銀執事

も、もうだめだ…!

天井にいた化け物がこちらに気づき、飛び掛ってこようとしたその瞬間

こっちだ!!!

紅夜

!?

廊下の先から叫ぶ声が聞こえ、その声の方向に向かって走った

それと同時に化け物は飛び掛ってきたが、そのまま脱衣所に飛び込み、間一髪で避けることができた

早く!!

銀執事

えっ、ここって…トイレ?

紅夜

トイレの個室に穴…?

突然現れた謎の人物の誘導に従って走ると、その先はトイレだった

4つ目の個室には、化け物が破壊して進入してきた形跡のある外に繋がった穴が空いており、人が出るのには十分の大きさであった

銀執事

と、とにかく出よう!!

紅夜

そうだな!

そのまま俺に付いて来い!!

寮から外に出てそのまま暫く走り続けると、大きな鳥居がある神社にたどり着いた

銀執事

神社…?

紅夜

こんな山奥に神社があったなんてな

小さい神社だけど、ちゃんと効果はあるんだぜ?

銀執事

あっ…!危ないところ助けていただきありがとうございます!

紅夜

ほんとにありがとうございま…
…!!!

よぉ。
久しぶりだな

銀執事

えっ?知り合い?

紅夜

…兄さん!!!

銀執事

兄さん!?紅夜の!?
だって2年前に…

紅夜…?
ああなるほどね。
二人はなんだ、ネット友達ってやつか

紅夜

なんで…なんで2年前から行方くらませてたんだよ。
一体今までどこにいたって言うんだよ。
そしてここはどこなんだ?明らかに環境…それどころか世界自体がおかしいし、この世のものとは思えない化け物もいるし一体どうなってんだよ!!?

銀執事

お、落ち着け!
突然のことで混乱するのはわかるけど…!

紅夜

いつも勝手にいなくなって、勝手に帰ってきて…
そしてまた勝手に俺を置いていくんだろ?

銀執事

ちょっと…

紅夜

もううんざりなんだよ
いつも勝手な兄さんに振り回されて…
今回なんて警察沙汰になって…

…すまなかった

銀執事

今まで心配させて本当にごめんな
沢山つらい思いをさせたな

紅夜

…っ

…おかえり兄さん

ただいま

紅夜は兄との久しぶりの再開に涙を零し、しばらくの間、神社の前で泣き続けた











ほら、もう泣き止め。
いい年した男がわんわん泣くな

紅夜

う、うるせえ!!

銀執事

でもあんな化け物のいる建物の中よくぞご無事で

そっちこそ!
えっと…

紅夜

ああ、紹介するよ。
ネットゲームで知り合った銀執事

銀執事

銀って呼んでください

わかった。
銀、よろしくな!
ということは…俺も紅夜って呼んだ方がいいか?

紅夜

そうだな…
銀と俺的にはそっちの方がわかりやすくてありがたいかも

銀執事

お手数おかけします

おう!
てか敬語じゃなくたっていいのに

紅夜

そうだよな。見た目同い年くらいに見えるし

銀執事

今おいくつなんですか?

えっと…28です

紅夜

嘘つけ今30だろ

銀執事

30!?み、見えない…!

童顔なんです…

紅夜

2年ぶりなのに全く見た目変わらねぇな

銀執事

まあ2年くらいじゃそんなに変わらなかったりするもんだよ

そうだよな

紅夜

とにかくそんな話はさておき…
あそこの研究所から神社に逃げてきたけど、ここも安全とは言いがたいんじゃないか?

銀執事

それもそうだね。
ここの神社も研究所からそう遠くないし…

ああ、それなら心配ない。
ここなら安全だ

紅夜

え?ここが安全だっていう根拠でもあるのか?

うーん…何から話せばいいのかわかんないんだけど、まずは二人を襲ってきたあの化け物の正体から話すとしようか

銀執事

正体?

そう。あの化け物の正体はキメラ。それもただのキメラじゃない。
何十種類もの生物遺伝子を人工的に1つの生命体にした生き物だ

紅夜

…!それはあの研究所を探索している時に資料で見た

おお、本当か!
その様子だと結構いろんなこと知ってるのか?

