ーートワイライト・ホテル

よく眠った次の日はとても気分がいい。俺は出国の準備をして、ルナとネプトと共に、ロビーでアルマとシルフを待っていた。
しかし、どんなに待っても彼らが来る様子はない…どうかしたのかな…?

ルナ

遅いわね…アルマに何かあったのかしら…やっぱり病院連れてった方が良かったんじゃ…

アルト

昨日、なんか具合悪そうだったしな…俺、ちょっと見てくる。2人はそこで待ってて!

ネプト

…….ん、分かった

ルナ

いってらっしゃーい

一度部屋がある階まで戻り、二人の部屋を尋ねる…あれ…鍵空いてる……?

アルト

アルマ、シルフ…?大丈夫か…?

ゆっくりドアを開け、中に呼びかけるも反応はない…ますます心配になった俺は、そのまま部屋の中に入った……でも…

アルト

…….え…?

部屋には既に何もなく、もぬけの殻だったーー。

ーーロビン義賊団アジト・書斎

ルナ

どういうこと…?ふたりが消えちゃったっていうの…!?

ネプト

…………

アルト

うん…係の人に聞いたら、昨晩チェックアウトしたって…

ルナ

あたしたちに黙って…?どうして…

場所を移し、俺たちは義賊団のアジトにいた。昨日はすぐに国を出ると言ったが、よくよく考えると、俺たちは希望神殿に関しての知識が全くなかった。そのため、文献が豊富な此処で、希望神殿への道についての情報を集めることになっていたのだが…

ウィル

おひいさん…もしかして、まだ話してないのかい?

ルナ

え…?話すって…?

ネプト

………ああ…そういう取引だったからな

アルト

ネプト…もしかして、何か知ってるのか?

ネプト

………ああ、悪い。

ネプト

アイツ……シルフな。モーヌスーンで、アルマとシープラを探しに行った時、ちょっとした取引をしてなーー

ーー数日前・モーヌスーン

ネプト

…で、お前の目的は何なんだ?お前は…何者だ?

シルフ

アルマを守ること…そして、あの子を生き返らせること。それだけだ。

ネプト

………それはどういう意味で?

シルフ

騎士として….って、言いたいところだけど…俺にはもうその資格がない…だから、今度は番人として…

ネプト

番人?

シルフ

勉強熱心なお姫様でも知らないことがあるんだな。

シルフ

番人ってのは、スコアゲームにおいての『奏者』を守るための者らしい…俺は、『神』からその役目を任された…役目を全うし、奏者を守り切れれば、願いを一つ叶えてもらえる…。俺は、それで…

ネプト

…神……そんなものが、本当に…?

シルフ

いるんだと…俺…多分、お前は察してるんだろうが…悪魔なんだよ

ネプト

………大罪を犯した魔族のことを言うんだっけか…お前が?

シルフ

ああ。割と有名な方だと思うが…ソドモの悪魔…知ってるだろ?

ネプト

へえ…まさか、生きてるうちにソドモの悪魔に会えるなんてな

シルフ

白々しいな

ネプト

そう言うなよ

シルフ

あいつは、それでキュートスに収容されていた俺をいとも簡単に逃がした…そんな事されれば、信じるしかないだろ

ネプト

へえ…そんなこと出来るやつがこの世界にいるとはな

シルフ

あんなこと、二度と起こしたくねえんだ…だから、今度は失敗できねえ…二度もアルマを死なせたりはさせない…誰にも殺させない……

ネプト

………で、その邪魔をするな、と

シルフ

ああ。その代わり、俺はお前の正体を黙っててやる

ネプト

ハイリスクローリターンじゃねえか?

シルフ

邪魔をしたら命の保証はしない

ネプト

おっと、それは怖い

シルフ

約束、守ってくれよな…俺、嘘つきは嫌いなんだ

ネプト

ふうん…でもそれ、お前も相当な嘘つきになるんじゃねえか?

シルフ

ああ。その通りだ…だから俺は…

シルフ

自分が大嫌いだ…守りたい人の一人も助けられない、自分が…

ーー時戻って・義賊団アジト

ルナ

つまり…シルフは奏者を守るためのもの…スコアゲームの阻止が目的だったってこと?

