『柳井 成瀬』!!
迷宮学園のカウンセリング室!
そこには性別不詳のカウンセラー!
真実を知るものは誰もいない!
そんな謎だらけのカウンセラーの名は!!
『柳井 成瀬』!!
この物語は、そんなカウンセラーがやってくる生徒たちの思いや悩みや考え事を『ぶった切る』話なのであーる!!
ってなーに大げさに話してんだか。
アホかあいつら。はっはっはっ
私立・迷宮学園。の中にあるカウンセリング室。
メガネをかけた、中性的な人物が足を組みながらそんなことをつぶやいて笑って見せた。
そしてその手元には、まだつけたばかりであろう紙巻きたばこが、紫煙を立ち昇らせていた。
はいどーん!!
そんな空気を打ち破るがごとく、扉を勢いよく開けて、1人の女子生徒が来る。口元にはおそらく手元に握られている焼きそばパンなのであろう食べ残しが、ホクロのようについている。
煙草を吸っていたその者は、すぐさまにそれを消し、窓を開けて換気扇をつけた。
お前なあ…何度も言ってんだろ。
その人物は突然やって来た女子生徒に対し、笑いながらこう言った。
扉は閉めろってな。
いうことはどこが間違っている気がするが、女子生徒はそれに何の疑問も持たずに「はーい」とだけ言って、ちゃんと言葉通りに扉を閉めた。もちろん、勢いよく。
それをみたその者は満足そうに、よし、とつぶやいた。
にしてもお前はいっつも元気だなあ。
そりゃーねっ!騒いでないと落ち着かないっていうか!!
ま、その元気をぜひとも勉学にも移してもらいたいんだが…お前この前赤点とったろ。4教科。
う…ぬぬぬ…ぐぐぅ……痛いところを…
その調子じゃ、今回もヤマは当たらなかったみたいだな。そりゃそうか。
なんせお前、前ここにきて見てた範囲が、ひとつ前のテストの範囲だもんなあ。そんじゃあ赤点取るわな!ははははは
ちょっとー!!気づいてたなら教えてよ『ナル先生』!!ていうか笑わないでよー!!
アホ、教師はこまけーテスト範囲教えらんねーの。ひいきされたみたいに言われるからな。つーか気づかねーお前もお前だろ。ま、これに懲りたらしっかり確認することを覚えような『焼きそばパン子』。
だーかーらー!変な名前つけないでよー!!ナル先生!!
迷宮学園のカウンセリング室。
そこは思い思いの心を持った生徒が集う場所。
そしてそのカウンセリング室の主は―――
ワタシ?ワタシはただのカウンセラーだぜ?『柳井 成瀬(ヤナイ ナルセ)』っつー名前のな。
性別過去経歴一切が謎に包まれた、
『柳井 成瀬』というカウンセラーである。
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
そして同時に、昼休みの始まりを告げる。
その瞬間、一部の生徒は購買やら食堂やらへと駆け込んでいき、また一部の生徒は机を自由に動かして弁当を広げる。
そんな中カウンセリング室には、煙草のにおいと外から入り込んでくる風が、複雑に入り混じっていた。
今日も元気だなー、ガキどもは。
そのカウンセリング室の主、カウンセラー柳井は、煙草をくゆらせながらそんなことをぽそりと出す。
しかし、そんなゆっくりとした空間を打ち破るがごとく、扉があけられる。
うぃーっすナルセンセ。
おお、『デコ見せ』。来たんか。珍しいな、昼休みに来るとか。
いやー、ちょっと教室いづらくてさー。この通り逃げてきたわけよ。ここでお昼食わして♪
デコ見せ、と呼ばれた男子生徒が部屋に入ると、柳井は煙草をすぐに消して煙を外へ撒いた。
ん、どういうことだそりゃ。
柳井がそういうと、デコ見せは頬をポリポリとかきながら、少し困った笑みを浮かべて話し始めた。
ことの発端は、今日のLHRになるんだけどさー…
そん時の時は『性差別』について話し合ってみようって議題でさー。
当然教室は盛り上がったわけだよ。っつってもまあ、みんな口を大にして言いたいことを言い合ってただけだったんだ。
俺はそんな中、何も言えなくてよ。
いや、正確には言ったは言ったんだけどさ…
今は女子が発言してるの。
男子は黙ってて頂戴!!
