辺りが光を失われていく夕方。

人の数は収まることを知らず、朝よりも増えている気がする。

そんな時間に、女の子一人でメイド喫茶に入るのは変なことでしょうか?

変ですよね。

知ってます。

そんな恥をかえりみず、私はアキバでも有名なメイド喫茶へと足を踏み入れた。

いらっしゃいませ~、ご主人様! 何名様ですか?

声が高く、厚化粧のブリっ子メイド(店員)に声をかけられた。

何かイラっとする。

羽島桜

あの…待ち合わせです~

かしこまりました! こちらの席へどうぞ!

この店に入るのでも一苦労だったのに、店の人に話しかけられると、余計に緊張する。

しかも、店のお客さんが私の事をずっと見てる…怖いな~。

こちらのお席です。ごゆっくりどうぞ!

ゆっくりしたくないな~。

ブリっ子メイドに案内された席には、すでに先客がいた。

早川実

お疲れ~。桜~

羽島桜

お疲れ様です~。実さん

なぜ、実さんがここにいるか、疑問に思った人がいるかもしれません。

いえ、全員思っているでしょう。

今日のデート(?)は実さんが考えたプランで、今日一日ずっと隠れて見守ってくれていました。

羽島桜

信一くんって、本当にアニメが好きなんですね

早川実

それはもう! お陰で私も少しならアニメの事が話せるようになったしね

今回私が、アキバを選んだ理由は一つ。

外国で人気だったから、ではなく…

信一くんが行きたがっている事を実さんに聞いたから

である。

早川実

それにしても、今日のデートで結構近づいたんじゃない?

羽島桜

何にですか?

早川実

鈍感か! 『信一に』に決まってるじゃん

そこで、今日の出来事を思い出してみた…。

羽島桜

そ、そーですね!

やばい、ニヤケが止まらない。

早川実

・・・

羽島桜

どーしたんですか?

早川実

な、何でもないよ

…少し怒ってるのかな?

なぜでしょう?

早川実

そ、それよりさ! 次はどうする?

羽島桜

次ですか…お弁当を作るとかどうでしょう?

早川実

お、いいね! 今日帰ったらメールで好きな物とか聞いみるよ

羽島桜

ありがとうございます!

実さんって、何で私にここまでしてるれるのだろう?

彼女の心の広さに脱帽です。

早川実

さてと、次やることも決まったし、反省会もお開きにしますか

羽島桜

そうですね!

私達は会計を済まし、メイド喫茶を後にする事にした。

617円でーす♪

コーヒーで600円弱も取られるとは…。

最後までブリっ子メイドにお世話をしてもらい、忘れることのない思い出ができた。

早川実

私、逆方向だから。じゃーね

羽島桜

はい! 今日はありがとうございました。それじゃ!

駅に着き、実さんは千葉方面、私は東京方面の電車に乗らなければ帰れないので、改札で解散となった。

羽島桜

今日一日疲れた~

思ったより歩いて、足が張ってる気がする。

明日にひびきそ~。

でも、同時に今日一日の事も思い出した。

信一くんと一緒にいるだけで楽しくて、嬉しくて…苦しくて、せつなくて。

もし付き合う事ができたら、毎日あんなに楽しい時間が過ごせるのかな…。

想いが押さえられなくなり、同人誌を強く抱きしめた。

実さんにも手伝わせてるんだから、絶対になびかせてみせる。

改めて、心に強く誓った。

電車に揺られ満員の客に当ながら、手すりだけを助けに我慢強く最寄りに着くのをじっと待った。

早川実

はー

だが、誰も私のオケツを触ったりしてこない。

私の体って、そんなに魅力ないのかな?

…べ、別に触って欲しいって訳じゃないんだからね!

友逹いわく、

昨日、帰りの満員電車で知らないおじさんにオケツ触られた~

だとか、

えー、私もこの前太股触られた~

だとか、

私なんて、脇の下触られた~

だとか、色々な痴漢情報が入ってくるのに、私は生まれて一回も被害を受けた事がない。

しかもその時に、

ねー、実は触られた事無いの~

早川実

へ、私?

そーだよ!

早川実

わ、私はね…お、おっぱい揉まれた!

とっさに思いついた事を口にした。

へ、へーそれは大変だったねー

か、可哀想ー

げ、元気だしな

なんでそんなに可哀想な目でみるの!別の意味で!

…ま、まあ最近の女子高生は痴漢が多いんだよね!

みんな気をつけないとね!

さっきと言ってること矛盾してるけど、気にするな!

早川実

桜は…痴漢…受けてるのかな…

ふと、桜の事が脳裏によぎった。

あんなに可愛いのに受けないわけないか。

・・・可愛いのに。

私って、桜が信一とくっつく為に協力する必要あるのかな?

可愛いんだから、告白すればすぐに付き合えるじゃん。

信一、可愛い子好きだし。

・・・

なんか、どうでもよくなってきた。

私は・・・どうしたいの?

まず、根本的に違う気がする。

やってることが。

なんで、私がわざわざ不幸になる結末に持っていく手伝いをしなきゃいけないの?

違う。

絶対違う。

今までの私は間違っていた。

相談に乗るのやめよう。もう。

でも、断ったら怪しまれる。

そうだ。

二人の関係を破滅させよう。

この機会に。

私が望む『未来』の為に…。

第7.5話 ぶりっこメイドがこんなに可愛いわけがない!!

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