雨が降る。
雨が降る。
雨粒と傘が
速いリズムを刻む。
その音に急かされるように
歩む速度も速くなる。
小さな行燈を持った子供たちと
すれ違った。
片手に行燈を、
そしてもう片手はしっかりとつないで。
だって、つないでいないと
離れ離れになってしまうもの
月の色をした髪の少年は
生真面目な顔でそう言った。
離してしまったら
もう、会えないんだよ
しっかりと手を握り直し
身を翻す。
引かれて行くもうひとりの
藍玉のような瞳の色に
昔、失いかけたものを思い出す。
手を離してしまった。
簡単に取り返せる、と思ったのが
間違いだと気づくのに
そんなに時間はかからなかった。
今日は七夕。
この星の向こうには、
たった一度の逢瀬を待ち望む者が
いると言う。
年に一度でも
会える機会があるのなら
彼らは幸せだろう。
会えなくても
また翌年に
望みを託すことができる。
……
それに比べて自分はどうだ。
何年も何十年も
会える望みすら奪われて。
会いたい、と想う気持ちも
会えない、と流す涙も枯れ果てて。
諦めてしまえ
と、囁く声に呑み込まれて
それなのに
こうして
一縷の望みをつなぎ続けて。
……さぞ滑稽に見えたことだろう。
離してしまったら
もう、会えないんだよ
そう。会えないんだ。
わかっているよ、そんなことは。
だからもう、
離さないって決めたんだ――。
雲の切れ間から銀色の光が射す。
ああ、あれは月。
見ればもう
半分ほど
速い流れに溶けかかっている。
ごうごうと音を立てる流れに
月は
銀色の光の粒を放ちながら
崩れていく。
遠くに灯りが見える。
ゆらゆらと揺らめいている。
凍てつく風に
今にも消えそうになりながら。
その光に、
知らずと笑みが零れた。
流れに足を踏み入れると
小石が
金色の耳飾りのように揺れた。
……待っていて
きっと、そこへ行くから。