キキ……

キキ様……

隊長……

お芋食べたいなあ……
この十円でお芋買えないかなあ……

みなの視線の先で、変わり果てたキキは、悪魔のような声を上げた。

カカッ。みなが儂に魅了されておるようじゃのう。いいぞいいぞ。気分がいい。そのまま儂を見とれ。見惚れとれ。……じゃが

そして、キキの変貌に意識を奪われていた者たちはみな、それを見た気がした。

その時点でもう手遅れなんだがな

額に開く第三の目。

目ではなく、心で感じたというべきか。

頭の中に、その目のイメージを描いた直後、彼らはみな糸が切れたように崩れ落ちた。

お爺さんもお婆さんも、かぐや姫を守る護衛の者たちも。

何かが燃えるような、つんとした匂いが鼻をついた。

カカッ。私に少しでも意識を向けていたもの全ての頭に目のイメージを送り込んだ。意識を保っていられるのは月の民くらいのものだ

だから、残ったのはキキと、ライトと、それからかぐや。

もはや、かぐや姫に勝機は残されていなかった。

ライト、やれ。もはやかぐやの命などどうでもよい。薬を手に入れろ。それ以外は自由にしてもよいぞ

分かったよ。悪いな姫様。命令なんだ。抵抗しなければ殺しはしないからさ。傷はつくかもしれないけれど

言って、彼はかぐや姫の元に向かう。

くっ……

けれど、かぐや姫を守る者はもう誰もいない。
そして、かぐや姫に闘うための力なんてない。

それでも、彼女は最後まで諦めなかった。

い、嫌じゃ。この薬は、わらわを育ててくれた、愛してくれた、大好きなお爺さんとお婆さんへの気持ちなんじゃ!!

だから。

……馬鹿だな……

ライトは躊躇なく刀をかぐや姫に向け振り切った。

真っ赤な血が傷口から噴き出す。

だから彼は叫んだ。

があああああっっ!!??

なんじゃと!?

ライトの右腕から力が抜け、刀は地面に落ちた。

何故だ……

キキは問う。

何故お前が動けるんだ!?

ライトの腕を浅く切り付け、かぐや姫を守ったその男に。

だから、彼は答えた。

それはお芋が美味しかったからだー!!

右手には一本の剣を持ち、そして左手には、湯気の出ているホカホカのお芋があった。

貴様、儂の姿に何も思うことはなかったのか

私は老けたおばさんなどに興味はない!
お芋が食べたいと思っていたら本当にお芋が転がっていたからもうそのことで頭は一杯だったさ

貴様、まさかその辺に落ちていた芋を食べているのか!?

心配はいらない! 何故なら焼いたことで殺菌されたはずだから!!

見れば、庭の隅の方で落ち葉の塊から煙が上がっていた。

何かが焼けておる様な匂いがしたが、まさかあの中で一人焼き芋を作っておったのか……

ふざけた奴だ。ライト、もうよい。お前は下がっておれ。儂が早々にこいつを殺す

ふ、甘いな。この焼き芋に少し劣るくらい甘いな。もうすでに私とあなたとの勝負の決着はついているというのに

な!? またあのビームの様な汚い手を使って……

言って、キキは辺りを見回し始めた。

違う!!

しかしそれを隊長が否定する。

老人よ、こっちだ

呼びかけに、キキは隊長の方へ眼をやり、それを見た。

参りました私の負けです降参します!!

そう言いながら土下座する隊長の姿を。

なっ!?

隊長ーーーーー!
お主一体何がしたいのじゃあ!?

貴様何を言っておる? さてはこれも何かの作戦か!?

もう何が何だか分からなくなってしまったキキは、登場の時とはまるでキャラが違ったように見えた。

キキの問いかけに隊長は焼き芋を頬張りながら答える。

私が敵と戦う条件が『美味しい焼き芋を食べさせてもらう』だったからな。だからお芋が食べられた今ぶっちゃけもう私闘うのめんどくさい

お爺様ーーー!!
何故このような者を私の護衛に選んだのですか!?
人選ミスだと思います!!

くっ……もうよい

キキは、隊長とのまともな会話を諦めたようだった。

邪魔をせぬと言うなら貴様に構う必要もない。ささっと家具屋を殺して『不死の薬』を奪うまで

そう言って、キキがかぐやの元へ向かおうとした時だった。

それは違うぞ!!

隊長がキキめがけてキラキラ光る十円玉を投げつけた。

一体何なのじゃ貴様は!!

向かって来る十円玉をかわす。

怒鳴ったキキの視界が、光に包まれた。

あれはまさか!?

十円玉に磁石で引っ付けた月の欠片のペンダントが、タケコ〇ターで飛んでいる!?

ペンダントが月の光を吸収し、それをキラキラの十円玉が反射しているのだろうか。

とにもかくにも、数秒の間、一面が光に包まれた。

そして光が収まると、変化があった。

竹林から大量の鳥たちが、光から逃れるように一斉に飛び立ったのだ。

なんじゃ、あの竹林にはあれだけの鳥たちがおったのか……うん?

そして数秒遅れて、それはやって来た

あれは……大きな、鳥?

見覚えがあった。
あの鳥は、確か。

ライトと初めて会った日に竹林を低く飛んでおったあの時の鳥か!?

その大きな鳥は一度かぐや姫の前まで来ると、ぐるっと旋回し、血を流して倒れるライトの元へと向かった。

なんと、コウモリだったか……いやまて。あのコウモリ、まさか!

気付いた時にはすでに遅かった。

コウモリはライトの右腕に止まると、一気に傷口に噛み付いた。

おそらくそこから血を吸っていたのだろう。

貴様。まさか儂にこのコウモリと闘えと言うのではなかろうな?

キキの言葉に、隊長は最後の一口を飲み込み答えた。

その通りだよ。さて、最終決戦と行こうじゃないか

カカッ。笑わせる。そんなコウモリなど恐るるに足らんわ

言って、キキはどこからか出した一本の杖を振るった。それだけで、コウモリの体は炎に包まれ、身体は崩れていく。

茶番はお終いだ。今度こそ薬は頂く!

安心しろ。クライマックスはこれからだ

何?

その言葉に燃えるコウモリに視線をやり、そして気付いた。

再生している、じゃと!?

ただし。

再生が完了した時、それはコウモリの姿ではなかった。

銀色の髪が風に乗って揺れる。

俺を切り刻んだ責任は取ってもらうぞ

銀色の鬼が、再び舞い戻る。

* * * * * 

こんにちは。
ご覧いただきありがとうございます。

思いつく演出をどんどん入れてみたら、結構なボリュームになってしまいました。反省してます。

2話で登場した彼を、もう一度登場させるんだと思いながらここまで来て、漸く実現させられました。彼の登場を予想できていた方もいるのではないでしょうか。

物語も折り返し地点です。最後まで読んで頂ければと思います。

それでは、今回はこの辺りで失礼します。

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