SNSが急速に浸透した現代。
とあるSNS『オカルト研究部』では、怪談話を検証するためにオフ会を行う計画を立てていた。
オフ会とはネットでしか交流しない彼らが実際に顔を合わせる機会のことを言う。

ルールをいくつか設定して、その中でリアルのことは聞かない、という大前提で彼らは出会うことになった。
向かう先は有名な某所にある古びた洋館。
そこは夜な夜などころか真昼間でも幽霊やらが闊歩するカオス地帯らしく、彼らはワクワクしながら某駅に集合時間を決めて出発した。
それが、のちのちにとんでもないきげ……ではなく、悲劇になるとはまだ誰も予感してなかった。

某駅前。
集合時間になって、SNSに到着の一報を送る。
一応、服装などは記してあるから、きっと分かってくれるとは思うが。
初めてのオフ会。楽しみであると同時に不安もある。
一体どんな人が来るのだろう?
そんな想いを抱きながら、適当にあったベンチに腰かける。
そこには……何か、飼い主が捨てたのか野生なのかよく分からない、デッカイ白兎が鎮座している。
都会はこんななのか、と田舎者である自分は分からないのであえて気にしないで座る。

ミスターアンゴーラ

よう、きてくれたか
随分と気がはえーな
まだ時間までだいぶ余裕があるぜ?
格好からして、あんたがクロノ・クロノスか

……今、何が起きた。
周りには人はいない。
なのに隣から、声?
そっちの方向を見ても誰もいない。
いるのは……。

ミスターアンゴーラ

おいオメー、何キョロキョロしてんだ
俺だよ俺
俺がオメーに声かけてるんだ

クロノ

兎が……喋った!?

ミスターアンゴーラ

あァん?

……白いうさぎがこっちを見上げて語りかけている。
周囲を行き交う人もギョッとした様子でそのうさぎを見ていた。
つまり、空耳でもなければ、自分だけ以下略の痛い風景じゃないらしい。

ミスターアンゴーラ

前から研究部で言ってんだろうが
何今更驚いてるんだよ
俺はミスターアンゴーラ
お前らがバカうさ言うてるアレだよ

クロノ

…………えと……
どうも……はじめまして……
研究部ではお世話になってます……クロノです

ルールそのいち、リアルで会っても本名を使わない。
HNでお互いを呼び合うこと。
そのルールに乗っ取り、彼女はクロノと名乗る。

ミスターアンゴーラ

おう、今回は俺の企画したオフ会に参加してくれてありがとうよ
改めて名乗らせてもらうぜ
SNS、『オカルト研究部』の管理人兼今回の立案者、アンゴーラだ

ミスターアンゴーラ

なぜうさぎである俺が喋っているとか、管理人をしているとか、そもそもお前何なんだとかなど、言いたいことは山ほどあるだろう
だが、それはお互いリアルのことだ
聞かないルールがあるのを忘れるなよ

ミスターアンゴーラ

俺は俺だ
うさぎであっても話ができる
そこはオメーら人間と大差はねえ

クロノ

はぁ……

ミスターアンゴーラ

そういうこった
クロノは初めてだったか?
緊張してるのかもしれねえがわりと知られてるぜ?

クロノ

マジっすか……

ロボタリアン

ソウイウコトデスヨ
クロノスサン

クロノ

!?

突然会話に乱入してくる謎の声。
合成音声よろしくなそれを発する謎の物体が、そこには立っていた。
クロノが見ると、変なロボットがいるではないか。

ミスターアンゴーラ

オメーにしては遅かったなロボタリアン
今回の道案内は任せるぜ?

ロボタリアン

リョウカイダゼ、ミスター

……そういえば、SNSでやたらアンゴーラと仲良くしている奴がいた。
名前はロボタリアン。
変なHNだと思っていたら、こいつ人口知能を搭載しているロボットらしい。
うさぎが解説してくれた。

ロボタリアン

オレハロボタリアン
『ロボ』デイイデスヨ
ハジメテノゴサンカデシタネ
オレニマカセテクダサイ

クロノ

あ、はい……よろしくお願いします

で、だ。何人かいるウチの主催者側の二人が揃った。
それがいいが。
……目立つ。
うさぎとロボットに囲まれているクロノは現在悪目立ちしていた。
胃が痛い。
本来地味に生きてきたクロノにはこの仕打ちは厳しかった。

紅茶

あのー……すいません
ちょっといいですか?

スリッ・ポー

フッ、俺には分かるぞ……
貴様らが我らと共に未知へと進む同志だとな!

紅茶

スリッポン、黙ってて

スリッ・ポー

俺はスリ・ッポーだ
間違えるな緑茶

紅茶

わたしは紅茶だっての!

