天正十年 六月三日 夕刻

山城国綴喜郡 木津川河畔

従者

梅雪様、大丈夫でございますか?

穴山梅雪

うむ、問題ない

従者

最後の船がわたってます故、今しばらくお待ちください

穴山梅雪

うむ

穴山梅雪

!?

従者

梅雪様、おさがりください!

穴山梅雪殿でお間違いござらんか?

穴山梅雪

その方は?

はっ、甲賀が手の者にございます

穴山梅雪

ふむ、遅かったではないか。予定では川向こうでの合流という話ではござらんかったか?

甲賀忍

申し訳もございませぬ。身内に腹を探られておるようで、足取りを消すのに今しばらくの時間が必要でございました

穴山梅雪

そうか、まぁ良い

甲賀忍

これよりは、我々が甲斐までの道中をお守り差し上げます

穴山梅雪

心強いが、賃を取る気ではあるまいな?

甲賀忍

仰せつかっている身であれば、お心遣いなく

穴山梅雪

左様か

従者

梅雪様、最後の船が渡り終えました

穴山梅雪

うむ。では、甲賀衆よ、道中頼むぞ

甲賀忍

仰せつかりました

穴山梅雪

なっ!?

従者

梅雪様!

穴山梅雪

くぅ!

従者

おのれ!いかなる所以あっての所業か!

甲賀忍

瓢箪様が沙汰にございます

従者

なんと!?

従者

ぐっ!?

甲賀忍

生かして通すなよ。これ以上の失態は我らの沽券に関わるからな

忍衆

応!

梅雪一行

!!!

甲賀忍

かかれ!

天正十年 六月四日 夜半

尾張 清洲城

侍女

市姫さま!大変でございます、市姫さま!!

お市

なぁにー?ちょっと待ってね

侍女

市姫さま!

お市

ちょ!いきなり開けないでよっ…って、なんだ、あなたか。びっくりした

侍女

市姫さま…申し訳ございません、書き物をされていたのですか

お市

あー、うん。寝ようと思ってたんだけど蘭丸×竹の新作が降ってきてねぇ。書き留めておこうと思って

侍女

え、ちょっと見せてもらっていいですか?

お市

まだダメー!完成したら一番に回すね!

侍女

あの、市姫さま。私、先日ふと思ったのですが、蘭さまと秀一さまの組み合わせに、坊さまを加えるというのはいかがでしょう?

お市

!まさか、蘭丸と坊丸の兄弟二人に竹が迫られ苦悩すると言うのですか!?あぁっ!なんて甘美な!

侍女

わっ!お気に召していただけますか!?

お市

んー、それならいっそ、二人の兄に密かな思いを寄せる力丸、というのも加えて…

侍女

なんと!ご兄弟で!

お市

禁忌を破るわけにも行かぬ、さりとて捨てきれぬ想い…

侍女

あぁっ!なんて切ない…!

お市

でしょでしょー?

侍女

これは、次回作が待ちきれません!

お市

ふふふー!楽しみにしててよね!あ、で、どしたの?なんか用事?

侍女

あ…そう!そう、大変なんです!今、早馬が駆けてきて、本能寺にて信長様がお討たれになられたと…!

お市

なんですって!?兄上が!?

侍女

はい!

お市

何があったのです!?

侍女

詳しいことはわかりませんが、なんでも、明智様が謀反と…!

お市

そんな明智殿が…!?まさか、兄上が蘭丸やお濃様を重宝しすぎたせいで嫉妬から思い余って…!?

侍女

いい加減にしてくださいこのお腐れ脳!

お市

だって、本能寺には蘭丸もお濃様もおるのでしょう!?きっとそうに違いないわ!

侍女

ないです!

お市

…と、ともかく…皆に、警戒をするように伝えなさい!留守役の侍大将を呼んで!

侍女

はい!

お市

…それと、誰か人を寄越して!すぐに勝家のおじちゃんと連絡を取らないと!

侍女

それについては既に早馬を回してあるようです!

お市

そう、なら良かった。あなたはすぐに娘たちのそばに行って。きっと怯えているわ

侍女

はい、市姫さま!

お市

陣頭指揮は私が摂ります。その間、娘たちを頼んだわよ

侍女

お任せを!

お市

お市

兄上…どうか、ご無事で…!

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