夕暮れ、日はまだ落ちない中。
訪ねてきた女性に凛香は戸惑った。
何故なら唐突に訪ねてきた見知らぬ女性は、これまた唐突に一宿一飯を求めてきたからだ。
え、ご飯と布団ですか?
夕暮れ、日はまだ落ちない中。
訪ねてきた女性に凛香は戸惑った。
何故なら唐突に訪ねてきた見知らぬ女性は、これまた唐突に一宿一飯を求めてきたからだ。
うんうん。一宿一飯、寝床とご飯をくれれば何でも作ってあげるからさ。
胡散臭いですよ!
確かに女性の言葉はうさん臭い。
なにせ身一つ服一つ。
後の荷物は背負い袋が一つだけという風体の女性が、何でも作れるといっても説得力がないのも致し方なし。
やっぱり怪しいかー。じゃあ何か希望の物をいってみて?お試しの代価ってことで作ってあげるから。
その胡散臭さとは裏腹に妙に自信に満ちた様子で女性は女の子を見下ろして言葉を待つ。
そんなこと言って!じゃあ伝説の霊薬えりくしるでも作ってくださいよ!
からかわれていると怒ったのか、語気も荒く言い放った少女に、笑顔を崩さず女性は言った。
そんなのでいいの?私は構わないけど。
え?なにか含むところがあるんですか?
いやねー。えりくしる作るのはいいんだけど……貴女それを本物だと鑑定できる?信じられる?
ちなみに作るとこんなのだけど。
ぱっと手を振り、その手中に柔らかい個体のような紅色の液体が入った小瓶を揺らして少女に見せて。
次の瞬間ぱっとその瓶は姿をなくす。
へ?えええ!?なんですか今の!
えりくしる、ね。
慌てる少女に女性は穏やかに、なんでもないという口調で答えた。
凄い凄い!宿でもご飯でもどうぞあがっていってください!
興奮する少女の額をひと突きして、女性は笑う。
貴女本当に人がいいというか、単純というか。
なんですか!単純って!
あのね。今のえりくしるが本物だってどう見分けるの。
え、それは大店に持ち込んで鑑定してもらって…。
ダメダメ無理無理。
伝説の薬の真贋を見極められるような人間はどこにもいなわ。
誰も伝説でしかしらない、実物に触れたことがない物を本物だと判断することなんてできない。
なのにそんなにあっさり話に乗っちゃダメでしょ。
う、ううん?言われてみれば確かに……でもぱっと出てぱっと消えたし。
ちょっと弱弱しく不可思議に出てきたものだから素敵な物だと言いたげな女の子に、女性は言った。
ぱっと出してぱっとしまうくらい手品の内に入るようなものよ?
むしろ怪しまなくちゃ。
はい…すいません…。
ところで泊めてほしいんだけど何か欲しいものはない?
なんで自分で簡単に信じちゃだめっていった直後にそうなるんです!?
まぁそこは私の能力の制限というか。
制限?
少女はきょとんとして女性を見つめる。
自分の欲しい物は作れない。
誰かとの取引で望まれたものしかつくれないのね。
望まれたものだけ作るんですか?
そうなるわね。
さっきの話の続きになるけれど、この場で作られて信じられる物だけ欲しがりなさい。
その方がお互い納得できるでしょう。
んー。なんだか難しいけど解ったような。
解らないような…。
まぁ簡単に言えば。
処分に困らないものをお願いしてもらうのが助かるかなーってこと。
じゃあ……よく切れる、包丁。
この間刃が欠けちゃってちょっと不便なので。
はい、包丁ね。これをどうぞ。
手首をくるりと廻して木の鞘に収まった出刃包丁を女性は少女に渡す。
わっ。ありがとうございます。
金物なんてもらって一宿一飯でいいんですか?
一先ずはね。
でもあなたなんだか心配だからしばらくお邪魔するかも。
私は金手。
貴女は?
あ、私は小紅です。えっと、お茶を出しますからひとまず入ってください。
はいはーい。お邪魔しまーす。
こうして夕焼けの中一人の女性が、女の子の家に泊まり込むことになったのだった。