『そんな事もあったかもしれんが昔の話だ。
今はもっと大人しいさ』と彼女は言う。
~その1~

第三電子魔術実験都市
 ~第五区画地下~

 電子魔術書の運用や、それを発動させるためのナノ以下サイズの機械『MANA』を研究としている実験都市。
 都市は地上のみならず、その地下にも多くの研究施設を保有している。

イデグチ

おいおい、いったい何があったって言うんだ。

今年の新入社員不意打ち非常事態訓練は終わったはずだが?

イデグチ

上層部には……通信がつながらない。

イデグチ

またか。……いったい何が起きているって言うんだ。

どこのどいつが花火大会なんてやってるんだ。

音と振動からして……上の階か。……低級の電子魔術師でも抑えきれないのか?

イデグチ

……おいおい、どんどん近付いていないか?

どんなイカツイ怪物なんだ、この施設を襲っている奴は。

イデグチ

はい、こちら第五区画イデグチ

こちら本部だ。状況は把握しているか?

イデグチ

把握も何も、なんですかこのどんちゃん騒ぎは。

またメアリーがフラれたんですか?

侵入者だ。対処してほしい。

イデグチ

あの……俺はただの研究者であって、電子魔術も使えるとは言え兵士とは違うんですけど?

手当出たとしても、さらに労災いただくことになるのが目に見えてますよね?

上の階の二級魔術師では対処できなかった。

現在交戦中の一級魔術師も怪しいだろう。

イデグチ

いやいや、そこまで全滅とか。どこのアメコミヒーローですか。

イデグチ

……相手は魔術師なんですか?

恐らくはな。
そして、この都市に登録されていない術師だ。目的も解からん。

イデグチ

いや、……どこまで徹底的にやられてるか知らないんですけど、まったく情報がないってわけでもないですよね?

………

……いや……謎だ。

イデグチ

………なんか隠してません?

では頼んだぞ。

第三電子魔術実験都市
 ~第五区画地下通路~

 電子魔術とは、散布した超小型機械MANAを操作し発動する魔術である。
 魔術は主にタブレット端末と、その中にインストールしている電子魔術書を用いて発動する。

イデグチ

腑に落ちないが、とりあえず迎え撃つしかないか。

イデグチ

手元の魔術書は……この前実験で支給された出所不明の魔術書。

使い勝手は良かったが……、これで行けるか?

こちら第四区画最終防衛ライン。
一級魔術師のササキだ。

イデグチ

こちら第五区画の……最前線になるんだろうな。

持ちこたえられそうか?

難しい。敵は二人だが、実質一人だけしか戦っていない上にこの様だ。

ここまで、一体何冊分の電子魔術書が要修復にされたか想像できない。

こりゃあ残業とボーナスが反比例を起こして上がって下がりそうな状況さ。

もちろん悪い方向にな。

イデグチ

もともと大したボーナス出てないじゃないか。

まあ良い……呑気に話しているが、大丈夫なのか?

今、部下が二人前線意地しているが……もう持たないと想像できる

だからお主に託したいと考えている。

イデグチ

おいおい、丸投げかい?

これ以上余分な魔術書の破損が起きるのは避けたい。

俺や部下が持っているのは西暦中世の遺物の写本だ。

安いものじゃない。給料3か月分の指輪とどっちが高価なのか、新入社員だってわかるさ。

イデグチ

安心しろ、こんなところで働いてたら、しばらくは縁のない話だ。

で、二人掛かりで勝てない相手に、俺一人で臨めと?

あんたがイデグチだから頼んでんだよ。

じゃあ後は頼んだぞ

イデグチ

………少し、研究で頑張りすぎたようだ。

イデグチ

有名になりすぎたな。

これからは欲張るのは食堂のバイキングだけにしよう。

第三電子魔術実験都市
 ~第五区画地下某所~

 第五区画は地下施設であるが、様々な環境を再現するべく植林などもされており、天井を除けば地上と大差ない環境が作られている。

イデグチ

ここらだと思うが。

ロリ魔

やっと下の階に下りられたな

お弟子君

最後の方々が諦めてくれてよかったですね。

ロリ魔

それまでは随分根性ある奴が多かったからな、面倒だ。

お弟子君

戦ってたのは僕なんですけどね

イデグチ

……若い男と……ガキ?

イデグチ

よお、ご機嫌ようだ。

ロリ魔

ふむ、御機嫌よう。まあ、私はあまり機嫌よくないがな

イデグチ

その割には、派手な花火をバンバン打ち上げてくれたみたいだけどな。

お弟子君

まあまあお師匠、

ちゃんとあいさつしてくれる人なんだから邪険にするのはやめましょう。

ロリ魔

今までの奴は、『動くな!』か『手をあげろ!』だったからな。

ロリ魔

『やべえ、超好み!! 結婚してくれ』もあったか?

お弟子君

後半は問答無用で昏倒させてましたけどね。

イデグチ

出会いが少ない職場なんだよ。

そいつは今度社会適正検査受け直させることになるだろうがな。

イデグチ

……最後の異常者はともかくとして、俺も今までの奴らと大差はない。

とりあえず落とし前はまた後ほどになるだろうが、今はお引き取り願えないか?

