……待った?
行燈を手に立ち尽くしている人に
傘を差しかける。
またこんなに濡れて。
傘を差すとか雨を避けるとか、
そう言うことは考えないのだろうか。
この人は。
頬を伝う滴は雨なのか
それとも違うものなのか。
手を伸ばすと
それを避けるようにして
濡れ羽色の髪が肩に当たった。
待った
見上げてくる藍玉の瞳。
待ったよ。何年待ったと思う?
……うん
きみの光が、僕を導く。
昔も
今も
この先も。
何年かかっても
きみがどんなに変わってしまっても
僕はきっと
きみに辿りついてみせるよ。
必ず――。
水面を行燈が流れていく。
小さな願いの灯りは
いつしか
無数の星の瞬きに変わる。
手を取ろう。
離れないように。
もう、離さなくてもいいように。
冷たいね。
氷になったみたいだ
……誰のせいだと
そうだね、ごめん
喧騒が遠くなっていく。
足元で行燈が
ジジ、と小さく鳴って
消えていった。
あの子供たちは、
なに
うん、
なんでもない
ちゃんと、帰って行けただろうか。
迷うことなく。
手を、
離すことなく。