昔、昔、そのまた昔、人間と鬼はそれはもう仲良く共存していたそうだ。

鬼は鬼ヶ島を拠点として、漁で採ってきた魚を、人間が育てた野菜や肉と交換して生活していたらしい。ようは持ちつ持たれつの関係だ。

そんなある日、1つの些細な事件が起きた。
鬼の男と人間の娘が半分鬼で半分人間の子供を産んだのだ。
人間はそれに激怒し、鬼にその怒りをぶつけた。鬼も最初は謝っていたものの人間の態度の悪さに腹が立ち、やがて争いがはじまった。
だが当然、人間が鬼に勝てる筈もなく。人間は村を荒らせれた結果。度々鬼の襲撃を食らうはめになってしまった。

やっぱり何度読んでも酷く悲しい話だ。

そう言って本を閉じる
本の題名は『鬼と人間の経緯(いきさつ)』今から約500年位前の出来事だ。

僕の名前はレン、青鬼の子供。歳は20歳。鬼の寿命は長く、40を越えてから大人と呼ばれる歳になる。
だから未だ未だ幼い

レン

本当に僕達、鬼と人間は争わないといけなかったのかな………

レン~、何処~!

そんな感傷に浸っていると、洞窟の奥から一人の少女の鬼が現れる

レン

あ、マナ!

声の主は赤鬼のマナ、歳は僕より4歳上だが、鬼にとって4年はそんなに大差ない。いつも一緒で、僕はマナに特別な感情を抱いてるけど、マナは僕の事を弟だと思ってるんだろうなぁ…………

レン

早く大人になりたい

大人というよりは立派な男になってマナのお婿さ…………ううん、何でもない、何でもない。

そんな妄想を膨らませていると、いつの間にかマナが近くに来ていた

マナ

いたいた、こんなところで何してるの?

レン

えへへっ、これ読んでたんだ!

そう言って僕は手にしている本をマナに見せる

マナ

またそれ?、レンは何回読めば気が済むの?

レン

だって!昔は僕達と人間が共存出来てたんだよ!僕も人間と仲良く出来るかもしれないじゃん!

マナ

そんなの夢物語よ、夢物語。人間達はもう鬼の恐ろしさを知ってる、昔みたいにはなれないの。…………それに過激派の奴等がいる限り不可能だわ。

レン

…………本当、なんでこうなっちゃったんだろう………

鬼ににも、平和を好む鬼と争いや力を振るうのを好む鬼がいる。
鬼ヶ島では前者を平和主義、後者を過激派と呼ぶ。
人間を襲うのは基本的に過激派の奴等で、僕達、平和主義は魚や昔に人間から貰った種で野菜を育てて生活している。

レン

人間の子達と遊びたいなぁ~

マナ

はぁ、それよりレン、昼から稲の収穫を手伝うんじゃなかったの?

レン

あっ!

すっかり忘れてた…………

レン

ごめん。これから行くよ!

僕は勢いよく立ち上がる

マナ

私も手伝ってあげるわ。感謝しなさいよ。

レン

うん!ありがとうマナ!

おもむろにマナを手をとって駆け出す

マナ

ちょ、ちょっと!

レン

早く!早く!

マナ

…………

何も変わらぬ日常
されど危険なんて微塵も感じられない。平和そのもの
僕は結構、この日常を気に入っていたりする

数日後、それは突然に壊される事になるのだが、

襲撃だ!

その日、洞窟で楽しく駄弁っていた僕達は外から聞こえたその言葉に驚いた

レン

襲撃!?

マナ

人間が、攻めてきたの?

何故かは分からないが、直感で僕は危険を感じた。このままでは鬼ヶ島は終わると、皆がやられてしまうと

レン

マナ……マナだけでも助けないと!

レン

マナ!こっちに来て!

マナ

えっ?レンどうしたの!?

俺はマナを連れて洞窟の一番奥の部屋に来る、そこには人間から奪ってきた宝物がたくさん積まれていて、隠れるには丁度良い

レン

マナは此処に隠れてて!

そう言って部屋の奥の見えにくくなっているところに入れる

レン

これでマナは助かる筈だ。

人間と鬼ヶ島という環境は凄く相性が悪い
だから人間が此処に住むことはまずないだろう。更に言えば鬼は2日は何も食べなくても平然としていられる。
だから

レン

マナは人間が帰るまでここに隠れてて!

マナ

どうゆうこと?

レン

分からない!でも多分だけど今回は危険なんだ!

レン

だから…だから……


マナだけは……

マナ

レンは行くの?

レン

えっ…?

マナ

レンは危険なのに行くの?

レン

………うん

レン

僕にはそれしか出来ないから

マナ

………………嫌よ

レン

えっ?

マナ

嫌よ!嫌、嫌、嫌、嫌!レンがいなくなるなんて絶対に嫌よ!

僕は驚いた。今まで僕の前で泣いたことも悲しい顔すらしたことないマナが、号泣して俺の胸に抱きついてきたのだ。

マナ

行かないでレン!二人で隠れましょう。私、レンのいない世界なんて嫌よ。…………絶対に嫌なんだからぁ…

それが凄く嬉しかった、このままマナの言う通り、二人で隠れても良いと思った…………それでも、

レン

ごめん……でも行かなくちゃ

ここで僕が隠れるのは唯の“現実からの逃げ”だ

マナ

うぅ……ひっく、いやょぉ………

レン

絶対帰ってくるから

そう言ってマナの髪をそっと撫でる

マナ

…………………ほ、本当に?

レン

うん!

マナ

……………分かった。待ってる。待ってるから絶対に帰ってきてね

レン

うん

レン

……………それじゃ行ってくる

最後にマナを強く抱き締めてからソッと体を離して俺は洞窟の外に急いだ

レン

…はぁ…はぁはぁ……

ようやく外に出てるとそこには鬼の死体が無惨にも散りばっていた

レン

……そんな

まさかこんなに早く酷くなるなんて

君が最後の一匹か?

振り返るとそこには一人の男と犬と猿と雉がたっていた。男の持つ刀は血でベットリと濡れている

レン

あの人がやったのか………

一見すると好青年で、決して殺しをするようには見えなかった。それでもこの人が皆を殺したのは事実だ

レン

そうだ、僕はレン、最後の鬼だ!

ここで、中にまだ一人……マナが居る事を悟られるわけにはいかない。

桃太郎

そうか……俺の名は桃太郎!村の人を襲う鬼を退治しに来た。お前には今まで村の人から奪った宝物の場所を教えてもらおう。………それとも俺と戦うかい?

レン

嫌だ!場所は教えない!

レン

そこにはマナがいるんだ、教えるわけにはいかない

桃太郎

そうか……では君も退治するしかないな。

そう言って桃太郎は近づいてくる

レン

うっ、

僕も決死の覚悟で飛び出した

レン

うわあぁぁぁ!

桃太郎の刀が容赦なく僕の体を切る

レン

ぐはっ!

桃太郎

切り捨て後免

胴体から流れる血に僕は死を実感する

レン

あぁ………僕は切られたのか………

レン

やっぱり人間と鬼は仲良くなれないのかなぁ……

マナ

絶対に帰ってきてね

薄ぼんやりとしている記憶の中で最後に見たマナの顔が浮かぶ。

レン

約束……守れなかったな………

レン

ごめんね…マナ………大好きだよ…

僕の記憶はそこで切れた

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