ネプト

そういうことになるな

書物を読みながらことの発端を話し終えたネプトは、目的の情報がなかったのか、そばに置いてあったほかの書物を開き、その文字を追い始めた。

アルト

……それで、アルマが今いないってことは…

ルナ

今回の奏者はアルマだってことだね…

アルト

でもどうして攫う必要が…?奏者を守るって言ったって、奏者はこのスコアを演奏するだけの存在だろ…?そんなに大掛かりなこと…

おいおい甘いぜアルト?

突如、室内に聞き慣れない声が響いた。驚いて首を巡らすと、転移魔法のオーラが出現し、二人の人物が現れた……!

アミス

よっ、久しぶり、アルト…それから…ルナ

アルト

テナ、アミス…!

ルナ

お久しぶりしたくなかったわね…

正直もう希望神殿に行くまで会わないんじゃないかと思ってた…てか、甘いって…?

ネプト

へえ…アルト、そいつがもう一人のスコアホルダーか?

ウィル

女の子なんだ…ちょっと意外だね

アミス

お初にお目にかかります、義賊団団長殿、そしてその部下殿…あなた達の言う通り、この少女こそ、もう1人のスコアホルダー…アルトの敵にして、スコアゲームを制する者…テナ・ホシカワ…そして俺は、そのパートナー、アミス・ブライン…どうぞ、お見知りおきを

ネプト

随分な余裕だな

アミス

もちろん、この俺がパートナーで、なおかつ彼女は…利用することに抵抗を覚えませんのでね?

利用…?抵抗…?

ネプト

なあ、その喋り方…なんかむず痒いからやめてくれねえか?まるで…

ネプト

全部見透かされてるみたいで、不快だ

アミス

おっと、それは失礼…んじゃ、遠慮せずに行かせてもらうぜ?

アルト

アミス…あの、さっきの、甘いって…?利用って?…抵抗って、なんだよ…?

アミス

………

アミスはたっぷり10秒は間を置き、口元に笑みを浮かべて話し始めた。

アミス

アルト…一つ聞きたいんだけどさ。なんの犠牲もなく成立する願いなんて…この世にあると思うかい?

アルト

えっ……

アミス

答えはな…そんなもんねえよ。この世にも、あの世にさえ…存在しねえ

ルナ

何が言いたいの…?それでアルトを困惑させるのが目的?

アミス

ルナ…お前の頭はいつになっても残念だな

ルナ

なっ…!!

アミス

なんの犠牲もなく叶う願いなんてない…それはスコアゲームも同じこと…ここまで言ってもまだ分からないか?

スコアゲームも同じ…?………まさか…

アルト

……奏者は…アルマは、このままだと、犠牲になる運命にあるって、こと…?

アミス

せいかーい!お見事!!

アミス

でもさぁ、アルト。もっとはっきり言っていいんだぜ?

アミス

奏者を殺さなきゃ、願いは叶わないってさ?

嘘だ…そんなの、聞いてない…!!

ルナ

そんな…じゃあ、シルフがアルマと消えちゃったのは…

アミス

逃げたんだろうな。希望神殿に

ネプト

……相変わらず、趣味悪いゲームやってんだな…ここを作った『神様』は…

アミス

………まあな

アミス

んで、テナはそれを躊躇うような事はしない…でも、アルトはどうだ?今まで一緒に仲良ししてたやつを…殺せるか?

アルト

………俺は……

………無理だ……そんなこと…できるわけ、ない……。

アミス

出来ないよな?出来るわけないよな?お前にはそんな度胸も腕もない!!……そういう訳でさ…

アミスは俺に手を差し出した…これは…?

アミス

ゲームを辞退して、スコアをこちらに渡してくれないか?

アルト

えっ……?

スコアを…?

ルナ

アルト…!

アミス

奏者を殺せない者に、願いは叶えられない…それなら、もうこっちに願いを叶える権利を明け渡してくれよ…その方が、お前もテナも傷つかない…平和的だろ?

アルト

…………

確かに、そうだ…でも、ここでスコアを渡したら、圭は…?

ネプト

…やめとけ、アルト。

アルト

え…?