銀執事

あの建物がキメラ研究所だったということ、従業員が理学部系統の人たちが連れてこられていたということ…くらいかな?

…研究所の資料だけで結構わかるもんだな

紅夜

資料だけじゃなくて研究所の人の日記もあったからな

成る程ね。
ここに来てから謎ばっかだったろ?
俺にわかることなら答えるから何でも質問してくれ

銀執事

もう聞きたいことがありすぎて何から聞けばいいのか…

紅夜

とりあえず…兄さんはどうやってここに?
ここに来る前トンネルを通って俺らは来たんだけど…

俺もだ。
心霊スポットなんてそこまで気になる性格でもないのになぜか例のトンネルが気になって…

銀執事

ここに来るまでにトンネルを通ってきたのは同じなんだね

ということは…トンネルを抜けた瞬間線路の上にいて後ろの道がなくなってたのも同じか?

紅夜

ああ、同じだ。そこの駅のホームに兄さんの手帳が落ちてた。
でもなんで2年もの間こんな所に…?

駅のホームから歩いていると突然研究所の関係者に捕まって、研究所でキメラの研究に携わっていた。
1年働けば解放されるとの契約だったんだけど勿論1年経過しても解放されず。
途中で逃げ出したやつもいたけど捕らえられて実験台にされてた。

銀執事

日記で見たものと同じだ

紅夜

他の研究所の人たちは?兄さん以外に生存者を見てないんだけど…あと、長い間利用された形跡がなかったけどどういうことだ…?

実験中のキメラが1匹逃げ出して…まぁ察しの通りだ。
俺はたまたま生き残った生存者。
その事件が起きたのが大分前の話だからな

銀執事

長い間紅夜の兄さん、よく生き残れましたね

ほんとにな。
そんなこんなしている所でここの神社の存在を知った。なぜか鳥居をくぐった後からはキメラが追いかけてこないんだ。
追いかけてこないとうより鳥居から奥に入って来れないみたいでさ

紅夜

何か特別な力でもあるのか?この神社

ああ。
俺の考察になるんだけど、あの化け物はキメラの一部にされた生物たちの怨念が具現化された生物なんじゃないかと思ってる。
実際、あいつらは鳥居をくぐることができない

銀執事

非現実的すぎる話だけど、今の状況を見ると納得せざるお得ないね

紅夜

もしかして、俺のこのお守りとかも効果あったりするのか?

…!

紅夜がズボンのポケットからお守りを取り出すと、兄の表情が少し強張った

銀執事

どうしたんですか?

い、いやなんでもない。
そうだな、紅夜のそのお守りもきっと効果があるだろう。

紅夜

持っているだけでどう使えばいいかわかんないけどな

とりあえずなくすと困るしポケットに戻しとこうな

紅夜

?あ、ああ…

他に聞きたいことはないか?

銀執事

すごく根本的な話になりますが、ここの世界って一体何なんでしょう…?自分たちがいた世界とはまた違った所に感じるんですが…

根拠はないが、ここは俺らがいた世界とはまた違った所だろうな。
なにがどうなってこの世界と繋がっているのかわかんねぇけど…

紅夜

あまりにも非現実的過ぎるしな…

銀執事

ホラー映画か何かの世界にトリップした気分だ

紅夜

俺たちがいた世界に戻りたいがどうやって戻るか…2年間兄さんは元の世界に帰ろうとはしなかったのか?

…帰る方法は正直知っているんだ

銀執事

えっ!!!

紅夜

な…!?なんで知ってるのに帰ってこねえんだよ!!

銀執事

まさかあの化け物に恋でもしたんですか…?

んな訳ねえだろ!!!

紅夜

じゃあどうして?

仕方ない、俺がわかってる情報全て話す。
俺は…俺等は意図的にこの世界に連れてこられたんだよ

銀執事

!?

