私がチェリーのリードを持ち帰ったあの日のことだ。ヒナと二人、喫茶店からの帰り道、私たちは公園の前を通る前にあのベンチへ向かっていた。
私がチェリーのリードを持ち帰ったあの日のことだ。ヒナと二人、喫茶店からの帰り道、私たちは公園の前を通る前にあのベンチへ向かっていた。
チェリーが最後に訪れた場所。ほとんど会話もせずに、自然と足取りがその場所に向かっていた。
あのベンチに着いても何もすることはない。しばらくそこをただ見つめていた。すると、彼女が言ったのだ。
あ、ゆっくん。あれ見て
彼女が指差したのはちょうどチェリーが横たわっていたであろう場所。
そこに、三本だけ、小さな青い花がひょっこりと顔を出していたのだ。
そういえばさ、ほら
続けて彼女は自分の鞄をあさり、そして何かを取り出した。
ほら、さっきの喫茶店で貰った牛乳
それは『本日レディースデイ』ということで、彼女だけ貰った、今どき温泉以外では見かけないような、ビンに入った牛乳。
私たちは顔を見合わせ、同時に笑った。
任せろ!
そして彼女からそれを受け取り、一気に飲み干した。
これで、よし。できた!
彼女が持っていたマジックペンで牛乳ビンに文字を書き、そっとベンチの下に置いた。
そこに咲いていた小さな青い花は、牛乳ビンに差し込んでいる。
チェリー。簡単なので悪いけど、お墓を作ったから。会いたくなったらここに来るね
私たちは静かに目を閉じ、手を合わせた。
強い風が吹き、私と彼女の髪を揺らす。
そこにチェリーを感じたのは私だけではないはずだ。
じゃあ、行こうか
そうして私たちは、一緒に銀の取っ手を握り帰路に着いた。
今でも私は、ベンチの下に作った牛乳ビンのお墓に行くことを続けている。このお墓は私と彼女、二人だけの秘密。
そこに行くのはもちろん一人だ。不思議なことに、私たちがお墓のために摘んでしまった後でも、小さな青い花は、同じ場所に咲き続けている。
この花の名前を私たちはまだ知らないけれど、私も彼女も忘れることはないだろう。小さな青い花と、共に過ごしたチェリーのことと。
そして、二人で握った、赤いリードの銀の取手の温度を、いつまでも。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。
ちょうど10話で、きりよく完結することが出来ました。
つい一ヶ月半ほど前のこと、この話にもあったチェリーのお墓に行ってきたのですが、牛乳瓶が新しいものに変わっており、小さな青い花も綺麗な状態でした。
そっれを見ると、今でも心の中でヒナとチェリーのことを想い、胸が温かくなります。
作品が完結しても、この思い出は大切にしていきたいなと思っています。
それでは、別の作品でもお会いできることを願いつつ、今回はこの辺りで失礼します。