松江

文化祭、楽しかったですねー

海老名

ん?まだ余韻に浸れるくらい楽しかった?

松江

そうですね。休憩時間中に演劇サークルの劇観てたんですけど、それもすごく良かったので

大月

そっか、良かったねー

松江

あれ?葛西先輩と友部先輩と藤代さんは、観に行かなくて良かったの?

藤代

実は公演の存在に気づいてなかった

友部

同じく

葛西

えっと、うん。公演やってるの気づかなかったんだ

海老名

演劇部の劇って、どんなだったの?

松江

『ハムレット』を短くまとめたやつだったんですけど、すごく演技が上手い子が居てびっくりしましたね

友部

全体的にレベルが高かったわけでは無く?

松江

どうなんでしょう、僕は詳しく無いんであまり言えないんですけど、やっぱり慣れ不慣れは有る感じでした

大月

そっかー

海老名

あれ?誰だろ?

葛西

はい、何かご用ですか?

葛西せんぱーい、お久しぶりです!

葛西

えっ?あっ、あの、どうしてここに?

私もこの学校に入ったんです。それで、葛西先輩が文芸部に居るって文化祭の時に知ってぇ

大月

んー、あなたも文芸部に入りたいの?

いえ、私は演劇部に入ってるんですよ

藤代

それじゃあ、挨拶にきたん?

葛西

挨拶だけならいいんだけど……

実は、葛西先輩にも演劇部に入って欲しくて、呼びに来たんです

海老名

え?でも葛西は文芸部なんだけど

文芸部なんかより演劇部に来ましょう?また演劇やりましょうよ!

葛西

えっと、あの

こんなわかりづらくて陰気なサークルより、演劇部の方が葛西先輩には合ってます

葛西

あの、えっと、私は……

それじゃあ、葛西先輩行きましょう!

葛西

ま、まって、私は

藤代

そこの市民!

えっ?

藤代

演劇も確かに人々を幸福にする素晴らしいサークルですが、文芸部はそれに引けを取りません。個人を尊重し自らの物語を作り出す。グループワークでないと完成しない演劇とは違い文芸は自分のみで完成させる事ができる実に素晴らしく、幸福で完璧な仕事です。もしあなたが文芸に興味を持っていないとするのであればそれは実に不幸な事で有ります。文芸は芸術でありながらも人々の生活に密着し、気軽に持ち歩き、楽しむ事のできる、実に愉快な分野です

えっ?えっ?

藤代

あなたがもし、自らの身にて自らを表現したい、そう思うので有れば、1度文芸の世界に身を投じるべきです。それは恥ずかしい事では無く、閉じ込めていた輝ける物を解き放つ、1つの機会です。さぁ、あなたも文字を綴り、物語を紡ぎ、生活を記録し、文芸の道に入りましょう。我々はあなたを暖かく歓迎します。遠慮する事はありません。あなたも、完璧で幸福な世界へ身を投じるべきです

…………

葛西

…………

……そっかぁ、葛西先輩が夢中になっちゃうのも仕方ないかも

葛西

わかってくれたようで何より

それじゃあ無理は言えないですね。今日はこれで帰ります。
また会いましょう

友部

久しぶりに藤代のプロパガンダを聞いた

藤代

でも、成功率は五分五分ですねー

葛西

あの、藤代、ありがとう

藤代

まぁ、あたしとしてもあんまり文芸部を悪く言われるのは良い気分じゃ無いので

海老名

というか、葛西が演劇やめたのって、あの後輩が原因?

葛西

あの後輩というか、演劇部の他の後輩もというか

大月

まー、いくら好きな事でも、周りから過剰な期待かけられるとつらいよね

松江

葛西先輩も、苦労したんですね

葛西

そうだね。なんか、理想を押しつけられてる感じでつらかったんだ

松江

理想はあるに超した事は無いですけど、他の人の期待全てに答える必要は無いんですよ

葛西

……うん。そうだね

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