小暮忍

調子狂うぜ、ホント



結局、女には会えなかった。


日もすっかり落ちて、
試しにパチ屋で良い台が落ちていないか探すも、
全て期待値ボーダー以下の台しか残っておらずあきらめる。


雀荘にフリーに入ろうとも考えたが、
今日の自分の手応えからしてあまり気が進まない。


そんな風に町をモヤモヤしながら歩いていると菅原のゲストハウスの前を通りかかる。


クラブはうるさくて嫌いだが、
少し酔いたい気分だったのとあの少年の曲を聴きがてら立ち寄ることにした。


店内一階は旅館入口になっていて、
純喫茶モロウの住み込みバイト、少年ナルサワと偶然出会う。

小暮忍

おお、ナルサワ君。どうしたこんなところで?

ナルサワ

ワォ、小暮さん!!どぅもどぅも。

今夜菅原さんに一緒に回さないって誘われてたんすよ。

ちょうど良かった。
調べて欲しいって言われた例の件なんですけど。

ここをクリックするとナルサワ君が何者か分かるよ

小暮忍

なるほど。そういう事だったのかありがとう。それにしても仕事早いな。

ナルサワ

いえいえ、ネトゲするよりなんぼか面白かったんで全然。

それにマスターがまた“アフター”とか言ってどっか行っちゃってヒマだったんで。

最近、多いんで明日まで帰って来なかったら捜索願い出します。あえてね。

小暮忍

…未だによくわかんないな。お前たちの関係性。



地下階段を降りて重たい防音扉を開けると、
その先から笠置シズ子『東京ブギウギ』が流れてきた。


DJブースでは菅原が皿を回しながら、
ハニーテキーラを飲んでカボスをかじり、
カップを頭に乗せておどけている。


頭にフロアにはこのゲストハウスの滞在者と思われる外国人や日本人が十数名いて英語で何か叫びながら踊っていた。


そこに何故か一緒になって織原経華も踊り狂っていた。


こちらに気づいたようで

織原経華

あ!にゃんにゃん先生だあ!
アガるぅ!



と言ってこちらに千鳥足で近寄ってくる。



顔から首元まで紅潮し、
いつも以上にずっとニヤニヤしていて、
もうだいぶ出来上がっている感じであった。

小暮忍

何やってるんだ、君?

織原経華

何って、見てわかりませんこのテンション!?お酒飲んで踊ってるんですよ~?私九州女子なんでけっこうイケる口なんです!シャルウィーダーンス?



経華が小暮に飛びついて頬と胸を摺り寄せて来た。


密着する経華の吐息と巨乳の弾力から昨夜の女との情事が頭に膨らんでくるのを阻止するように振りほどいて

小暮忍

すまないがちょっと酒取って菅原に挨拶してからな



と言って距離を置いた。


バーでジントニックを頼んで、
フロアの片隅のテーブルで煙草に火を付ける。


菅原がブースから小暮に気づき、
空のコップで

菅原大吾

小暮選手、飲んでる?



のジェスチャーに対して遠くでグラスで乾杯をして挨拶する。


するとそれを合図代わりに菅原はレコードをあの『ぽんぽこマーチ』に入れ替えた。


その可愛らしい音楽に一瞬会場がくすりとなってからじわりとみんなまた思い思いに踊り出す。


小暮も音に合わせてテーブルでリズムを取りながらポケットから煙草を出し、
川内谷からもらった誤字だらけの書類を捲り始めると背中でひんやりと冷たい吐息が語りかけて来た。





あら、

こんなところでお勉強?






小暮は振り返るまでもなくあの女だとわかった。

小暮忍

君こそ踊りに来る場所を間違えていやしないかい?ようやく尻尾を捕まえたよ

あら、とっくにお尻は散々好き勝手に突かれてたはずだけど?

小暮忍

…その話はよせよ



続く

ゆらめき IN THE AIR その9

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