ふわふわと浮いているような感覚…悪くない。でも、俺は知ってる…このふわふわが終わる時、俺は死ぬんだ。ようやく、ずっと待ち続けてきた死が、俺の元に降りてくる…。
でも、そうだな…一つだけ心残りがあるとすれば……
ふわふわと浮いているような感覚…悪くない。でも、俺は知ってる…このふわふわが終わる時、俺は死ぬんだ。ようやく、ずっと待ち続けてきた死が、俺の元に降りてくる…。
でも、そうだな…一つだけ心残りがあるとすれば……
ーーシルフ!!
あいつを、守りきれなかったこと…
ーーこんなに月が綺麗に見えるのは、あなたが隣にいるからかな?
そうだ…あいつに初めて言われた言葉…よく覚えてる…俺が男だと知った時の、あの間抜けな顔も、羽飾りをくれた時の、わけのわからない顔も…俺を騎士にすると言い放った時の、決意に満ちた顔も……
俺の世界には…いつもあいつがいた…あの日以来、あいつがいなかった世界なんて、なかった…あいつが消えたことなんて……なかった……
僕が君を守る。だから、君は僕を守って…僕らは、一蓮托生。それで、いいかな?シルフーー
ああ、本当に…俺は約束を破ってばかりだな…あの時だってーー。
へぇ、これで金貨3枚なら安いな…男なら孕ませる危険もねえし…また頼むぜ、白髪
…………
小屋から男が出ていき、そこには俺だけが残された。体液だらけになった体をシーツで乱暴に拭い、襤褸切れ同然の服を纏う。
っぐ……
あのクソオヤジ…無駄に激しくしやがって…これじゃ明日1日はまともに動けねえ…
片手を壁につきながら小屋を出て、迎えの馬車に乗り込んだ。
おかえり、タナイスト。今夜の稼ぎはどうだった?
金貨3枚…手元に残るのは1枚だろうな
ふうん…お前さ、もっと高くしても売れると思うぜ?俺ならお前に金貨5枚出してやるよ
なんだ、ヤりたいのか?
今月はもう金欠なんだ。また今度頼むぜ
金を出すならいくらでも相手になってやる。せいぜい良い金蔓になってくれよ
はん、ホント口悪いな…客が今のお前を見たらなんて言うかね?
そんなの知らん
お前らしいや…ああ、そうだ。一週間後、また公爵様からご指名が入ってるぜ
公爵様…?ああ、あのデブか
それ絶対本人の前でいうなよ…何でも、来週の外交パーティーで恋人役をしてもらいたいんだとか
まて、俺は男だぞ?女は?
お前がいいんだと。まあ、俺が同じ立場ならお前選ぶと思うな。お前、自覚ないだろうけど、そうとう美男子なんだぜ?
俺が美男子ね…目ぇ腐ってんじゃねえの?
またそう言う…ほら、ついたぜ
ありがとう
……送迎の馬車がついてるのもお前だけなんだぜ?館主が、お前に変な虫が付くと困るからって…
……俺につけるなら女につけてやれ…ま、便利だから使わせてもらうが…
まあ、そうだな…俺としてもデメリットはねえし…
御者の顔がニヤリと歪む。運賃の請求だろう…俺は御者台に上がり、そいつの唇を食んだ…これが、こいつへの運賃だ。
へへっ、毎度あり
馬車が見えなくなり、唇を拭う。そして、目の前の娼館には入らず、すぐそばの茂みに駆け込む…。
う……ぐ……げほっ……
胃の内容物をすべて吐き出し、涙目になりながら荒い呼吸を繰り返す…気持ちが悪い…
ぐ、う……クソッタレ……
吐き気が収まると、俺は1度深く呼吸をして、娼館の中に入った……。
これが、俺の…シルフ・タナイストの日常だった。ずっと、死ぬまでこんな地獄のような日々が続くと思っていた…あの日、あいつに出会うまではーー。