔法をはじき返すなんて…

 俺は、目の前の女性が何のことを言っているのか、さっぱり理解できなかった。

まぁ、いいさ。その手の物が伊達なのか、試してみるだけさね

アコード

お前は一体何者だ!

レイス

これは失礼。私はレイス。盗賊さ。お前は?

アコード

俺は…アコードだ!

 そう言うと同時に、俺はショートソードを構え、地面を蹴った…

第3話に続く

Episode3「捕縛」 第2話~レイスの襲撃~

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