友情END
まだ 会って日も浅い俺に わざわざ打ち明けてくれたんだ
裏切るような事出来ないだろ
葛藤はあったものの、島の自制心は、なんとか己の邪な欲望に勝利した。
「シマ」
声を掛けられ、我に返るとノルの申し訳なさそうな表情が目に入った。
「どうしたの?」
「面倒かけて すまない…」
ノルは、間を置いてから遠慮がちに口を開く。
恐らくこの謝罪の言葉は、今起こっている事に対してだけのものでは無いだろう。
「ノルちゃん」
島はそれを察し、ノルの頬を両手で包むと、目を真っ直ぐに見据えた。
「俺は面倒だなんて思ってないよ 勿論 立一もね」
ノルは、少し驚いた表情を見せたが、間を置いて小さく微笑んだ。
「この惑星(ホシ)で 最初に会ったのが
リューイチと シマで良かった」
「何なら 一番最初に俺の所に来てくれ
れば良かったのにとすら思ってるよ」
本気に受け取っては貰えないだろうが、島は割と本気でそう思っていた。
「そういえばさ
ノルちゃんがここに居るのは事故だっ
たんだよね
本当は何処へ向かう途中だったの?」
立一は、あの性格だ。
きっと、何も聞いてはいないであろう。
答えてくれるか、正直自信は無かったが良い機会だ。聞いてみるだけの価値はある。島はそう考えていた。
ノルは、島の目を見つめ返し、小さく頷いた。
「制約で 話せないことがある」
「でも
リューイチとシマには 知っていて欲
しい 俺のこと…」
島は急かすことなく、ノルの次の言葉を待った。
ノルは、ゆっくりと話し出す。
「俺が向かっていたのは未開発惑星だ」
「未開発惑星?」
ノルは頷き、言葉を続けた。
「チューと惑星の調査をするのが
今回の任務だ」
「調査員…みたいなものかな
危険はないの?」
「地球とは違い 友好的じゃない生物も
いる
その場合の訓練も受けている」
「訓練…」
島は、その不釣り合いな言葉にいまいちピンと来ず、ノルの姿を再確認する。
やはり、何処かぽやんとした彼からは連想できずに苦笑した。
「ちょっと…想像出来ないかな」
「でも
ノルちゃんが話してくれた事信じるよ
話してくれて 有難う」
「ん…」
ノルは、島の腕の中で微笑む。
もう、体の調子は戻ったようだ。
「そうだ そろそろ
ご飯も炊けたんじゃないかな」
食事の準備に取り掛かるべく、炊飯器を確認しに行くと、奥の部屋から小動物が姿を現した。
「チュチュッ
思ったよりメンテに手間取ってしまっ
たッチュ」
島がその姿を確認すると同時に、C-HUも島に気づいたらしい。
ひょこひょこと、こちらへやって来た。
「シマ 来てたっチュか ……何してる
っチュ?」
「ああ 鼠君も手が空いたのかな
良かったら一緒におにぎり作らない?」
「リューイチの分も作る チューも一緒
に作ろう」
ノルに誘われるとC-HUは、尻尾をひと振りし、鼻をひくつかせた。
「チーズはあるッチュか?」
「用意してあるよ」
斯くして、賑やかになったキッチンで、おにぎり作りが始まった。
「チューは チーズを入れるッチュ!」
「はいはい おかかも入れてみる?」
2人と1匹がおにぎり作りに奮闘していると、玄関の方から物音が聞こえてきた。
「ウェーイ 今帰ったわ~ って何してんの?」
「 ! リューイチ」
玄関の方からやって来たのは、立一であった。
それに気づいたノルが、製作途中のおにぎりを手にしたまま出迎える。
「お おにぎりじゃん
さりげペコだったんだわ ごち~」
立一は勢い良く、ノルが手にしていた おにぎりに齧り付く。
そして、固まった。
「ていうか このにぎり?
ガチめに攻めてね 前衛的な味すんだ
けど」
立一の言葉に、まさか…とノルを見やる島。
「ノルちゃん 何入れたの」
「ゴリゴリ君」
やはりか
「悪くなかった」
しかも 実食済みだった…!
そのやりとりに、思わず笑いを堪えていると、立一はノルの手から
おにぎり(ゴリゴリ君味)を受け取り、島の口に捻じ込まんとする。
「おまマジFK ウケ過ぎだから!」
「オイ 馬鹿 やめろ…ッ むがっ」
「もぐもぐ」
「チーズおかか いけるッチュ~♪」
この後、帯刀家では
『ゴリゴリ君入りおにぎり禁止令』が出されたのだった。
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