さっきも言ったけどあの化け物。
もといキメラの一部とされた生物たちの怨念が具現化された生き物。
あいつを除霊するためにここに連れてこられたんだよ。
自分等の意思で来たつもりだろうが、実は何らかの方法で意図的にな

紅夜

は!?謎すぎるだろ!!

銀執事

じ、除霊ってまたそんな非現実的な…

信じがたい話だとは思うが…
あのキメラだけじゃない、今まであそこの研究所で実験台にされた生物たち全ての怨念の魂がこの世界に溢れかえってんだよ
そしてその怨念たちの思いが俺等をこの世界に呼んだ。
救って欲しいんだよ、犠牲になった奴等はこの世界を

紅夜

ゲームみたいな設定だな…
でもどうして兄さんがそんな事わかるんだ?

銀執事

なんとも信じがたい話だけど…
本当に出られる核心はあるんですか?

ああ、ここに来るきっかけとなったあのトンネルから帰られる

紅夜

なんでそんな事わかるんだ…?

ま、まあいろいろあるんだよ

銀執事

そこまで紅夜のお兄さんが言うんだから試してみる価値はありますね

紅夜

そうだな。俺等より兄さんの方がここの事詳しいのには変わりないだろうし…
でもどうやってあの化け物に太刀打ちするんだ?

あの化け物は視力はあるが聴力がない。
いわば、聴力がないという弱みを活かして俺等3人協力するとどうにかして仕留めることはできるだろう

銀執事

え!?そうなの?

紅夜

そういえばタンスに入って隠れた時、銀がくしゃみしてもあの化け物気づかなかったな…

よくそんな状態でくしゃみができたな…

紅夜

全くだ。
じゃあ化け物退治の武器でも揃えて作戦でも練るか

銀執事

力もないし武器もないし自分は囮になるしかないのかな…

武器ならある。
しかもちゃんとした除霊用のものがな。

紅夜

何だって?

銀執事

無能な自分が武器にされるのかな…

この神社の中に祀られている

そう言うと紅夜の兄は目の前にある神社の拝殿の扉を勢いよく開け、そのまま中へと入った

銀執事

えっ、えっ、神社に土足で…!?

ああ、構わない。例え神が存在してたとしてもあの研究所で起きた悲劇が事実である限り、こんな世界にした神なんて糞食らえだ

神社の中に入りそのまま突き進むと、奥の神棚には刀が祀られていた

紅夜

刀…?

ただの刀じゃない、さっき言った除霊専用の刀だ。
普通の刀じゃあの化け物に太刀打ちできない

銀執事

ほんとだ、よく見ると鞘に札が付いてる…

紅夜

でも何でこの世界から出られる方法といい、この刀といい…いろいろ知っているのに兄さんは行動しなかったんだ?

生憎、俺は手を負傷しててな…刀を持ったところで使いこなせないんだよ

銀執事

負傷!?大丈夫なんですか?
見たところ傷などは見当たりませんが…

ああちょっとな…
動くことは動くんだが…

紅夜

ちょっと手よく見せてよ

!!

紅夜は兄の手を取ろうとしたが、その瞬間兄はすぐに手を引っ込めた

紅夜

えっ?

ご、ごめんちょっと触られると痛むんだ

銀執事

重症ですよそれ。病院に行ったほうが…

大丈夫大丈夫!元の世界に戻ったらすぐに行くって!

紅夜

意地でも俺が連れて行くからな?

おう!
そのためにもさっさとこの世界とはおさらばしようぜ!

銀執事

そうですね。
ところで…この刀どうします?

紅夜

銀が持つか?

銀執事

運動神経といい反射神経といい、紅夜に任せるよ

それがいいな。紅夜は昔から運動神経抜群だったし刀は任せよう

紅夜

手が滑って銀を斬ったらすまないな

銀執事

えっ

紅夜は神棚に祀られていた刀を手に取り、3人は神社から出て、そのまま鳥居の前まで移動した

さっさと除霊してこの悪夢みたいな世界とはおさらばだ

紅夜

早く元の世界に帰ってゲームしてやる

銀執事

帰る前に紅夜に斬られそう…

=7話=
終了

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