渡斗真

というわけで、うちのクラスは吸血鬼のコスプレ喫茶をすることになりましたー。




渡くんの発言を私は黒板に書き写す。

ロングホームルームの時間。
いよいよ学祭の準備が始まる。



もうそんな季節だったのか、渡くんが私に言うまですっかりと忘れていた。

最近いろんなことがありすぎて。

学校行事なんて目に入らないくらいのことが起こりすぎて。



クラスメイト達がはしゃいでいるのに対して、私は逃げ出したくて仕方なかった。


こんな大役を買って出るタイプでは全くない。




早速今日から
実行委員は放課後にミーティング。


衣装どうするのー?

布あれば作るよ!

メニュー考えるのやりたーい!




盛り上がるみんなが羨ましい。


そして、

それを楽しそうに見つめる渡くんが羨ましい。



渡斗真

じゃあこの案で通してくるね。吸血鬼、楽しみだね。




渡くんの声が教室に響いては
比例してみんながはしゃぐ。


それがなんだか悔しくて渡くんを軽く睨むと、
たまたま視線が噛み合ってしまって驚いて逸らす。



私は学祭にとてもはりきってるやつだと、周りからは認識されたようで。



青木さんが、って意外だよね。



驚いたように言われたのには、
貼り付けた苦笑いで返事をした。



こんなはずではなかったのだ、という言い訳は誰にも届かない。


学祭、楽しみなはずだったんだけどな。








お昼休みの屋上、
いつも通りのメロンパン王子と、私。

渡斗真

青木さん、今日からミーティングだよ。サボっちゃダメだよ。

青木尚

わかってるよ、さぼったりなんかしない。渡くんじゃあるまいし。




私がわざと余計な一言を付け加えると、
渡くんはクスリと笑って可愛くないねと言う。


渡斗真

放課後まで一緒にいれるなんてやっぱ嬉しいね。

青木尚

…っ。




私の嫌味を華麗にスルーして、さらに追い討ちをかけるように笑って私に顔を近づけた。


学校、で、
二人の唇の距離、15センチと少し。



渡斗真

キス、してい?

青木尚

だっ、



だめ、と言おうとして
これ以上近付きも離れもしない渡くんに言葉が詰まる。

渡斗真

嘘。して欲しかったらするけどね。



嘘、というのなら、
今すぐ離れて欲しい。

私が顔をそらして逃げればいいだけの話なのだけど、彼の視線に捕まって、私は動けなかった。



ギラリと私のことを飲み込んでしまいそうな渡くんの目が、私は怖い。


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