奈緒

先生!
先生は何座なんですか?


ある日の放課後、特に依頼が持ち込まれたわけでもなく、いつものようにだらだらと部室で過ごしていると、突然奈緒がそんなことを訊ねてきた。

正太郎

え……?
射手座だけど?


読んでいた小説から顔をあげてぼんやりと答えると、なぜか奈緒は目を輝かせながら本を勢いよくめくり始め、その横から鏡花さんがわくわくした顔で覗き込んでいた。

正太郎

…………?

マサヒロ

どうかしたんすかね?


訳が分からず、ただぽかんとマサヒロと顔を見合わせていると、とあるページでぴたりと手を止めた奈緒がそこに書かれているだろう文面を目で追い、なぜか鏡花さんとお互いに笑いあってからその本を僕らの方へ差し向けた。

奈緒

先生の今月の運勢は、いい感じっぽいですよ!
ほら、ここ読んでください


奈緒に促され、その細い指が指し示す場所に目を向けて、そこに書かれていた内容を読み上げる。

正太郎

え~と……?
射手座のあなたは絶好調
持てる才能を十二分に発揮して、向かうところ敵なしでしょう……?

マサヒロ

……占いっすか?


横から覗き込んできたマサヒロが首をかしげ、鏡花さんが興奮したようにうなずく。

鏡花

そうです!
今女子の間で流行っている人気占い師が出した星座占いです!

鏡花

これによると、先生は今月はその才能――つまり推理を十二分に発揮できるそうです!
依頼がたくさん来るってことですよ、きっと!
名探偵冥利に尽きますね!


うん、そんな事件だらけの日常はいやだからね!
というか、そもそも僕は推理できないから依頼とか来ても困るんだけど……。

奈緒

またまたぁ……そんな謙遜しないで下さいよ


奈緒に肩を叩かれる。
うん、どうでもいいけど今の行動はすごく近所のおばちゃんぽかった……。でも黙っておこう。
そんなことを考えていると、マサヒロが珍しく援護をしてきた。

マサヒロ

でも確かに、あまりにも依頼が来すぎたら先生どころか俺らも忙しくなるっすよね……
それはちょっと面倒かも……
……あ、だめだ聞いてないっす……


マサヒロが肩尾を落としてぼやいた通り、奈緒と鏡花さんはすでに人の話を聞かずに、どんな依頼が来るかを話し合って盛り上がっていた。
それを見て僕も苦笑していると、マサヒロは本をぱらぱらとめくり始めた。

マサヒロ

それにしても、女子って本当に占いとか好きっすよね……


そんなことを言いながらもどんどんとページをめくっていき、やがてぴたりと手を止めたところでじっとその場所を眺め始めた。

マサヒロ

むむむ……
今月の魚座は微妙なところ……
焦らずじっくり機会を待つべし……

正太郎

あ、読むんだ……

マサヒロ

いやぁ……
運勢なんて信じちゃいないっすけど……
なんかこう、何となく気になりませんか?

それは何となく分かる気がする。
僕の星座の射手座だって、マサヒロの魚座だって日本中に何千……下手をしたら何万人と言う数の人間がいる。
その何千だか何万だかの人全員にこの占いが当てはまるかといえばそうではないのだ。
だから、その内容一つ一つを信じてはいない。
けれど、こういうのってやっぱり悪いことが書いてあるよりも、いいことが書いてあったほうが嬉しくなるのが人間というものだと思う。

そんなことを考えていると、突然奈緒がマサヒロが持っていた本を取り上げ、ぱらぱらとめくって見せた。

奈緒

ちなみに私の天秤座は、「自分の信じる道を突き進むべし。されば道は開かれん」って書いてありました

鏡花

私の水瓶座のところは、「仲間を信じれば、それが大切な経験になるでしょう」でした

あ、二人は天秤座と水瓶座なんだ……。初めて知った……。
というか、その本の著者はなんでそんな文章表現がばらばらなんだよ……。
「開かれん」とか、ちょっと中二っポイ書き方したかと思えば、「でしょう」みたいに丁寧語を使ったり……。

奈緒

あれ?
先生はご存じないですか?
今話題の占い師「愡流院佐々木(そうりゅういんささき)」ですよ?

その、どっちが名前だか分からない人のことなら僕も知っている。
ここ最近、よくテレビで見かける急に有名になった占い師だ。

何でも星座占いだか六星占星術だか八卦占いだかを組み合わせた独自の占いで、高い的中率を誇る占い師らしく、テレビでもよく芸能人を占っている。
その結果、ここ最近の芸能人には奇妙な名前が増えてきているのだけど。
どうもあの辺りは、いわゆるヤラセ臭くて僕は好きじゃない。

マサヒロ

確かに芸能人をよく占って、毒を吐いてますよね……
あの占い師……

鏡花

でも芸能人の過去を言い当てたりして、かなり凄腕ではあるみたいですよ……

奈緒

予約もすでに数年待ちとからしいですし……
占い料もかなり高いみたいですけどね……

と、僕らがその占い師についていろいろといっていると、軽く部室のドアがノックされて、この学校の制服とは別の制服を着た女子生徒が顔を覗かせた。

佐島

あの……すいません……
名探偵の横島さんがいる探偵部って……
ここですか?

奈緒

ええ……
ここであってるわよ?
あなた、よその学校からの依頼人ね?

はい、と頷いたその大人しそうな女子生徒は、鏡花さんに進められて椅子に腰を下ろすと、おずおずと切り出した。

佐島

あの……私……佐島(さとう)といいます……
実は……その……
皆さんが先ほど話されていた占い師の件で相談があってきました……

佐島

お願いです!
友達を助けてください!!

そういって、いきなり頭を下げた佐島さんを前に、僕らはぽかんとしながらお互いに顔を見合わせてから、ともかく話を聞くことにした。

奈緒

詳しいことを話してちょうだい?

佐島

はい……
実は私には……占いがとても好きな友達がいるんです……
その子自身、占いが得意で……
私もたまに占ってもらっていました……

佐島

けど最近になって「もっと占いを勉強したい」って言い出して……
有名な占い師が開くセミナーに参加するようになったんです……

マサヒロ

それがさっき俺たちが話題にしてた「愡流院佐々木」ってことっすね?

佐島

はい、その通りです……
ただそれだけだったらまだよかったんですが……
そのセミナーの受講料が凄く高いうえに……
どうやら色んな高額の開運グッズとかも交わされているみたいで……
しかもそれを友達の私やご両親にまで買うように薦めてくるんです……

佐島

私も彼女のご両親も流石に騙されてるんじゃって不安になって……
警察にも相談したんですが、具体的な証拠がない限り動けないって言われて……
それでどうしようかって困っていたところへ、名探偵の皆さんの話を聞いたんです……

正太郎

それで探偵部に依頼に来たというわけですね?

佐島

はい
だからどうかお願いします!
私の友達を助けてください!!

もう一度、深々と頭を下げる依頼人の彼女の依頼を、僕らは満場一致で引き受けることにした。

File21 占い師の真相 事件編

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