羽鳥さん、羽鳥さん、ビッグニュースです!
……………。
…………………。
…………………。
…………………。
あれ、なんですか?
この空気。
…………。
羽鳥に用事か?
それなら、俺は失礼するよ。
あ……。
んー…なんか邪魔しちゃったのかな。もう少し空気を読んで入るべきだった…。
じーーーー。
あ、羽鳥さん…。あのですねなんとなくいろいろわかったんですよ。
バタン
突然の事だった、こちらの報告を待つかのようにじっと見る羽鳥さんに、事情を伝えようとしたときのこと。
目の前の羽鳥さんの顔は、みるみる青ざめてその場に倒れる。
は、羽鳥さん!?
さ、佐藤くん…
弘継は…もう………だめだ。
え!?
どういうことですか!!!
……………。
田畑さんの目は、何かを伝えることを臆すかのような目で、視線は動かさずに西へ指を指した。
は?
羽鳥は…俺の特製あずきシナモン唐辛子ハンバーグを食べて…くっ…。
不味いもの食っただけか!
不味いだけじゃない、羽鳥の嫌いな辛いものがカモフラージュされた、見かけではわからない完璧なディナーだ。
尚悪いわ!!!
まぁ、生きてるんですね?
当たり前だろう?
うわ、コイツむかつく。
それで、佐藤くん。
なんかようかね?
あぁ、ちょっと…
羽鳥さんに用事がありまして…。
俺でよければ聞こう。
うーん…
只野さんの話をしたいんだけど…
チラッ
この部屋に只野さんいるんですけど。
どうしよう………。
言ってしまえ☆
……………多分、全部…
只野さんが仕組んだんだと思います。
そうだろうね。
え!?
は?
脚本家の彼女に…この話を見せてもらったからね。
は…?
……まぁいい、とりあえず佐藤くんの言いたいことは理解できる…ということだ。
はぁ………。
しかし…聞き捨てならないね。
何故僕が…仕組んだと?
只野さん、あなた…佐倉さんとお付き合いされたんですよね?しかも今日のことです。
…………それは佐倉さんが?
そうです。
それは…彼女が恋愛狂いだったからだよ、恋愛していないと…気が狂ってしまう子だ。
はい……?
彼女、数年前は地味な子でね。
それがコンプレックスで…しかもいじめにあってた所為か…………恋人がいる勝ち組っていう響きが…酷く魅力的なんだろうね?
突然なんの話なんだ…。
そんな彼女が…
僕は酷く美しく見えた。
…………。
だから告白しようと思ったんだ。
はぁ?
そしたらさ、彼女…毎日見守ってた僕に目もくれず…告白する間もなく………彼氏作っててさ。
………只野さんが佐倉さんに片思いしてたってことで…いいのかな。
彼氏はよ死ねって思ったよ。
…………。
まぁ、今は邪魔な彼氏も死んで…………無事にお付き合いできました…めでたしめでたし。
あの…すみません、僕が聞きたいことはそうじゃなくて……。
…………今只野さんが言ったように…日向さんがお亡くなりになりました、それは…只野さんの所為ですよね?
先ほど、佐倉さんのことを聞いたのは…それが動機だと思ったからです。
……話が飛躍しすぎかな。
何故…僕が…容疑者みたいに?
いや、あなた調理場から包丁持ってったでしょう。
なるほど。
確かに怪しいね。
でも彼は自殺だ。
僕が殺したわけじゃない。
そそのかしたのは只野、君だけどな。
あ…やっぱり。
き、君達…そこは質問形式で言うところじゃなかったかい?
そそのかしたんだろ!?
………………。
そうだけど?
でも殺してないんだし…
どうこう言われる義理は…。
この人…
自殺関与・同意殺人罪を知らない…?
…………なら
一通り白状してください。
そうだそうだ、吐いちゃえ!
なんだこのノリは。
…………。
ずっと昔から彼女が好きだった。
だというのに…彼女は高校デビューというやつで立派なギャルに転職、無論彼氏も作った!
彼氏関与の相談は全部僕にする。
そして、最近は彼氏が構ってくれないって泣きついてくる…。
だからさ、アドバイスしたんだ。君の命がかかれば…彼にも、君の尊さがわかるんじゃないかって。
ついでに、死んだと勘違いして…
後追いしてくれたらいいのに…ってね。
心の中で思っていたよ。
案の定、大成功!
あぁ、なんて幸せ者なんだろうね。思い続ければ報われる思いもあるんだね。一生この愛を貫こうと思うよ。
でも、死ねば?って言っただけなのに…こんな幸せになっていいんだろうか。
この人は…おかしい。
罪悪感みたいなものは…。
ん?何故だい?
