キキ様!!

ライトよ……やれ

危機のその言葉を合図に、終わりの物語は始まった。

悪く思うなよ姫様。これも命令だから、仕方のないことなんだ

初めに動いたのはライトだった。背中に背負う剣に手を掛け、一直線にかぐや姫の元に飛ぶ。

かぐやー!!

かぐや姫ー!!

その光景を見て、二人は叫んでいた。

護衛の者よ、かぐやを全力で守るのだ!

お爺さんの声とともに、数十の兵士たちが我先にとかぐや姫の周りに集う。

ものの数秒で、かぐや姫の周りには鎧で身を纏った頑丈な壁が出来上がる。

みなでかぐや姫をお守りするぞー!

中央を陣取る兵隊長がいときわ大きな声を上げた。

僕の命に替えても守り切りますっ!!

その横で構える少年が隊長の叫びにいち早く答える。

守れるといいなあ、この俺の手から

そしてその時にはもう、ライトは前方に迫っていた。

いくぞっ、佐藤くん!!

はいっ! それと隊長、僕は鈴木だ。二番目なんだ! 一番多い佐藤じゃないってこれでもう500回目だよっ!!

残りの兵をかぐや姫の周りに残し、隊長と鈴木の二人が正面に飛び出す。

二秒後に、両者は激突した。

ああ? 俺の剣が止められた? 何だこいつら。こんな奴が地球にいたのかよ

ライトの剣に隊長と鈴木の剣がぶつかり、三人の動きが止まる。

隊長、二人係でやっとだよ。どうしよう?

案ずるな高橋。手はあと275手もある

そんなに!? なら早く使ってよ!
それと隊長。僕は高橋でもない。それは三番だ! どうして二番を飛ばすんだっ!?

ちなみに数字が大きくなるほど効果も大きくなぐはあっ!?

鈴木からツッコミと同時に横蹴りを喰らった隊長は、そのまま倒れ込んだ。

うわっ!?

そのせいで拮抗していた剣がバランスを崩し、鈴木の剣はライトの剣に押され始める。

隊長、やばいって。これ僕がやられちゃうパターン……て隊長!? どこ行った? いつの間にかいないし……

後ずさりする鈴木が横を見れば、自分が蹴り飛ばしたはずの隊長の姿がないことに気付く。

まずは一人か

あ、だめだ。盾(隊長)がない……

迫りくるライトの剣を防ぐ手段(隊長)を自ら手放した鈴木は、決死の覚悟で反撃の構えをとる。

その時だった。

くっくっく。油断したな少年。これが私の奥の手第273手だあーーー!!!

いきなりラスト三つの中の大技!? 
というか何故そんなところに!?

声の方を見てみれば、庭の隅に生えた松の木のてっぺんに隊長はいた。

くふふ。私の実の狙いはこちらだったのだよ

隊長は、どや顔でそう言い放つと、一度深く腰をかがめ、そうして……

飛んだ!?

一気に松の木から大きく飛んだ。

空中で隊長の手は既に剣をしっかりと握っていた。

そして、前方には。

隊長の行く手には!!

キキ様!?

闘いの引き金を引いた張本人、キキがいた。

ふん。先に儂を狙いに来たか。賢明な判断じゃ。が……果たして儂を倒せるかのう

気合と根性と勇気と運があればなんとかなるものさ

それ要は神頼みじゃん

うおおおおおおおおおおおっっ!!

最高到達点、すなわちキキと同じ高さまでに達した隊長は、もう一度叫んだ。そして、声とともに、その大きな剣を勢いよく……

神よ、我に綺麗な十円玉を!!

本当に神に頼んでるし何でそこで十円!?

振り切った。

・・・

・・・・・・

振り、切った。

ん?

……

あれ?

ておーーーい!! 届いてないじゃん!!
振り切っちゃってるじゃん!!
高さに集中し過ぎて間合いが全然つかめてないじゃんっ!!

馬鹿なのか、あいつ?

こやつが隊長とは、もうわらわも駄目かもしれぬのう……

見方だけでなく、かぐや姫についには敵方にまで呆れられた隊長の体は、重力に従って落下を始める。

ふん。あんなゴミなど気にするだけ無駄じゃ。ライトよ、その小僧だけでも楽にしてやれ。さっさと薬を手に入れるぞ

キキ様、りょーかい

くっ……

キキもライトも鈴木に焦点を絞り、当の鈴木もかぐや姫も隊長から意識を完全に逸らしていた。

だから。

彼は再び叫んでいた。

ふっふっふ。油断したなお嬢さん。もうあなたは私の策に溺れているというのに

隊長!? まだそこにいたんですか!?

気付けば彼は、近くにあった松の木の絵段位ぶら下がっていた。キラキラと光る十円玉を持って。

何のことじゃ、ゴミ。儂が何の策に溺れとると?

ゴミと呼ばれた隊長は、びしっとキキに人差し指を向けた。

いや、正確には。

隊長が剣を振り切った時に、先端にひっかけキキに飛ばしたゴーグルのようなものに向けて。

こんなゴミがどうかしたか。

キキがそのゴーグルを手に取り言った。

そのゴーグル、気付いてる者もいるだろうが、何を隠そう、さっきまで私が付けていたものなんだよ

その割には何かデザインが違うよ!?
それとそんなこと言いながら隊長今もゴーグル掛けてるじゃんっ!!

細かいことは気にするな田中くんよ。
そしてこのゴーグルの予備を私が用意していない訳がないだろう

僕のことを田中と呼んだことは気にするけどね

結局はゴミじゃな

違う。お嬢さん、分かっていないようだな。一度よーく調べてみるといい。すると、出てくるはずだよ

隊長の言葉に、キキはゴーグルをまじまじと見つめる。

調べろと言うてものう。いったい何が出るんだか……

ビーーームっ!!

なっ!?

キキが持っていたゴーグルから、青色のビームが出た。そのビームは、そのままキキの顔に直撃する。

あの人はまたあんなふざけたものを……

はっはっは! 名付けて『油断させといてからのゴーグルビーム』!! 111番目のとっておきだっ!!

さっきのジャンプより低いの!? てかなんでさっきのジャンプが273番目なの!?

ビームが成功したのを見届けると、隊長は松の枝から地面に着地する。

待たせたな佐藤。これで二対一。相手は大将を失ったから俄然こちらが有利なはず!

だから僕は鈴木ですって! 佐藤ってもう戻っちゃってるよ! 一回でいいから鈴木にも立ち寄ってみようよたったの一番違いなのに!!

叫びながらも二人はお互いにライトを見据えていた。剣を握る手に力が込もる。

さあ少年よ。闘いの続きを始めよう

かぐや姫は僕たちが守る!!

二人は最後の闘いを宣言した。

標的であり、敵である少年に向け。

しかし。
けれど。

許さんぞ……

答えたのは少年ではなかった。

許さんぞ貴様ら!

た、隊長!!

ああ、老けたな

二人が見つめるその先には。

全員……殺す

悪魔のような声とともに、黒い闇が、辺りを覆いつくした。

わらわ今回ほとんど出番ないのに、もしかしてここで続くのか!?

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