ーー時は平安。




朱雀大路を征く一人の陰陽師の影。


日下部貞家

今日も風が冷たいな……。

日下部貞家

まるで浮世の人の心のようだ。












日下部貞家

ん?







日下部貞家

宮中は追儺か……。
今年も、もう終わりだな。

日下部貞家

しかし、勝手なもんだ。宮中から追いやられた鬼はどこへ行くと思ってやがんだ。




宮中の外へと追いやられた鬼は、



行き場を求め平民の元へと向かう。







鬼の仮宿とされた平民の家では



年も越せなくなる。



日下部貞家

……さて、今年も追いやられた鬼どもの処理と行こうか。





無名の陰陽師は


一人ごちりながら


朱雀大路を征く。






日下部貞家

……む?






貞家は異変を感じ、 空を見上げる。




日下部貞家

……都を覆っていた結界が……消えた……?

日下部貞家

強大な邪気が……集まっているな……。
艮……鬼門だ……。









貞家は朱雀大路をはずれ




艮の方角へと走った。












* * *








日下部貞家

ハァ、ハァ……。

日下部貞家

邪気の出処はこの辺りのハズ。

日下部貞家

む……。





気配を感じて身を隠す貞家。



木の影から覗くその視線の先には



不気味な影が集まっていた。




コングォ=ガン

ようやく着いた。

ヨテンガ

みな揃ったか?

コングォ=トゥ

……1人足りないように見える。

ホゥ=コゥ

コングォ=ホゥがまだのようだ。








日下部貞家

何だあれは!?

日下部貞家

……鬼……いや、式神か?
1…2…3…5体も集まって何をしているんだ?








コングォ=ヒ

来たぞ。コングォ=ホゥだ。

コングォ=ホゥ

すまない。
調査対象の欲求の量が思いのほか大きすぎたのだ。

ヨテンガ

かまわぬ。任務遂行が至上命題だ。

日下部貞家

6体になったな……。
都の外側で結界を貼っていたのもコイツラか?一体誰が使役してやがる?

ヨテンガ

さて、集まりし同胞よ。永きに渡る調査はこれをもって終了だ。

ヨテンガ

夜を待ち我らが主の元へと帰ろうぞ。

ヨテンガ

それまでこの場にて世界を静観するとしようぞ。

日下部貞家

今夜といったな……

日下部貞家

好き勝手はさせんぞ!

呪文の書かれた札

日下部貞家

いでよ、白狐!

コン

日下部貞家

オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ

コン

日下部貞家

オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ

コン

日下部貞家

オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ〜〜!!

コン

日下部貞家

破魔降雪!

ゴォォォォォ!!!






白狐の口から



無数の氷の礫が飛び出し



空へと飛散する。







日下部貞家

オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ
オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ
オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ……









コングォ=トゥ

この雪はなんだ?
ただの水の結晶とは違うようだぞ。

ヨテンガ

恐らく『呪詛』と言うものだ。
この星の生命体の技法の一つのようだ。

ホゥ=コゥ

まずい。
星間飛行に必要なエネルギーを
頭部から奪われている。

ヨテンガ

ふむ。
この状態で飛ぶには
黄金の蜂蜜酒が足らぬ。

コングォ=ガン

おのれ、低俗な生命体どもめ。

コングォ=ヒ

今夜、帰らねばならぬというのに。

ホゥ=コゥ

この機を逃しては次はいつになる事か。

ヨテンガ

む?

ヨテンガ

生命体が接近して来たようだ。

ホゥ=コゥ

一旦、マテリアライズするとしよう。









おじいさん

……編笠、全く売れんかったのぅ……。
こんなに雪が降りしきっているというのに……。

おじいさん

正月の準備もできねぇな……。
今年の正月は白菜の漬物で我慢するべ……。

おじいさん

ん?





年老いた傘売は道端に並ぶ




6体の石像に気がついた。




おじいさん

こんなところに地蔵さまなんてあったっぺか?

おじいさん

うっへぇ……。
変わった地蔵さまだなぁ……。

おじいさん

それにしても寒かろうに……。

おじいさん

そうだ!

おじいさん

売れなかったこの傘、地蔵さまにかぶせてやんべ。




売は石像の頭の雪を払うと、



売れ残った5つの傘をに次々とかぶせた。


おじいさん

一つ足りなかったな……

おじいさん

オラの手ぬぐいでわりぃんだが、最後の地蔵さまはこれを被ってくんろ。

    にまぁ〜    

おじいさん

地蔵さま、笑っているみたいだぁ。



傘売はそう言うと



降りしきる雪の中、



帰路へと付いた。

















日下部貞家

な……何てことだ、傘売が
鬼の手助けをしてしまうとは……。

日下部貞家

うぐっ……!

日下部貞家

呪詛…返し……か……、無念……。





呪詛を防がれてしまった貞家は



その呪詛返しにより命を落とした。


コ〜ン……。






















ヨテンガ

……理解し難い行動だが、
これなら無事に星間飛行を行える。

ホゥ=コゥ

先ほどの生命体はなぜ我らを助けたのか。

コングォ=ヒ

離陸も近いが……、サンプリングの必要があるな。






































おじいさん

……でなぁ、傘をみな地蔵さまにかぶせてしまったんじゃ。
……すまない。

おばあさん

それは良いことをしたではないですか。
ささ、温まりましょう。

おじいさん

ん?

おじいさん

なんか遠くの方から聞こえるなぁ……

おばあさん

どんどん近づいて来ますよ……


次第に近づいていくる地響き。



そして、家の前まで来たかと思うと





と、地響きはやんだ。



おじいさん

……止まった?

おじいさん

ひぃぃ







ひときわ大きな音がしたかと思うと


今度は地響きが遠のいていった。





おじいさん

一体何じゃったんだ!?




そう言いながら傘売は玄関を開けた。


すると、そこには


おじいさん

米に肉に山菜にこれは酒じゃ

おばあさん

あら、ほんと。
こんなにたくさん。



傘売は地響きのする方を見る。



それは去りゆく6体の石像の姿。


おじいさん

あれは、地蔵さま

おじいさん

ありがたや、ありがたや






















コングォ=ヒ

帰還前に予期せぬ収穫であったな。

ホゥ=コゥ

ふむ。適合性があれば、彼の者はいずれ我らが主の眷属として迎えてやっても良いだろう。

コングォ=ガン

この星の生命体が、それほどの命をもつと言うのか?

ヨテンガ

その時はその時だ。無くても良い事。取るには足らぬ。

ヨテンガ

さあ帰ろう。我らが主の呼ぶ声の元へ。










ーー追儺の行われたその夜。





平安京の鬼門の方角から




地鳴りのような音が聞こえたという。


































おじいさん

ちょっと変わった味がする米じゃのう。

おばあさん

おいしくいただきましょう。

おじいさん

この肉も旨いのう。一体何の肉じゃ?







































ーーその後






傘売の老夫婦の姿を見たものはいない。
































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