カラオケルームを出た途端、
先ほどまでの雰囲気は消え去った。
暗い部屋で、2人っきりの空間で、
まるで魔法にかかってしまったような、それが解けてしまったような。
なんと呼べばいいのだろう、
この、ナニかを一枚被ってしまったような妙な感覚のことを。
カラオケルームを出た途端、
先ほどまでの雰囲気は消え去った。
暗い部屋で、2人っきりの空間で、
まるで魔法にかかってしまったような、それが解けてしまったような。
なんと呼べばいいのだろう、
この、ナニかを一枚被ってしまったような妙な感覚のことを。
ありがとうね、楽しかった。
こちらこそ、です。
私がそう言うと、
小林さんは綺麗な顔をして笑う。
映画館に向かうときよりも近くなった歩く距離、右手の甲が、彼の手にぶつかった。
すると小林さんの指が、私の小指に絡む。
これは、意図的なものだ。
…大学の人とかに、見られたらどうするんですか。
どうしようね。
どうしようね、じゃない。
どうしようね、じゃないです。
その何も困ってなさそうな目をして、眉をひそめないでください。
私の最寄駅にたどり着く。
また、誘っていい?
恐ろしく落ち着いた笑顔で、
彼は私にそう聞いた。
イエス、や、ノー、なんて言えなかったから、
とりあえずで本当に小さく、うなづいた。
私はこの日に知ってしまったのだと思う。
「好き」が無くても「恋人」じゃなくても、
キスをしたり手をつないだり出来てしまうことを。
私は認めてしまったのだ。
自分がこういうことを出来てしまう人間であるということを。
ここで小林さんのことを軽蔑しなかったことが、私の最大の過ちだ。
酔っていたのだろうか、少しだけ大人になってしまったかのような状況に。