アミス

おやおや、変な横槍が入ったね

ネプト

お前はいままで、何のためにここを旅してきた?願いのためだろ?
そいつにスコアを渡すってことは、それがすべて無駄になるってことだ。

アルト

……でも、俺には…

ネプト

…アルト、なんか引っかからないか?

アルト

え…?

ネプト

奏者を殺さなきゃ願いを叶えられないなら…番人はどうやって願いを叶えてもらうんだ?

アルト

あっ…確かに…

アミス

…余計なことを

ネプト

あのな…

ネプト

俺、そうやって人の足下ばっか見て、自分の利益にしようとするヤツ、大嫌いなんだよな…

アミス

ふうん…そうだね。

アミス

俺も、無駄に察しがよくて、計画を頓挫させようとするヤツは大っ嫌いなんだ…お前とはわかり合えそうにないな?

ネプト

そうか。それはよかった…なら話は早い。

ネプト

今すぐここから出て行け…そして、二度と俺の前に姿を現すな…!

ネプトが言うと、アミスはやれやれと首を振り、テナを振り返った。

アミス

だってよ、テナ。どうする?

テナ

…奏者がここにいないとわかった以上、ここに用はないわ。
さっさと希望神殿への道を探しましょう。

アミス

さすがテナ。聡明な選択だ…

アミス

それじゃ、俺たちはここで失礼するよ。…アルト、ルナ。

アミス

次は希望神殿で、殺し合おうじゃないか。

アルト

っ!?

ルナ

ころッ…!?

テナ

…ヒカミ…私は、負けない…必ず…!

そう言い残し、テナとアミスは消えた…俺は緊張感から解放され、大きく息をついた…

ウィル

大丈夫かい、アルトくん

アルト

……なんとか…

ネプト

……アルト

ネプトが書物を伏せ、俺の頭をぽんぽんとたたいてきた…

ネプト

諦めんな。道は必ずある…必ず…。

アルト

…う…

どうしたら良いのかわからない…誰かを殺さなきゃ、圭は助からない…でも、そんなことできないし、ましてや別の道なんて…そんなもの、なかったら…!

アルト

俺…どうしたら良いんだ…

自然にあふれ出した涙を、俺は止めることができなかった…どうしたら良いのか、その漠然とした不安に、押しつぶされそうだったーー。

ーー???

シルフ

ん~~!!
良い景色だな…ほら、見ろよアルマ!こっからだと、全部見えるみたいだぜ!

アルマ

……ここが…ラムゴ…?

シルフ

ああ。もう、ほとんど面影ないかもしんないけどな…

アルマ

……ここ、覚えてる…きがする…

アルマ

あそこに、花売りの女の子がいた…その先に、マルシェがあって…青果店のおばさんが、よく、りんご飴をくれた…

シルフ

そうそう!!
あれおいしかったよな…たまに花売りの子にやって、花と交換してもらったり…

アルマ

…うん。そうだった…僕、その飴が好きで…懐かしい…

シルフ

ことが全部すんだらさ、作ってみないか?
あんなに上手くできないかもしんないけど…

アルマ

………うん

シルフ

……アルマ…シューのことは…?

アルマ

……ごめん…その子のことは、まだ何も…

シルフ

そっか…

アルマ

…ごめん…

シルフ

いや、謝ることなんかないって!!

シルフ

ゆっくり思い出せば良いんだ…あと一日はいるし…

アルマ

…一日しかいない…

シルフ

その後は希望神殿に行って終わりだ。
シューとはそこで会えるし…だから大丈夫!

アルマ

………

シルフ

さーてと、次はどこ行くかなー

アルマ

……シルフ…

シルフ

ん?どうした?

アルマ

…僕は、どこで死んだの?

シルフ

……いや…そこは…いいんだぞ、行かなくても…

アルマ

……いきたいんだ。多分、そこにけば、その…シューのことも、ちょっとは…

シルフ

アルマ……良いのか、本当に?

アルマ

……うん

シルフ

……わかった。

シルフ

気分が悪くなったら、すぐに言えよ。
すぐ、移動すっから。

アルマ

………うん…ありがとう…。

………アルマ…シルフ…

誰か…あの子たちを…

たすけて

第七楽章 シュー、託す 1

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