長い長い買い物が終わった後、前を歩くゼシカがそんなことを言う。
また何か買うのかな……と面倒くさく思っていたのだけど、これはかなりありがたかった。
なぁ、ゼシカ。どこに向かってるんだ?
風呂を毎日貸してくれそうなところに心当たりがあるから、ついでに案内してあげようと思って。
そうじゃないと、あなたまたお姉様のお世話になりそうなんだもの!
長い長い買い物が終わった後、前を歩くゼシカがそんなことを言う。
また何か買うのかな……と面倒くさく思っていたのだけど、これはかなりありがたかった。
助かるよゼシカ!
か、かんちがいしないでくださいね!
これはお姉様にくっつかれちゃ困るからで、別にアオイのためとかそういうわけじゃないんですから!
心から感謝して言えば、ゼシカはちょっぴり赤くなる。
理由は何であれ、とても困っていたから嬉しかった。
私の親友でまりりんっていう子がいるの。
学園から実家が近くて、そこから通ってるんだけど、家には風呂があるのよ。
とってもいい子だから、事情を話せば協力してくれると思うわ
実家? ここにいる女の子達は皆、元の世界から攫われてきたんじゃないの?
攫われたなんて人聞きが悪いわ。
この世界に選ばれて、私達はここにいるのよ
俺の言葉をゼシカが否定する。
アオイは日本の出身よね。
日本では世界がいくつもあるということは知られていないみたいだけれど、私の世界では当然のことだったわ。
魔女の世界は結構高位の世界なの。
そこに呼び出されるということは、とても光栄なことなのよ
へぇ、そうなんだ?
あまりピンとこなかったが、相づちを打つ。
攫われたというよりも選ばれた。
心構えからして、ゼシカと俺では違うみたいだ。
ワルプルギスの夜は、いままで何度も魔女の国で行われている儀式。
アルカナの魔女の世代交代と言っていいわ。
現アルカナの魔女達が現役を退いて、新たなアルカナの魔女が生まれる。
それがこの世界で繰り返されてきたことなの
ワルプルギスの夜……たしか初日に聞いたような気がする。
ハート・クローバー・スペード・ダイヤの四つの国にいるアルカナの魔女が戦い、どの国が勝つか決める……そういう話しだったはずだ。
新しいアルカナの魔女が選ばれたら……昔のアルカナの魔女達はどうなるんだ?
現役引退して、元アルカナの魔女として自由にすごせるわ。
一生困らないお金も保証されて、まさにやりたい放題ね。
ちなみに新しい後継者が出なかったアルカナの魔女は、現役続行になるわ
そんなシステムだったのか。
知らなかった。
スペードの女王やチャチャも、新しいアルカナの魔女なのかな?
いいえ。あのお二方も、前回からの引き継ぎになるわ。
もうかなり前の代から代わってなかったんじゃないかしら。
二人とも強くて、後継者となる魔法少女が現れても、倒せる人がいないから……
えっ? 倒すって……アルカナの魔女になるには、前回のアルカナの魔女と戦う必要があるの!?
カードによってはね。
前回の戦いで敵国に勝ったカードだと、後継者は前任者と戦う必要がでてくるの。
強いカードは残しておきたいからね
結構魔女の世界は弱肉強食のようだ。
ちなみに、前回の戦いで敵国に負けたカードの場合は、後継者が試練を乗り越えれば、アルカナの魔女としての力を得るわ。
その場合は、前任者と戦う必要はないの
試練……どんなものなんだ?
ヒカルが試練という言葉に反応する。
武士なおじいちゃんに育てられたせいか、ヒカルはわりと試練とか修行とかそういうスポ根みたいなことが好きだ。
カードによって違うから、何とも言えないわね
質問ばかりで面倒だろうに、ゼシカはちゃんと丁寧に答えてくれる。
なんだかんだでいい子だなぁと思った。
それでね、さっきの話しの続きなんだけど。
元アルカナの魔女には、特典がいろいろあるの。
国が生活を保障してくれる以外にも、結婚して子供が持てるっていう特典があるのよ!
とっておきの話しをするように、ゼシカは口にする。
魔女に子供は生まれないんじゃ……?
いやそもそも、結婚……?
この国、女しかいないよね?
女しかいないのは当たり前でしょう?
魔女の国ですもの
あっ、やっぱりこの国ナチュラルに女同士で結婚するんだ?
