アラタは言った。
「目に見えるものが全てではない」と。
宇佐美ちゃんのことと仮定し話を進めると、
アラタは言った。
「目に見えるものが全てではない」と。
宇佐美ちゃんのことと仮定し話を進めると、
う、宇佐美さんっ! 俺と付き合ってくださいっ!
? はい、わかりました
マっマジかっ! やったあ!
…………なんか想像するだけでムカついてきた。
が、話を進めて次の日になったとする。
宇佐美ちゃーん! おはよ! 一緒に学校行こう!
……? すみません、どなたですか?
えっ……
野郎の方は当然愕然するだろう。
告白して、OKもらって次の日は「誰ですかあなた」だぜ?
想像して今度は野郎の方に同情するくらいだもん。
あ、はははは……実は嫌われてたのかな……もう話しかけないから……さようなら!
あっ……
走り去る野郎。
それを茫然と見送る宇佐美ちゃん。
うん、容易に想像できるわ。
野郎の辛さ、普通に共感できるわー。
で、これが「見えていること」。
まさか……
○○さん(私に告白をしてくれた人)……
私、またやっちゃった……
ーーーーでは、自分のことを好いていてくれた野郎のことを忘れていた宇佐美ちゃんの気持ちはどうなる?
それを思い出せず、傷付けてしまったことに対して傷付いた宇佐美ちゃんの気持ちはどうなる?
「見えないこと」は他ならぬ宇佐美ちゃんの気持ちだ。
大事なのは他ならぬ宇佐美ちゃんの気持ちだ。
だから、俺はーーーー
…………
よっ
! 藤原さん……
この学校の屋上って見晴らしいいよな。特に夕方なんかマジサイコー
そうですね……ずっとこうして見ていたいくらい
それは俺とずっと見ていたいってことかな?
明らかに表情が暗い宇佐美ちゃんにそう冗談交じりに言ってみる。
正直、いつものように「無理です、キモイです、死んでください」的な罵詈雑言が飛び出すと思ったが……
ずっと……
そうですね……それも悪くないかもしれませんね
返ってきたのは予想以上に柔らかい返答。
なんか……調子狂うな。
そ、そうか。じゃあ、このままもちっと眺めてる?
はい
そう言ったきり、宇佐美ちゃんは黙り込む。
俺と宇佐美ちゃんの間に沈黙とーーーー悲しくなるくらい鮮やかな夕日が包み込む。
しばらくしてから、ぽつりと宇佐美ちゃんが口を開いた。
聞いたんでしょ?
へ?
先生から。私がもうすぐこの学校から離れること……
あー、うん。まあね
あーーー! 清々しますね! やっと変でバカな藤原さんと離れられます!
宇佐美ちゃん……
そう言った宇佐美ちゃんの言葉は言葉と裏腹に取り繕ったような、痛みを無理して必死で我慢しているような……そんな表情だった。
藤原さんもほっとしてるんじゃないですか? 1日しか記憶が保てないめんどくさい女の子のお守りから解放されーーーー
宇佐美ちゃん!!
……!
1日しか記憶が保てないとかめんどくさいとか……俺の好きな女の子を悪く言うな!!
えっ……ふ、藤原さん……? 今、なんて……
くそっ! 流れに任せて言っちまった! ああそうだ! 俺は宇佐美ちゃんが世界で一番好きなんだよ!
……
くっ、これでも男藤原正人! 俺の正直な気持ちだ! 我が生涯に一片の悔いなし!!
と、内心泣きながら拳を天に突き出した。
くそっ! 恥ずかしすぎて、拳王様のようにこのまま白く燃え尽きてえ!
ほれ見ろ! 宇佐美ちゃん、茫然としてるじゃんよ!
……
ぷっ
黙ってその様子を眺めてた宇佐美ちゃんはやがて、可笑しそうにぷっと吹き出した。
やっぱり変な人ですね、藤原さん
自分に嘘はつけない性質なんだ
かっこよく言ってますけど、バカなだけですよね?
……否定はしません
あーぁ。藤原さんが変わらない変人クオリティでしんみりした気持ちがどっか行っちゃいました
だろ? それでそのですね……
?
いえいえいえ! きょとんではなくて! 俺は今告白をしたわけでして! 出来たら返事をですね、いただけると大変嬉しいわけですが!
ぷっ……きょどっててキモイです
ぐはぁ……き、キモイ、キモイと言われた……!
何まじめに受け取ってるんですか。冗談ですよ。返事はですねー……
ドキドキ……ドキドキ
ちゃんと伝えますから、とりあえず口で鼓動を表現するのをやめてください。まじめにキモイです
はい
返事はですね……
ごめんなさい、明日には藤原さんのこと忘れてると思います
で、ですよね……
なのでーーーーはい、これ
?