いやお前の発言終わったろ…だから話そうとしてたのによー…って言ったら『話は最後まで聞け』ってさー。
そういうことで結局発言すらさせてもらえなかったんだ。しかもそのせいで男子が黙り込んじまって。
んでそれを皮切りに、女子があーだこーだ言い放題なわけよ。
大体、今の世の中は男尊女卑が過ぎるわ!!
寿退社とか見栄えがいいように言ってるけど、あれはただの『会社から追い出されただけ』だわ!!
そうそう、産休とか育休とか取ろうとすると、すぐに退社しろって言ってくるし、結婚しない人に向かっては『早く子供を産め』とか言ってついでのようにセクハラしてくるし!!
ほんとよねー。それに子供を産んで保育園とかに預けられるようになった後に職を探そうとすると、給料は少ない!そもそも職事態見つからない!!就職できたとしても、ぞんざいに扱われる!!
それに比べ、男子は楽でいいわねー。女子みたいにそんなのがないし、セクハラなんてされないし『女が首突っ込むな』なーんてことも言われないし!!
ほんと、『男尊女卑』よねー!!
さすがにその発言には俺も、ほかのみんなもいらついてさ。
おいいい加減しろよ!!黙ってりゃ好き勝手言いやがって!!
ある1人が声を荒げて、俺たちの声を代弁したんだ。
したらさ…
男は黙ってなさい!!
って怒鳴られて、男子全員教室から追い出されたんだよ…
邪魔な男どもはいなくなったから、議論続けましょ!
そうね、これですっきり話し合えるわ。
さあ、さいかーい!!
追い出された後、教室の中からはそんな声が聞こえてきたよ…
しょうがねーから俺らはさ、たまたま空いてた多目的室に避難したんだ…
ほうほう、んでその後は?
授業終わった後、教室見に行ってみたらさあ…
俺らの荷物がみーんな外に出されてた。
そりゃ難儀なこった。
にしてもまあ…お前らも災難だな。今どきの女どもは口だけはつえーからな。
柳井は弁当を食べながら話したデコ見せに、淹れたばかりのコーヒーを出してやる。
デコ見せはそのコーヒーにガムシロップをいれてすすると、ため息をついて机に突っ伏した。
もー教室に入りたくねー…
柳井はそんな様子のデコ見せをみて、ふと思い立ったようにポソリとこぼす。
……お前、5限目と6限目何の授業だ?
んあ?確かどっちとも数学だったんだけど…どうにも自習になりそうなんだよな。
……よし!
柳井はニッコリと笑ってこう言った。
その時間、ワタシがいってやろうじゃねーか
へ……っ!?
5限目。
デコ見せのいるクラス『1-A』では、ピリピリとした空気が流れていた。発生源は言わずもがな、女子全員である。それはみなすべて、のこのこと帰って来た男子たちに向けられていた。
そんな時、教室の引き戸がからりと開けられる。
そしてそこから入ってきた人物に、全員が唖然とした。
よーうクソガキども。今から6限目まではワタシが受け持つことになった。つーことでおめーら全員勉強用具は全部しまいやがれ。とっととなー。
やっ、柳井先生!?なんでうちのクラスに…
確か今からは数学じゃ…
くだらねーこといってねーで黙れやマセガキども。はよ勉強用具しまえっつってんだろうが。
笑顔で暴言を吐く柳井に、クラス全員は言われるがまま勉強用具をしまい始めた。
そして大体がしまい終えてしんと教室が静かになると、柳井は満足そうにうなずき、白チョークを手に取って板書を始めた。
そこに書かれたのは『性差別』。
書き終えた柳井は改めて教室を見回し、語り始めた。
さて、お前らのクラスは2限目に、これについて話し合いをやったみてぇだが…
クソみてぇな議論だったらしいな!!
満面の笑みでそう言い放つ柳井に対し、女子生徒たちは当然反論をし始めた。
ちょっと!聞き捨てなりません!!
とても有意義な議論でしたよ!!
そもそも教室にもいなかった先生に、そんなことを言われる筋合いはないと思います!!