お弟子君

ほら、わりと紳士ですよ。見逃してくれるって

イデグチ

見逃すわけじゃない。穏便に帰ってもらうだけさ。

そのうちうちの上層部の事だ、報復はする。

お弟子君

またまた。

ここまでやられて、わざわざ被害を増やすような馬鹿な真似をするとでも?

イデグチ

俺もそれについては愚かな真似だと思うけどな。

……割と上層部は無駄にプライドが高いんだよ。成層圏レベルにな。

お弟子君

ぶっ飛んでますね。

ロリ魔

グタグタ言ってるんじゃない。

どのみち今日は徹底的に叩き潰すつもりだから、そんな気遣い無用だ。

お弟子君

…………

お弟子君

………ああ、解る気がしました。

被害よりもプライド取る人種ってどこにでも居ますよね。

ロリ魔

そんな奴、ここの上層部の奴らだけだ

イデグチ

…………

イデグチ

……なるほど、ぶっ飛んでるな。

君もそれなりに苦労していると見た。お互い様と言う訳か。

お弟子君

と言うわけで、覚悟をするかそこを退くかしてください。

それなりに重要な魔術書を破損するのも忍びないです。

イデグチ

穏やかな話じゃねえな。ビブリオマニアにぶっ殺されるぞ?

まあ、確かに魔術書破損はかなり痛手になるだろうが……。

イデグチ

俺もここの職員には違いないから、放置は出来ん。

ただやられるのを待つほど聞き分けは良くないんだわ。

お弟子君

………

お弟子君

仕方ないですね、貴方にも眠って頂きます。

イデグチ

子守唄でも歌ってくれかい?オペラ歌手でも呼んできな。

今までの奴らと一緒にするなよ?

ロリ魔

こっちの事をなめてる時点で、同じ穴の兄弟だ。

お弟子君

お師匠、それものすごくヤバイ意味です。

ロリ魔

どうでも良い!!

やっちゃえ弟子君!!

イデグチ

速い!!

お弟子君

それを避けるあなたもですがね!!

イデグチ

キタネエ!!
すでに魔術展開してやがったか

お弟子君

あいにく派手な術でないんですよ。

イデグチ

…………………良いだろう。

イデグチ

StartUp!!
Expand!!
Run the book!!

お弟子君

……む、腕時計型のタブレットですか。……書籍を起動しても目立った変化が無い。

お弟子君

こっちと同じ身体強化か?

それとも武器を隠している?

…………距離を取りますか

イデグチ

残念、見えない力ってだけさ!!

お弟子君

ッぐ!!
っが!!

ロリ魔

…………念動力か。

イデグチ

悪いな、距離を取った時点でお前の負けさ!!

お弟子君

………

お弟子君

……っぐ、まずった。ぐう

イデグチ

メアリーの婚活よりは楽だったな。

まずは一人目

ロリ魔

まったく……何やってるんだ弟子君。

お弟子君

いや、すみません。ただ、彼は今までの奴らと全然違いますよ。

強さも、魔術書の質も。月とすっぽんですよ。

ロリ魔

魔術書の質だけで言えば、あんたの持ってる本は更に銀河クラスだけどな。

お弟子君

あいにく、電子魔術使いの弟子ではないのですよ。

戦闘ともなると、スッポン5匹分くらいです。

ロリ魔

それは鍋が盛り上がりそうだ。

もういい、そこで見てなさい。

お弟子君

まだやれますけど?

ロリ魔

それが破損するといろいろ面倒だろう?
良いから寝てなさい

お弟子君

正座して待ってますよ。足が痺れる前に終わらせて頂けると幸いです。

ロリ魔

そこまで言うんだから足は崩すんじゃないぞ?

イデグチ

今度はお嬢さんがお相手か?

ロリ魔

そうだ、不服か?

イデグチ

俺は出来ればもう少し魅力的なレディが好みでね。

ロリ魔

っふ、これでも脱いだらすごいんだぞ?

イデグチ

警察に捕まって、一生モノの社会的傷を負う凄みはあるな。

イデグチ

止めておけよ、俺の実力分かっただろう?

ロリ魔

ええ、大盛りカツ丼くらいには十分なほどだな。

ロリ魔

さっきまで戦った中で一番強いのが一級魔術師とか言ってたが……。

あんたはそれ以上ってことだよな?

イデグチ

一応、特級とか言われているんでね。

ロリ魔

特別扱いなのか。その魔術書もそれなりのモノみたいだ。

イデグチ

いや、これはたまたま持っていただけなんだが……。

ロリ魔

どのみちあんたは使いこなしてるさ。自信を持ってるだけはある

イデグチ

自信はあるぞ? メアリーにも分けてやりたいくらいさ。

だからとっととここで帰ってほしいんだが……

ロリ魔

メアリーがどのくらい自信なさげか知らないけど、そうはいかないな。

ここのお偉いさんに用がある。

イデグチ

用? ……いったい

ロリ魔

メアリーのことくらいにどうだって良いのさ。

ここを押し通れば私は問題ないのだからな!!

ロリ魔

起動!! 
魔術書展開!!
実行[青天のバルリツェル]!!

~続く~

『そんな事もあったかもしれんが昔の話だ。今はもっと大人しいさ』と彼女は言う。~その1~

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