まぁ男がいないから当たり前なのかもだけど。
普通は結婚して子供がほしかったら、そのあたりの子を養子にって説得するしかないんだけどね
元アルカナの魔女だけは、自分の子を召喚することができるの!
自分の子を召喚……?
なんか変な話しだ。俺の知っている常識と大分違う。
興奮した様子で、さらにゼシカが色々と教えてくれる。
元アルカナの魔女とパートナーの力を使って特別な儀式をしたうえで召喚すると、子供が現れるらしい。
魔法の力も、両親である魔女から受け継ぐのだとか。
どういう仕組みになってるんだろうな。
俺の常識では、子供って男と女がいないと生まれなかったと思うんだが。
それ、本当にその二人の魔女の血を引いた子供なんだろうか。
まぁ、俺にはあまり関係のないことだけれど、少し気になった。
まりりんの両親が元アルカナの魔女なんだけど、両親二人ともすごく仲がいいの!
私、まりりんの母様達みたいにいちゃいちゃした、甘い家庭を作りたいのね
ほぅ、とゼシカは溜息をつく。
ゼシカはまりりんの家族に憧れを持っているらしい。
私自身、学園には入れたけど、あまり力が強いわけではないの。
「星」のアルカナは、前代が居座っているし、強いライバルも多い。
だから私は、アルカナの魔女になれないと思う
ゼシカ……
アルカナの魔女になりたいけれど、なれはしない。
あきらめというよりは、事実を受け入れるかのような雰囲気で。
暗い顔をしたゼシカに、なんて声をかけたらいいか迷った。
頑張ればきっとなれるよなんて、無責任なことを俺は言えない。
いやね、そんな暗い顔しないで。
私、アルカナの魔女になりたいわけじゃないから。
可愛い子供と、可愛い奥さん。
それさえあればいいの
女の子の口から、奥さんって聞くのも変な感じがするな……
そんなことを考えていたら、だからねとゼシカは一呼吸置いた。
私考えたのよ。
だったら、確実にアルカナの魔女になる実力を持っている人のお嫁さんにしてもらおうって
なんか、ぶっとんだ発想がきた。
私、お姉様の子供がほしいのよ!
人通りの多い通りで、ゼシカが力説する。
そんな理由で、ゼシカはメルトさんに猛アタックを仕掛けているらしい。
だから、お姉様に手を出したら……
その先をゼシカは言ってないのに「殺すわよ?」という副音声が聞こえた気がした。
も、もちろん手なんて出さないよ!
わ、私も興味はないぞ!
般若のごとき顔で、ゼシカが睨んできて、慌てて口にする。
……浮気性のメルトさん相手だと、結婚しても苦労すると思うんだけど。
ちなみに、ゼシカは……メルトさんのどこが一番好きなの?
顔と胸!
……
えっ?
今男が言ったら、即座に相手にビンタされてもしかたないような最低のセリフが聞こえたんだけど。
しかもいい笑顔で、元気よく。
俺の……気のせいかな?
お姉様って美人でしょ? お姉様の遺伝子だったら、相当可愛い子が生まれると思うの。
それにお姉様ったら、お胸が大きいのよ!
私、おっぱいが大好きなの! 柔らかくてましゅまろみたいなものがタイプね。でも弾力は絶対に必要だと思うの。指を埋めてすぐに跳ね返ってくるような、そんな胸がのぞましいわ。小さい胸がいいという人もいるけれど、私はやっぱり大きい方が好みね。だって揉めないし顔も埋められないじゃないの。お姉様のお胸様は、手で掴みきれないくらいの大きさなのだけれど、お風呂にはいると「たゆん」って感じで水に浮くの。あれはとてもたまらなくて……
えっ、いやもういいから!
もう十分だから!
おっぱいについて、生き生きとゼシカが語り始める。
この子おっぱいに「様」までつけちゃってるんだけど!
こんな可愛い顔してとんでもないおっぱい星人だよ!?
聞いてるこっちが恥ずかしくなってきて、慌てて止める。
ゼシカは話し足りないというような顔をしていたが関係ない。
あっ、もちろん強いところとか、優しいところも好きよ。
ただ、優柔不断なところはちょっと困ってしまいますけど
まるでつけたしたかのようだな
ゼシカはおっぱい好き。
知りたくもなかった情報をゲットして、残念な気持ちになりながら、俺達はまりりんの家へとたどり着いた。