そう言って宇佐美ちゃんはメモ帳を開いて俺に差し出してきた。
何をぼけーっとしてるんですか。忘れてもちゃんと私が思い出せるように書いてくださいよ
そ、その……恋人だって……
! マジで!? 書く書く書く! よーし、お兄さん頑張って書くよ!!
ぷっ……相変わらずの藤原さんクオリティですね。はい、よろしくお願いします
メモ帳には俺こと「藤原正人」の項目にごちゃごちゃと俺の字と宇佐美ちゃんの字で色んなことが書いてあった。
そこにまた、でかでかと書き入れる。
藤原正人(恋人)と。
へっへー♪
本当に嬉しいそうですね
いや、マジ嬉しい! 今なら飛べそうな気さえするよ!
……でも、ほんとに私でいいんですか? 私わがままだし、遠く行っちゃうし記憶だって……
宇佐美ちゃん「で」じゃないの。宇佐美ちゃん「が」いいの。そんな宇佐美ちゃん全部ひっくるめて好きになったんだから
……!
やっぱり……バカです、藤原さんは
知ってる。バカな俺だけど、宇佐美ちゃんがどんなに離れても宇佐美ちゃんのことは絶対忘れない。これまでのことも。そして……これからも。宇佐美ちゃんが忘れても……
何度だって宇佐美ちゃんと俺の楽しい記憶を作ってみせる。約束する
そう言って小指を差し出すと、
藤原さん……わかってませんね
へっ?
こーゆーときは指切りげんまんじゃなくて、
うぉっ
ばふっと宇佐美ちゃんが俺の胸に飛び込んできた。
こうやって、男らしく抱きしめてください。い、一応彼氏なので
お、おう
そう言って胸にいる宇佐美ちゃんの頭と背中に手を重ねる。
華奢で小さくて……なんて、守りたくなる背中なんだろう。
宇佐美ちゃん……
名波
へっ
私の名前です……特別に名前で呼ぶことを許可します
宇佐----
名波
……名波ちゃん
はい……
俺、今日という日を忘れない
はい……
何度でも。何度でも思い出させてください
もちろん……大切な俺とーーーー名波ちゃんとの記憶だから
はい。藤原さん
ん?
大好きです。覚えていても。そして、忘れたとしても
ーーーーありがとう。これからもよろしく、名波ちゃん
はい……正人さん
夕日に照らされた二つの影は日が暮れるまで、そこに微笑ましく、そして確かな温もりを持ったまま重なっていた……
正人とやらはうまくいったみたいじゃのぅ
まあなー。神様直々のアドバイスもあったしな
なんかあったときのために一部始終を眺めていたが、問題なさそうだったので僕と神様は家路についたのだ。
僕は神様のアドバイスを思い出していた。
なぁ、アラタ。俺はどうすればいい?
……(神様ならこんなときにどうする?)
そうじゃのうーーーー
我ならーーーー
思うがまま行動するぞよ
へ?
?
い、いやなんでもない
どういうことだよ、神様!
だってそうじゃろう? 外から言われる模範的な行動をして自分を縛って何が楽しいのじゃ?
……それで傷付く結果になったとしても?
どう行動しても使徒ら、人の子は後悔するじゃろ
後悔するとしてもしないとしても、人の子らが彩られるのは「自分の答えで行動したとき」じゃ。なら、存分に思うがまま行動する他なかろう?
……わかったよ
正人
おう
「答え」はお前のなかにしかない
!
お前の思うがまま動け。答えはとっくに出てるんだろ?
アラタ……
ーーーーサンキュな。俺ちょっといってくるわ
おう
気張れよ、正人とやら
そう言って正人は吹っ切れた表情で走り去っていった。
そうして結果は見ての通りだ。
記憶ーーーーか
む?
僕もきっと忘れねーよ、神様のことは
……当然じゃ。お主は他の誰でも我のかけがえない使徒なのじゃからな
へーへー。お褒めに預かり光栄でごぜーますよ……ん?
メールだ。
差出人はーーーー茜?
どしたんだ、あいつは……ってこれは!?
どうしたのじゃ? むむっ、これは!
神様に無言でメール画面を見せる。
差出人:茜
件名:アラタへ
本文:助けて
くそっ、どうしたんだ、あいつは!
使徒よ! 我もおる! 落ち着け!
わかった……すーはー……すーはー
神様の言う通りだ。
焦っても仕方ない。
まずは冷静に思考し、状況を整理しろ。
目の前には心配そうにこちらをうかがう神様。てく
そんな顔見せられると使徒として心配かけまいと徐々に思考も落ち着いてくる。
……ありがとな、神様
礼には及ばぬ。それよりも茜とやらは大丈夫かえ?
あぁ。連絡してみる
そう言って僕はケータイを操作を始めた。
待ってろよ、茜。