しかし柳井は、そんな女子生徒たちに対して
うるせーぞアマども。人の話は最後まで聞けクソビッチ。
また満面の笑みを浮かべて、とんでもないことを言い放った。しかも、チョークを粉々にして、もう一方の手が置かれている教卓から、ミシミシという音を立てながら。
そんな柳井に対し、反論していた女子生徒はぽかんとして、最終的には顔をうつむけて静かになった。
はっ、ブーメランくらってやがんの。クソウケる。
柳井はケラケラと笑いながら話の続きをする。
んで、その性差別なんだが…
実のところ言うと、今の世間は『男尊女卑』よりも、『女尊男卑』が色濃いんだよ。
早い話が『子供への話しかけ』だ。
女が泣きわめいてる子供に話しかけても、いい人間ととらえられて終わるだろ?もしくはほほえましいとかな。
だがこれが男になるとどうだ。
ただ話しかけただけで、
『不審者』とか『誘拐犯』とかのレッテルを張られんだぜ。挙句の果てには通報されたり、逮捕もあり得る。
実例もあるんだぜ。
そんなことを知っていたのかねー、このクラスのビッチどもは。
柳井がにっこりとそれを言うと、女子生徒たちはギクリと肩を震わせた。そんな様子に、柳井はまたケラケラと笑った。
そんな柳井に、男子は羨望の眼を送っている。
続けんぞ。顔上げろメスガキども。
んまあお前ら女子どものいうことはわからんでもない。今の世の中の企業は、育休や産休を取らせたがらない。人手が足りなくなるし、管理が面倒っつー話から来てる。
だがなあ…
男が育休取ろうとすると、『男のくせに』っつって女どもはいい顔しねーんだよ。
しかもだ。
PTAって知ってんだろ?それを全部男にやらせようと済んだぜ?シングルファーザーだろうが、普段帰ってくんのが遅い父親でもだ。『忙しいから』っていうと『みんな同じ』で言いくるめやがる。それを言ってんのが主婦だぜ?いつも家にいる、な。
普段家にいる主婦より、外出て遅くまで仕事してる父親や、シングルファーザーのほうがよっぽど忙しいに決まってんだろアホじゃねーの?
それにだ。
痴漢冤罪…まさか知らねえなんてことはねえよなあ。
その言葉に、教室がシンと凍り付く。
いるんだよ…それで金を稼ぐ女どもがな…
女が『痴漢した』とだけ一言あげりゃ、証拠がなくても『痴漢をしたんだ』って見られる。そしてたとえ無罪で逮捕され裁判にかけられても、それが覆ることなど、不可能だ。
今の司法も、腐ってやがるからな。まさに『女尊男卑』だ。
実際、痴漢冤罪で人生を狂わされた人間は山ほどいる。女を守りすぎると、司法も人間も腐るんだな…
だからわざわざ、『女性専用車両』なんてもんがあんだよ。毎週1両だけだった気がするが、まあ今は違うんだろ。
……で、だ。
そんなことがあっても、男尊女卑とかいうか?つーか、これまだまだほんの一部にすぎねーぞ。
静まり返った教室を見回して、柳井はケラケラと笑ってそういった。
あれほど2限目の議論では好き勝手言っていた女子生徒たちは全員、虚ろな目をして明後日の方向を見ていた。
ワタシはまだ語り足りないが…これ以上話すと苦情も入りそうだな。ここら辺までにしとくか。
続きが聴きたかったら、カウンセリング室にでも来るといい。たっぷり聞かせてやろう。
後日。
カウンセリング室。
ナルセンセーーーー!!!
この前はほんっと、ありがとうございましたっ!!
昼休みの時間になった直後。
カウンセリング室にはデコ見せ含む、たくさんの1-Aの男子生徒がやってきた。あるものは涙ぐんでいたり、またあるものはすっきりしたような笑顔を浮かべていたりと様々だ。
おーおーどうした野郎ども。
男泣きか。
いやあ、ほんと助かったぜ!
あの後の女子、ひとっことも話さずに帰ってったもんなー。
しかもさ、次の日に頭下げてきたんだぜ!
正直驚いたけど、まあおかげでクラスは少しずつだけどさ、元に戻ってきてるんだ!!
おお、そりゃよかった。
でもさ、気になることがあるんだ。
ん?どうしたデコ見せ。
デコ見せは柳井に、素朴な疑問をぶつけた。
最後の痴漢冤罪の話でさ…ナルセンセ、ちょいと複雑な顔してたし、意味深なこと言ってたけど…昔なんかあった?
その言葉に柳井は少し驚いた顔をしたのち、いつもの笑みを浮かべながらこう答えた。
シークレット、だ♪
『男女差別』をかく語りき!
-End