雨が降る。
雨が降る。
見上げれば一面の薄灰色。
もうそれが空を遮る雲なのか、
それとも
空自身の色なのかもわからない。
街のあるほうを眺めれば
小さな行燈を手に
歩いて行く子供たちの姿。
願いを込めて川に流すのだと言う。
おひとつ、と
差し出された灯りは
無垢なまま手元を照らしている。
風が吹く。
こんな天気だからだろうか、
初夏と言うには肌寒く感じる。
むき出しになった腕に触れると
ひやりと冷たい。
……氷になったようだ
なんて考えがよぎり、
そんなことを思ってしまった自分に
小さく笑う。
さらさらと聞こえる音は
笹の葉擦れだろうか。
色とりどりの紙片が
願いを紡ぐ声だろうか。
それとも、
星々が作り上げた川の
せせらぎだろうか。
音が
大きくなった気がして目を開けた。
目の前の川は
ごうごうと音を立てて流れている。
さっきまで白かった空は
闇に包まれ
そこに
月だけが浮かんでいる。
月が放つ銀色の煌めきが
水面を撫でる。
撫でた端から
きらきらと小さな光が零れ、
それが
あっという間に流されていく。
後ろを振り返った。
!!
誰もいない。
街も、祭りの喧騒も聞こえない。
たったひとり。
手にしている行燈の灯りだけが
ゆらゆらと揺れている。
ここにいます――
張り上げた声は
風と飛沫に掻き消えた。
ひとり。
誰もいないこの河岸に。
僕は、
……
どれだけ待ったことだろう。
会いたい、と想う気持ちも
会えない、と流す涙も奪われて
もう
それが自分のものだったかすら
わからなくなってしまった。
諦めてしまえば
楽なんだよ
と、囁く声に
呑み込まれてしまいそうになりながら。
早く。
早く。
ここに来て。
自分が
自分でなくなってしまう前に――
震える手で行燈を抱える。
気づくだろうか。
見えるだろうか。
辿りついてくれるだろうか。
この流れを越えて。