それは、何でもない平日の午後のはずだった。
 ごく普通の放課後、ごくいつも通りの街並……。

な……なんだ、これ……

 なのに、目の前には信じられない光景が広がっていた。

「誰か、助けてくれーっ」
 
 叫び声を上げながら逃げ惑う人々。

「お母さあん、どこお……!?」

 泣きながらはぐれた親を探す子ども。

「大丈夫!? しっかりして!」

 血まみれになって倒れた友人を介抱する女子高生。
 街のいたるところで狂ったように鳴り響く無数のサイレン。

 突然、戦争でもはじまったかのような光景に、僕は唖然とするしかなかった。

ええと、とにかく、人命救助だ……! そこの人大丈夫で……

 言いかけた僕の耳に、何やら異音が聞こえて来る。

あっ……あれは……!?

やめろ、くっ、来るな、来るな――!!!

第一相談者 相川九

ん……んん……

あれ…ここ、どこだ…?

 僕はどことも言えない場所で目を覚ました。

 あたりを見回すと……そこは、見知らぬ部屋だった。

 なんだろう、ここ?
 さっきまで街にいたはずなのに。

 僕は高価そうなふかふかソファに寝かされていた。

 しかも調度品が心なしか古臭いというか、日本っぽくないというか、まるでヨーロッパ風ファンタジー世界に紛れ込んだみたいだ。

ふ~む……

 どこからか、呟きと呻き声のちょうど半々といった声が聞こえてくる。

相談者は極度の混乱状態にあったようだ……像が乱れていて肝心なところが見えないな……

 人だ。
 人がいる。
 しかも……なんか、ちっちゃい?

 勇気を出して呼びかけてみる。

あの~、すみません……

おや。どうやら目覚めたようだな

おはよう少年、そして我がダン・ニャムニャ冒険相談所へようこそ!

 ダン……むにゃむにゃ……冒険相談所……?

 聞き覚えのない名称だった。
 しかも、おそろしく変な名前だ。

おい、今、何か失礼なこと考えただろう!!

い、いえ、考えてません! 神様に誓ってヘンな名前だなあ、なんてことは!

だだ漏れか!!

すみません、むにゃむにゃさん!

ニャムニャ!!

まあいい……茶番はここまでだ。俺様の偉大さは、いずれ身に染みてわかることだからな

はあ……

 勝手に納得してくれたよ。
 ラッキー。

 そう思ったら、ニャムニャさんに思いっきり睨まれた。心の中でも読めるのかな、この人。

さて、それでは相談者一号君

相川です。相川九(ここのつ)。

名前なんてどーだっていいんだよ。さっさと相談に移ろう

 この人、さっき、自分の名前を間違われたときはめちゃくちゃ怒ってたのに……。

何か言った?

 言ってません。

よろしい。

 やっぱり、びっくりするくらい察しがいい人だ。おまけに自己中心的でもある。

 ……それが、僕がダン・ニャムニャに抱いた第一印象だった。

第一相談者 相川九

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