霊深度
霊深度
-10の、
でぃー……うぇるのうん??
CridAgeT
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わーるど。
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起きて、花月(カゲツ)ちゃん
んー、誰ですか?
ふふ、よく寝た?
寝ましたよぉ……って、え、りーちゃん?
カゲツは飛び起きて1メートルほども浮き上がった。
カゲツは本当に可愛いわね
目の前には、カゲツと似た和装の女性が座っていた。
そんな、だって私は
ぐるりと見回すと、まず障子と掛け軸が目に入った。
木の柱に土を思わせる落ち着いた壁、背の低い机に急須とお茶碗、真下には久しく見ていない布団。
かつて飽きるほど見ていた、箱庭のような世界。
ここ……じんじゃ?
ふふ、懐かしいのね
カゲツは少し呆然と突っ立っていた。
相変わらずお転婆なのね。
こっちは、多少騒がしいこともあったけど、神様をお守りすることもできているし、あなたに『懐かしい』と思ってもらえるくらいには、この小さな世界を守れているかしら―――
り、りーちゃん!!
カゲツは女性に抱きついた。
あ、会いたかったよぉぉお……アマさんも、りーちゃんも、いっくさんも、みんな、誰もいなくて、最初はすごく寂しくて、でも、言ったら怒られるし、怖くて……先生のところに来るまで、ずっと寂しかった……寂しかったの……私、私……
よく知ってるわ
りーちゃん―――バンリは、カゲツをぎゅっと抱きしめ返した。
カガミさんがね、あなたをここに届けてくれたの。よくなるまで、ここに居ていいのよ
私は廃ビルの外壁に背を預けて空を見ていた。
赤月……今日は随分と星が落ちるな
五感がぼやけてゆく代わりに、霊感ばかりが研ぎ澄まされてゆくような夜だ。
ふと、煙草の煙が、細く目の前をたなびいた。
一本いかがです?
目の前に、背伸びした子供のような男が立っていた。
色のついた煙草を、吸うわけでもなく、ただ指に挟んでいる。
……何の用だ
嫌だなあ、たまたま知ってる人を見かけたから話しかけただけじゃないですか。
ちょっとした営業ですよ、この前はうちの幽体配送サービスをご利用いただきありがとうございました
男はおもちゃを扱うように煙草の先を ふう と吹いた。
あたりに香りが広がる。
私は手をかるく返した。
なら覚えておけ。私は煙草を吸わない
おや、これは失礼。お荷物にわずかに香りが染み込んでいたもので。
てっきりあなたかと思いましたよ。ご友人に喫煙者でも?
吸うやつはいないが……強いて言えば、カリヤスの職場の匂いか?
……なぜ今、それを言う?
そうそう、あんな、人間一人入りそうな大きな荷物を僻地まで届けてくれ、なんて、万年貧乏な我々には有り難い依頼でしたよ。
もう一回必要でしょうから、またわが社をご利用いただけると幸いです
どういう意味だ?
おや? 押し付けるような勧誘はいけませんね、これは失礼しました
……
いや……また頼む
送り返してもらわないと困りますよねえ
それを聞き出すのが話しかけてきた目的か?
いえ、雑談のついで。賢明なご判断かと思ったまでですよ。
うちを信用なさらないまでも、他の業者に頼めばそれだけ秘密が漏れるリスクは高くなるわけですし。逆に、わが社ならこれ以上情報が広がることにはならないのですから。せいぜい、荷物が配送される時期があるくらいで―――
お前の言う『営業』には、他の顧客の秘密漏洩も含まれるのか?
チッ
ははは、まさか! わが社ではそんなことは致しません。きっとよそから情報が漏れたのでしょう。
案外電話口での詐欺なんてこともあるかもしれませんよ? そういうものは、緊急時の余裕のない心につけ込んできますよね
男は、にこやかな笑みを浮かべた。
では、御用の際はまたよろしくお願いします
霞のように男は消えて、残されたのは、煙草の残り香と小さな置き台詞だけだった。
まあ、騙される方が悪いのですから。
……そうだな、騙される方が悪い
私は小さな香水を取り出した。
煙草の香りを消すように、ほんのりとなじませる。
ちょうど厄払いのために運び出したかった依代が、ひとつ片付いた。
『大事な荷物』をお前たちに運ばせる馬鹿者だと、勝手に思っているが良い
え、先生が?
そうよ。他人は信用できないからって、自分でここまでカゲツちゃんを連れてきてくれたの。カガミさんのお姫様だっこなんて、初めて見たわ!