芹羽

海だー!

浩太

海だー!

待ちに待った海水浴当日。
海水浴場に着くなり芹羽と浩太の二人は大声で叫んだ
よほどこの日が待ち遠しかったのだろう

ホント……二人は子どもみたいにはしゃぐわね

後ろから静が呆れ顔でついてくる

海なんて久しぶりに来たなぁ

灼は元気だなぁ……

元気な灼と対照的に元気のない悟。
何ともテンションにばらつきのある5人である。

芹羽

めったに来ない場所なだけあって、海っていいよね~

そうね

浩太

いや~
癒されるね~

芹羽

どこ見て言ってんのよバカ

3人の楽しそうな声が響く中悟はパラソルの下から出る気配を見せず、それにつきそう灼もまたパラソルの下にずっといた

…………

ホントに出る気ないのね……

あぁ……

わかったわ
でも、一つだけお願い
ついてきてほしい場所があるの。
きっと悟にも喜んでもらえる……というより、悟が喜びそうな場所があるの

……わかった

灼はビーチバレーで遊んでいる芹羽に駆け寄り、何かを話した。
少しして、灼は駆け足で戻ってきた

じゃ、いこっか

灼は悟を岩場のほうへと連れて行った。
海水浴がしやすい場所というわけでもないこの場所には、ほかのお客さんもあまり見られなかった

なんでこんなところに連れてきたんだ?

悟、前に水族館に行ったときすごく楽しそうだったから、海の生き物とか好きなのかなって思って

それで?

だから!
こういう場所なら!
悟も楽しめるかなって思ったの!
……ほら、貝とかいるし……
私にはあんまり分かんないけど……

だんだんと自信がなくなっていったのか、灼の声が少しずつ小さくなっていった。

側にあった貝をつつきながら灼は言葉を紡いだ。その隣に悟るはしゃがみこんで、その手をつかんだ

な、なに?
急にどうしたの?

不用意に触らない方がいいよ
こういうところにいる貝の中にも毒を持ってたりするのもいるから

ご、ごめん……

灼は再びしおれてしまった。
悟はうなだれる灼の頭を少し乱暴になでた。

なにすんのよ

俺が楽しめるように考えてくれたんだよな
ありがとう

悟……

俺は、灼が笑ってるだけで十分だから
無理に気を使わなくてもいいんだよ
灼が楽しく遊んでる姿を見せてくれよな

悟はそう言って元来た道を歩きだした

バカ……

灼の言葉は岩場に打ち付ける波に打ち消された。

芹羽

楽しかった~!

浩太

ホントに楽しかったぜ
誘ってくれてありがとな

また行きましょうね

日が暮れ、3人ははしゃぎながら海岸を後にする。

あの後は結局、悟がパラソルの下から動くことは無かった。

見かねた灼は最終的に3人に混ざってはしゃいでいた。

悟……ありがとう

突然出てきた感謝の言葉に、悟はキョトンとした顔を返す。

なんでって顔してる。
私のことずっと見てくれてたの分かってるよ
ありがとう

これは灼の素直な気持だった。

悟は、頑なにパラソルの下から出てこようとはしなかったが、それと同じくらい頑なに、灼から目を離さなかった。

そんなことか……
楽しいからやってただけだよ

相変わらず悟はぶっきっらぼうに返す。

そんな愛しい彼を見て灼は微笑み、彼の左腕にしがみついた。

二人の様子をアツいアツいとはやすように太陽は沈み。
二人を見守るように月が顔を出し始めていた。

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