感謝はしてるよ。
感謝すれど…罪悪感はない。
邪魔なら消えてほしい、普通だよ。
………………。
……人一人の命をなんだと…。
………………只野
このまま拘束しても問題ないな?
拘束される理由なんてないね。
僕は殺してもいないし…
まして此処は、一般社会じゃない。
法なんてある訳がない。
それに僕は、もう何もしない。
それに…僕を拘束したら…佐倉さんが可哀想だよ。せっかく恋人が出来たのにね。
…………法はなくとも
犯罪は犯罪だ。
犯罪か犯罪じゃないか…難しい判断だな…。万が一にも、今後問題があったとして…これは大きな違いになるんじゃ…。
言っておくけど、悪意があるかないか…なんて言わないだろうね?それだったら斑くんは解放かな?
まさか、あいつは人を…
うん。だから、悪意とかの問題じゃなくていいよね?
………それでも…拘束する。
…………………。
そっか。
じゃあ潔く捕まろうかな。
え?
佐倉さんを一度でも手に入れた。
でも、もういらない。
どういう……。
じゃ、縛っておくれ。
え、え?いや…
ぐるぐるぐるぐる~
縄持ってんのかよ!
常備。
もっとキツく!
ふんっ!
ただのドMか!
じゃあ、監禁してこよう。
すまないが…
弘継を頼めるか?
しかしなんだろう…
府に落ちないんだよなぁ…。
というか羽鳥さん…
放置されてましたけど…
大丈夫ですか?生きてますか?
実に府に落ちないな。
お蔭さまで死ねなかった。
そこかよ
まぁ、生還できてよかったです。
話は…聞いてましたか?
……もっとキツく…から。
ロクに聞いてねぇ!
まぁいい
後でゆきりんから聞こう。
ちゃんと聞いてくださいね。
縛る件とかは聞かなくていいですから。
あぁ。
ところで聞きたいことがあるだろ?
聞きたいことですか…?
この件が落ち着いたら
話せと、拒否権はないと…。
突拍子もなく言ってただろう。
あぁ…そうでした。
それなんですけど…
どうやら、物語そのままって訳ではないんですね…。
何故?
何故って…亡くなったのは日向さんだけじゃないですか、佐倉さんが後追いしてません。
当然だ。
え?
…………これは涼風…
涼風美代が書いた物語だ。
はぁ!?
…………実際の物語通りに事が運んでいるんじゃない、脚本家が書いた通りに話が出来ている…。
そん…な。
涼風はロミオとジュリエット…原文から脚本を書いていた、だから工藤は亡くなった。
え?工藤さんも関係が?
そうだ。
工藤は…マキューシオは…
街頭で争いに巻き込まれてなくなった。
工藤は…どうだった…?
………二人の喧嘩に巻き込まれ…?
そういうことだ。
じゃあ…
そうだ、涼風が書き直さなければ…原文通りにロミオもジュリエットも亡くなっていただろう。
…………とりあえず、何故こうなってるのかは理解しました。
そうか。
では、何故…物語通りに事が運ぶんでしょうか…。どう考えても、誰かが仕向けているか…
だから聞いただろう?
君は…不確か存在を信じるかと。
これが…そうなってしまう
運命やなにかとでも?
そうだ。
おかしい……ですよ。
普通じゃないと思います。
今更だな。
早い話、普通の人はいないだろう。
…………只野さんも、よく理解はできなかった。ましてや…これを運で片付ける羽鳥さんも理解できない。
そもそも羽鳥さん…わかっていながら何故…
………書いた本人以外は変えられない、その書いた本人も…書いた脚本そのものがなければ…どうあがいたとこで…そうなってしまう。
………もしかして、工藤さん達と密談というのは…。
そうだ。
だが…上手いこといかなかった…。
けれど、君は…君なら止められるかもしれないんだ。
何故……。
…………君だけが、物語の登場人物じゃないからだ。
え………。
あれから何度も問い詰めた。
あれは、どういう意味であるのかと。
けれど羽鳥さんは首を振るばかりだ。
脚本家が書いた物語通りになってしまう。
書いた脚本は本人しか手直しが出来ない。
コピーではなく本人が書いた脚本…
即ち直筆のものしか、脚本家自身も手直しできない。
つまりは、そういうことなのだろう。
僕が登場人物ではないということは…
誰の脚本にも登場しないという意味なのだろうか。
16話 恋心・愛情・狂愛3 完