四十川ラボ・研究室1
まずわしの自己紹介からせねばならんな…
そんなことより、あの怪物がなんなのか教えてください! …友達が殺されたんですよ!
心中は察するが、少し落ち着きたまえ…。私の自己紹介は、怪物の正体を知るうえで、決して遠回りにはなるまい…
どういうことだ…?
……
あの怪物をこの世に産み落としたのはわしじゃ…
…!?
なんだ…って……
この野郎ッ!! 悪魔め!
お前のせいで八田さんは!!
…四十川博士、二人ともベッドで休んでもら
…て、おい! 少年! 止めないか!!
くそぉ… 悪魔め…
老人に殴りかかるとは褒められたことじゃないな
大丈夫ですか、博士?
大丈夫じゃ。彼はわしを殴ってなんかおらんよ
一体、彼に何を言ったんですか…?
そいつは、自分が、僕の友達を殺した怪人を生んだ悪魔だと、そう言ったんだ!
博士…! そんなことを…
……事実じゃ
違う! 悪いのは、私たちの研究を軍事利用しようとした華岳化学の上層部だ! 博士は何も…
華岳化学…!?
何が何だか…
分田くんといったね。
紹介が遅れてすまない…。
私は九十九折。そして隣は四十川博士だ
…それから
我々二人は“元”華岳化学の研究員だ
…!?
あの怪物と華岳化学にどういった関係が…
少しばかり長くなるが、聞いておくれ…
華岳化学で我々は一年前まで研究員として働いていた。
研究していたのは人類の古来からの夢である、不老不死。こんなことを言うと、なにやら大仰な印象を受けるかもしれないが、なんのことはない、ただのアンチエイジングについての研究だ。
もし大きな成果が得られたならば、医療方面への応用も視野に入れてはいたが、新しい化粧品や美容用品に繋がれば上出来といった具合である。しかし、我々の研究は予想だにしない驚異的な成果をもたらしてしまう。まさに神の悪戯だった。
とある試薬を気化させ、一定時間マウスを曝す。その日も大した結果は期待できないだろうと我々は踏んでいた。これまで幾度となく試薬を作って試しては廃棄を繰り返してきた。マウスは不死身の身体を手に入れるどころか、命を落とすこともままあった。
――しかしである。
ゲージ内の3匹のマウスが突然、暴れはじめる。それまでの実験では見られなかったことだった。ただ暴れるくらいならば、特段珍しいことではない。異物に曝された生物が拒絶反応を起こすことは自然なことだ。
異常だったのは、その3匹のマウスが互いを傷つけ始めたこと。醜い凶暴性を隠そうともせず、目の前の同種同属をひっかき、噛みつく。白い毛はまばらに剥げ落ち、皮膚はめくれ、肉は削げ、骨が露呈した。
我々は慄然とした。目の前に繰り広げられる殺し合いの様子にではない。
何時まで経ってもマウスが死なないのだ。
体内の3分の1以上の血液が流れ、臓器が飛び出て、身体が半分になっても、それらは殺し合いを止めなかった。
やがて、1匹(とはいってもそれも頭から半分しか身体のようなものは残っていなかったが)のマウスを残して、ゲージ内はもはや生命の残り香さえ感じさせない肉片と体液と排泄物に満たされた。
生き残った1匹は、もはやマウスと呼べるようなものではなかったが、ごそごそと蠢いている。なんという生命力であろうか。これは生きているのか、それとも不可逆的に死に向かうだけの生命モドキなのだろうか。
我々はその異常な光景に怯えながらも、“それ”を子細に調べるべく手を伸ばした、その時。
熟れた果実を潰すような音が、小さなその有機物の塊から聞えてきた。何事かと目を凝らすと、血に濡れそぼった切断面が、沸騰するかのように大きく泡立っている。
そして、それは一瞬だった。
何かが決壊したかのように赤い断面から湧き出す。それは骨であり、筋組織であり、神経であり、表皮であった。
我々の目の前には何事もなかったように澄ました1匹の健康体のマウスがいた。
それから我々はこの不可解な出来事の真相を突き止めるべく研究を急いだ。
試薬「KYT-630Y」。
我々が産み出してしまった悪魔の薬。あらゆる生物を不死身の化け物に変えてしまう禁断の薬。
この試薬に曝された生物は曝された時間の長さに応じて、段階的に不死身の身体を手にする。その後の研究で明らかになった「KYT-630Y」の効果は以下の通りだ。
①まずその生物の潜在能力を最大限に引き出す。神経伝達のスピード、筋力、瞬発力、などの身体能力の面だけでなく脳機能まで、ありとあらゆる能力が向上する。
②次に被検体に高い生命力を与える。例のマウスのように、本来ならば瀕死の状態に陥っても生き続けるほどの。
③それから凶暴性を生じさせる。3匹のマウスが惨いほどの殺し合いを始めたのはこれに因る。
④最後に強い再生力。脳と身体の半分さえ残ってさえいれば、どれだけ傷ついていても瞬く間に再生してしまう。
我々、研究員たちはこの研究結果を葬るべきだと考えた。しかし、欲にまみれた上層部はこれを見逃さなかった。
新たに研究部門が設立され、元々あった我々の研究部門は廃止。我々は上層部の決定に断固反対し、「研究結果および試薬の廃棄」を提案したが受け入れられなかった。最後の最後まで抵抗したが覆る気配もなく、半ば追い出される形で、私と九十九折は華岳化学を離れた。
な、なんと…
SFになろうとは…
でも博士の説明と半田くんの身体じゃ話が合わない…
何故なら半田くんは再生機能を有していないからなのか半分だからだ!