ワンボックスバンは再びトンネルの壁面に激突してやっと動きを止めた。

マスター

……大丈夫か、ハル


束の間の放心状態を解いてマスターがハルトに声をかける。

ハルト

ああ


首をなでながらハルトはうなずいた。

マスター

……怪我はないか?


マスターが後部座席に声をかける。

ヒトミ

私は大丈夫よ


ヒトミが思いの外気丈な声をあげる。

ヒトミ

でも、この人が……



ヤマサキが後部座席でぐったりとして苦しそうに喘いでいる。
 
頭部から血を流しているようだ。

マスター

先生、大丈夫か?



マスターがグローブボックスからタオルを取り出しヤマサキに渡した。

ヤマサキ先生

ああ、頭を少し打ったようだ。大したことはない。このまましばらく横になってたら痛みも治まるだろう



ヤマサキは側頭部から流れる血をタオルで押さえながらそういった。

ヒトミ

でもやったわね、アイツを



ヒトミがはずんだ調子でハルトに向かってそういった。
 
ハルトはそれを無視して正面を向いたまま助手席に座り黙っている。

ユキオ

ひでえなあ、サスペンションがイカれてる。もうこの車は使えねえな、もう諦めるしかないか



車外に出たユキオが大破したバンを眺めると薄笑いを浮かべていった。

マスター

諦めるっだって? ふざけやがってこの野郎!



マスターが車から飛び降りてユキオに掴みかかる。

ユキオ

うるせえ! そんなにカリカリすんじゃねえよ、あの状況で命が助かっただけでも儲けもんじゃねえか!


ユキオも怒声を上げる。

マスター

オレは家族を助けなきゃいけないんだ。脳天気な事いう奴はぶっ殺すぞ!


マスターは拳銃をユキオに見せつけるようにして叫ぶ。

ユキオ

オレを撃ちたいなら撃ってみろよ、あんたの腕じゃあ当たりゃあしねえだろうがな


マスター

もう一度言ってみろ。オマエの頭ぶっ飛ばしてやる

ヒトミ

いい加減にやめなさいよ! 喧嘩してる場合じゃないでしょ


二人に割って入るヒトミ。

ヒトミ

方法を考えるのよ、今はお互い協力が必要でしょ



マスターとユキオは敵愾心を剥き出しにしたまま睨みあっている。

マスター

時間がないんだ、車が使えないなら歩いて行く。車は途中で探せばいい

ユキオ

歩くだって! オレはゴメンだぜ、歩きたきゃ一人でいけよ



ユキオ───乾いた笑い声

マスター

この糞ガキが! さっきまっでびびり上がってたくせにヒラヤマがくたばったとたんに調子こくんじゃねえぞ!

ユキオ

なんだって! てめえ、ぶっ殺すぞ!



堪えきれずにユキオがわめき散らしたその時

ヒトミ

待って! 車が来てるわ!


ヒトミが叫びながらトンネルの出口の方を指差す。
 
近づいてくるヘッドライトの光が見えた。

ユキオ

マジで車が来たぞ、ツイてるな










マスターに向かい皮肉を含んだ調子でユキオがいった。








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