……何か騒がしいのが来た。
SNSに更に二通、到着の一報が届く。
それはどうやら、この二人のようだった。

ミスターアンゴーラ

おう、きたようだな
紅茶とスリッポンか
遠くからよく来たな
歓迎するぜ
今回もよろしく頼む

うさぎが出迎える。
喋ることに、驚かないかと心配していたのが。

紅茶

あっ、アンゴラさん
どうも、紅茶っす!
毎回どうもー!
今回もお誘いありがとうございます!

スリッ・ポー

フッ……管理人殿
来度もよろしく頼む
あと俺はスリ・ッポーだ
スリッポンではない

驚かない。むしろ普通に対応している。
えー……と脱力するクロノ。
そこまでオカルト研究部では有名なのかこのうさぎ管理人。
新参者のクロノは知らない。

紅茶

あ、キミがクロノさんだね?
はじめまして
研究部でいつも絡んでくれてありがとう
わたしが紅茶だよ
こっちがスリッポン
今回はよろしくね

スリッ・ポー

フッ……例の新参者か
俺はスリッ・ポー
スリッポンではないから間違えるなよ

初対面のクロノに丁寧に対応する紅茶。
それに対して、言いたいことだけ一言言うと黙るスリッポン。

チェシャ

にゃーーーー!
出遅れたァーーーー!

ストレア

にゃーーーーーー!!

そして、最後の二人も無事到着。
……一報入れるっていう約束を忘れていたらしい。
一番姦しく登場した。

ロボタリアン

オフタリトモ、ヤカマシイデスヨ
クロノサンガオドロイテシマイマス

ロボがそう言いながら煩い奴らに鉄拳制裁。
本当に、悪目立ちしているんですが……。
頭を抱えて黙る一人と一匹。

チェシャ

おう……もう……
ロボ、いきなりなにするね!?

ストレア

いったいなぁ!!
なにするのよポンコツロボ!!

殴られた二人は起き上がってロボに突っかかる。
……ん? 二人?

クロノ

ワッツッ!?

ストレア

ん?

さっきまで猫だった奴が人間になってる!?

混乱するクロノ。
待て、もしかして初めてのオフ会で緊張しすぎて、錯乱でもしているのだろうか。
視線に気付いた少女がこっちに……待て。

ストレア

へぇ……珍しい……
普通の人間が混ざってる……

尻尾と耳が生えている!?
しかも動いているだと!?

クロノ

…………

ストレア

……

暫し、無言で見つめ合う。
否、観察し合う。

チェシャ

ニャーーーーー!!

クロノ

おぶぅっ!?

横合いからきた拳がクロノの鳩尾にぶち当たる。
意味不明なバイオレンスに、周囲の人も本人も含めて驚いた。

チェシャ

にゃはははははっ!!
うちねー、チェシャいうね
ぬしはクロノっていうねんね
うさぎからきいとるん
今んは、ゆーこーのあかし

クロノ

な、なにが……っ?

お腹を押さえて蹲るクロノ。
何で今殴られたし。
他のメンツはやれやれと肩をすくめるが、そんな問題じゃない。

ストレア

やりすぎよ、チェシャ
……ごめんなさいねこいつバカだから
握手感覚でパンチとかするの

ストレア

名乗り遅れたわね
あたしはストレア
大丈夫、人間さん?

助け起こしてくれる、不思議生物。
ストレアとチェシャと言うらしい。
クロノを人間さんという彼女は、チェシャの無礼を詫びる。

ストレア

中身がケダモノと同類だからね……
倫理ってものを知らないから、ああして殴るのよ
悪気はないんだけど、ムカついたら反撃してもいいわよ

クロノ

…………結構、痛いんですけど

ストレア

でしょうね、人間さんには
あたしには敬語いらないわ、人間さん
お返しはもうポンコツがやってるから、今回は見逃して頂戴

見れば、チェシャをヘッドロックして、ロボが反撃しているではないか。

ロボタリアン

テメェは毎回何やらかしてくれてんだ?
聞いてんのかこのバカネコ一号

チェシャ

にゃーーーーーーっ!
死ぬ死ぬギブギブ、たっぷたっぷぅううう!!

すごい声色で絞め上げる。
ロボさん、意外に優しい人だった。
……人?

紅茶

あはははっ、ごめんね
毎回、わたしらこんな風だからさ
いつものノリでクロノさんとこ驚かせちゃった

スリッ・ポー

無理はするなよ新人
痛みが引かないなら後で俺が治そう

スリッポンがキメ顔でそう言ってくれる。
つまり、どういうことだこれは。
自分以外経験者ということか。

ミスターアンゴーラ

うっし、全員集まったな
じゃあそろそろ出発するぞ
件の洋館まではそこそこ距離がある
買い物とかしながらゆっくりと逝こうや

クロノ

逝くって……死ぬっ!?

ストレア

気にしちゃダメよ
毎度のことだから

不思議生物に言われると、何だか理不尽。
そんなこんなで。
よく分からないSNSとのメンツで始まる検証が、今幕を開ける。
目立つは、噂の広まる廃墟の洋館だ。

はじめての、オフ会(何か変なのいる!)

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