何故私がアフターというこのような軽犯罪的な行動を取るのか、読み手の諸君に補足説明させて頂きたい。
そのためにはまず生前の妻とクソ野…失礼、ろくでなしだった頃のエピソードを語らねば始まらない。
そこにこの店の起源があり、私の生き甲斐と情熱があるのだ。
何故私がアフターというこのような軽犯罪的な行動を取るのか、読み手の諸君に補足説明させて頂きたい。
そのためにはまず生前の妻とクソ野…失礼、ろくでなしだった頃のエピソードを語らねば始まらない。
そこにこの店の起源があり、私の生き甲斐と情熱があるのだ。
今頃どうしてるのかしらね?あのお客さん。随分悩ましげにコーヒーを飲んでいたけれど?
これが私の最愛にして
今は亡き妻、明日美。
この純喫茶モロウは
実はかつてトゥモロウ
という名前だったのだ。
tomorrow=明日
そう、
明日美の名前から取った
店名なのだ。
"美しい明日"
素晴らしい発想と響きだろう?
まあ、
それは時が経った今だから
素直に思える事なのだがね。
あの頃の私といったら…
それはそれは…
別にどうだっていいだろう?ところで競馬チャンネルに回してもいいか?もうすぐメインレースが始まる。
どうしようもなく無粋だった。
そうね。考えてもあまり意味はないかもね。
そして
突然私にとって悲劇、
というよりは
天罰が訪れる。
私がパチンコで外出している間、
仕事中の明日美が店で倒れたのだ。
彼女は末期がんだった。
ずっと独りで背中を摩って
仕事をしていた彼女に
なぜ何も声を掛けなかったのか
今でも私は私を許せない。
彼女は入院を拒み、
自宅療養を選んだ。
それから
彼女がこの世を去るまでの
一か月弱、
私は初めて彼女と
一緒にこの店で働いた。
なぜだ!?なぜ私はたかだかコーヒー一杯に時間を奪われ、翻弄されるのだ?
あなたの覚えが悪いだけでしょう?
コーヒーを作るどころか
オーダーを取る事さえ
ままならない私に
それでも妻は
立って仕事ができなくなる
その時まで彼女の仕事を
私に伝えていった。
そして別れの前夜
病床の彼女と私は
最後の対話を交わした。
君を一人にはさせない。君が絶命する瞬間に僕も毒を飲んで一緒に死のう。僕は君無しでは生きていけない。それにそうしたら君も寂しくないだろう?
それこそが何も出来ない私が
死に際の彼女に捧げられる
唯一の愛情表現だと思っていた。
しかし、
彼女はこう答えた。
ジョージ君、甘えないで。
何がだ?私はせめてこの命を懸けて君が寂しくないようにと…
自立して生きていく自信が無いからそんな事言うんでしょう?
それは怠慢です。
そんな言い方ないじゃないか!私だって私なりに努力して…
レベルが低いんです!あなたの努力は次元が低すぎる!
れ?れべぇ?
私はあなたにもっと早くこの仕事を手伝って欲しかったし、子供も本当は欲しかったわ。
お金だってもうちょっと余裕があったら年に一回の温泉旅行くらいはしかったわよ。
ねえ、わかります?
…済まない
ごめんなさい。私も死ぬのを良い事に言い過ぎた。でもね、ジョージくんはもっと、今からでも成長できると思うの。
本当に底辺だと思うから。
はは、ヒドイ言われようだな。私の方が先に天に召されるような気分だ。
ごめんなさい。
違う!
謝るのは私の方だ!
こんな亭主で苦労させて本当に申し訳ありませんでした!!
勘違いしないでね。
私は優しいジョージ君の事が本当に大好きでした。
ただ、心からありがとうが言えないだけ。
私の心が狭いだけなの、許してね。
私だって君の事が大好きだったんだ!本当に尊かった…
今日まで生きれたのは君のおかげだ。
だからこれからの余生は君が望む私になる事を誓おう!!
