はぁ……今日も1日終わりだな
ゲームの世界みたいに急に女の子にモテたりすればいいのに

真田(さなだ)明義(あきよし)は帰りのホームルームが終わった後に呟いた。
特筆することはあまりない普通の高校生である。
人並みに勉強ができるが、悲しいことに彼女はいない。

明義

余計なお世話だ

一人で何言ってんだ?

明義が地の文に突っ込んでくるのを不思議そうに眺めているのはクラスメイトの堂上(どのうえ)昌弘(まさひろ)である。

明義

いや、なんか噂話をされる気がして

昌弘

幻聴かよ、やべぇな

明義

うるさいなぁ

いたって普通の男子高校生である
異能の力を持つわけでもなければ、世界の危機を救うわけでもない。

そんなことに憧れを持っていたこともある高校生だった。

明義

なぁ昌弘
なんで僕たちって彼女できないんだろうな?

昌弘

知るか
ってか一緒にすんな

いつものようにバカな会話をしていると教室の入り口から明義を呼ぶ声があった。
その方を向くと一人の男子が手招きをしている。その奥には別のクラスの女の子がいた。

昌弘

あれ!隣のクラスの坂上芽衣子じゃんか!
なんであの子がお前のこと?
お前!俺に黙ってなんかあったんか?

明義

ないよ!
僕だってなんで呼ばれたか分かんないけど……
とにかく行ってくる

そう言って明義は芽衣子の元へ向かった。

明義

えっと……坂上芽衣子さん?だっけ?

芽衣子

うん……ちょっと真田くんに頼みごとがあるんだ……
ここじゃ話しにくいから場所変えていい?

明義

え?
いいけど……

そう言って芽衣子と明義は教室を離れた

芽衣子

ごめんね帰る前なのに

明義

全然気にしてないよ
で、頼みごとって?

明義の問いかけに芽衣子は少しためらったような表情を浮かべたが、何かを決めるようにスマートフォンを操作し、開いた画面を明義に見せた。

明義

「LIFE」?

明義は画面に表示された文字を読み上げる。
芽衣子はうんとつぶやいた

芽衣子

実はね、真田くんにもこのサイトに登録してほしくて

明義

サイトに登録?

頼みごとという単語からはあまり想像のつかないような簡単な単語に明義は拍子抜けしたような声を出す。

芽衣子は明義の顔を見てその事情をつづけた

芽衣子

こんなこと頼むのも何か変だなって思うかもしれないけど……このサイトは知り合いの人が運営してるSNSサイトでね。登録者が少ないから真田くんにも登録してほしくて。

明義

そうなんだ……

明義は歯切れの悪い返事を返す
もし、芽衣子の話が本当ならこんなところに呼び出す必要はないのだ。

明義

それならここじゃ無くてみんなに相談すればいいんじゃないかな?

明義は疑問を素直にぶつけた。
本当に広めたいならもっと顔の広い人などに声をかければいいのだ。

芽衣子は聞かれるだろうといった表情で答えた。

芽衣子

実は……私学校外での活動があるの……
平たく言えばネットアイドルというか……
それで、みんなに知ってほしいけど、いきなりだと変な嫌がらせとか受けちゃいそうって思って……

明義

つまり……ほとんどリアルの世界の知り合いがいない環境に身を置きたいと……

芽衣子

そう
でも、全くいないっていうのも不安だったし……そこで真田くんに私のファン1号になってもらおうと思ったの

明義

なんでまた僕なんだ?

芽衣子

真田くんは秘密をちゃんと守ってくれそうだし、ネットアイドルとかに差別とか無さそうだし、友達少なそうだし

明義

なるほど……

一つけなし言葉が聞こえた気がするが、気のせいということにしておいた。

芽衣子

どうかな?
登録も簡単だし、使い方も有名なSNSサイトとあんまり変わらないはずだから……

明義

わかったよ
家に帰ったら登録する

芽衣子

ありがとう!
これ私のIDね!
登録したら申請してね、よろしく!

そう言って芽衣子は夕暮れの廊下を自分の教室のほうへ走って戻っていった。
よほどうれしかったのかその姿は文字通り浮足立っているようだった

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