僕は生まれた
彼の手で作られた
その時の顔、その時の声
頭から離れない、彼の姿
さぁ、出来たぞ
僕は生まれた
彼の手で作られた
その時の顔、その時の声
頭から離れない、彼の姿
無理して笑っている
自分の命が残り少ない事を知ってても
彼は笑っていた
クロトは、科学者でも何でもない
ただの機械オタクで
僕は最初で最後の作品だった
言葉、感情、生きる意味
全て教えてくれた
小さなワンルームの部屋で
2人きりで
彼に家族がいる事を知ったのは
クロトが死ぬ間際呟いた妻の名前と……
君の事だった、ミカゲちゃん
えっ……!?
クロトは、君のお父さんだ
何故、僕を作ったの?
僕はそうクロトに聞いた
彼は小さく微笑んで
娘を守って欲しいからだ
悲し気に言ったその声は
少し震えていた
クロトは、突然家族である君たちの前から姿を消した。それが何故だか、もうわかるよね?
・・・・・・
君を……
ミカゲを泣かせたくなかった
だけど僕は、現実を報せなければならない
そして残された彼女を、守らなければならない
それが僕の使命
僕に与えられし、生きる意味
でも、クロトという主を失ってから
僕の身体は次第に、悲鳴をあげていった
治す人がいない
診てもらえる人がいない
劣化していく僕の身体は
それでも使命を全うするために動いていた
だって僕はロボット
心はあっても、人間とは違う
君を見つけ、こうして出会った時には
もう既に遅かった
僕はもうじき止まる……
そんな……アオイ……!!
心を閉ざした君の心に、響かないかもしれない
それでも、伝えたい
使命は完全に全う出来なかったけど
クロトからの言葉は
絶対に伝える
『妻を……ミキを、頼んだよ……』
呆然とするミカゲを余所に
僕はゆっくり立ち上がった
これで、思い残す事はない
哀しいと思っても、涙は流れない
ロボットはとても不便で
人間が、羨ましい
さよなら、ミカゲちゃん
精一杯の笑顔で
僕はそう言った
完全に機能停止するときは
あの部屋でと決めていた
クロトと過ごした
今は僕の家である
あの小さい部屋で
ここで停まる訳にはいかない
動きづらくなった体を引きずって
歩みを進めようとした
腕を掴まれた感覚に
僕は足を止める
座っていたはずの泣いていた彼女は
立ち上がって僕の腕を掴んでいた
一緒に行かせて
泣いて少し赤くなった顔だが
その瞳にはどこか見覚えがあった
クロト……
貴方の娘は、立派に成長したようです