明日美が天国で私を許してくれるよう、情熱を持ってこの命を全うしてみせよう!!
ありがとう。
じゃあもっと他人のために生きて良い大人になって下さい。
それから私を追いかけてきて。
気長に待ってるわ。
そう明日美は言い残し、
日の出前には
この世を去って行った。
どぅも!ちょっとお尋ねしたいんですけど、ここって今アルバイトの募集なんかしたりしてます?
その数日後に常連だった
ナルサワ君がウチの店で
アルバイトしたいと志願してきた。
本人に直接聞いた事は無いのだが、
彼はきっと
友人も頼れる人間もいない私に
明日美が仕向けた
“刺客”なのではないか
とずっと警戒している。
ああ、ちょうど人手が足りなかったんだ。明日からよろしく頼む。
いつの間にか店のネオン
“tomorrow”
の最初の二文字が消えて
“morrow”
になっていた。
直そうかと手を付けた時、
私はハタと気が付いた。
morrow=翌日、(事件の)直後
という意味らしい。
今頃どうしてるのかしらね?あのお客さん。
では彼女のリクエスト通り、
実際店を出た《その後》を
覗いてみてはどうだろう?
と私は考えた。
コーヒー、ランチ、接客…
あらゆる店内のサービスを
彼女のクオリティまで
再現できない私の
最後の手がかりは
店の外にあったというわけだ。
ちょっと後付けのテーマを
語らせてもらうと、
私がマスターとなったこの店、
純喫茶モロウというのは
(to)morrow=
明日(美)のために捧げるお店
という情熱を持ってやっている。
まあ、その実情は彼女の味に
一番近いインスタントやレトルトで
補ったモロイ作りというわけなのだがね。
マスターのやってるアフターって結局どこまでいったら満足なんですか?
どこまで?というと?
男と女って、出会って好きになって、付き合ってキスとセックス繰り返して、結婚して子供が出来て歳を取って…最終的には何かしらの理由で別れるじゃないですか?
自分の事ならともかく、他人のそういうのを観察して何が楽しいんですか?
ふむ。
何かボク的にはそういうのって、アップデートと課金を繰り返すネトゲーと本質的にあんまり変わんないんじゃないのかなあって感じちゃうんですけど、それってさすがにドライすぎます?
なるほど、少々下衆な例えではあるが、非常に良い質問だナルサワ君。
愛や恋は詰まる所、“出会いと別れの瞬間”にある。
一回のアフター中に私は少しでもそれらしきもの触れれば満足なのだよ。
それとアフターの後の事を想像するのもまた一興なのだよ。
そして再び店に来てくれればなおの事
嬉しい。
私がアフターを続ける本当の理由はね、
妻に与えるべきだったロマンスを他人から学ぶ事なのだよ。
アフターは充分な大人になり得なかった私の補修授業。
私はたとえ今度人間に生まれ変われなくとも、必ず明日美を見つけ出して、現世で学んだ数々の愛し方を彼女に尽くすと決めているんだ。
生まれ変わったら、ですか。
響きは良いんですけど、何か言い方によっちゃあいくらでも手抜きできそうじゃないっすか?
その通りだ。私は怠け者だ。
だからどうかこの老人の戯言や茶番を温かく見届けてはくれないだろうか?
君は私の唯一の
友人なのだから。
someday,
See You Next to morrow!!
oshimai
終
マジデスカ!?俺コレ好キダッタノニ完結トハ残念スギル。デモイイ終ワリデシタ。
マスターガ俗物ナノガ好キデシタ。
パクりさん
ありがとうございます。おかげでナルサワ君という愛おしいキャラを作る事が出来ました。感謝感激です。
魔剣さん
ありがとうございます。魔剣さんのおかげでコメント数特集でも取り上げてもらえましたし、何より本作を1番愛読して下さった事に心から感謝します。
イエイエ、イチファンダッタノデ、ナニヨリモ橋本サンノセンスノ高サニハ脱帽デス!
コレカラモ応援シテキマス!