グアアア!!!

 火哉が放った光は、錯乱している風の民たちを包み込んだ。

呪いが……解けていく……!?

王!

アズール

火哉っ!!

火哉

ううっ……!

これが聖剣の……白き王の力……

ぐはっ……

王!?

余はもう……ここまでのようだ……

そんな! 呪いが解けたというのに!!

お前を傷つけずに済んで……良かった……

選ばれし者……伝説の白き王よ……この先にある聖剣を抜くのだ……

火哉

っ……

そして必ずお前たちが……もう一本の聖剣も……手に入れろ……

アズール

もう一本……

もしも……黒き王が……聖剣を手にしたならば……

火哉

黒き王……

……世界は滅亡へと……導かれる……

世界を……余の家族を……守ってくれ……

王……?

王ーっ!!!

 そう言い残し、風の王は死んだ。

 火哉のヒールも彼らには無意味であった。
 どうやら呪いにかけられた時点で、肉体は既に躯となっていたようだ。

 王と共にいた風の民たちも、皆息を引き取った。

 残った者たちで埋葬し、黙祷を捧げる――

……

アズール

火哉……行くわよ!

火哉

う……うん、ついに聖剣様にお目見えか……緊張してきた

私たちはここで待たせてくれ。これ以上の犠牲は出せない

アズール

かしこまりました……何かありましたら私たちのことは気にせず、すぐ避難してください

火哉

姫っ! 姫もここで……

アズール

ばーか、何言ってんのよ! あんたが私を守ってくれるんでしょ?

火哉

姫……

アズール

では行って参ります

気を付けて……

火哉

あっ、あそこにあるのは!!

アズール

ついに巡り会えたわね……

火哉

これが……聖剣ヴァイス

アズール

選ばれたものしか抜けないという……

早く……我をその手に……

火哉

聖剣が……オレを呼んでる……

 火哉は聖剣を握りしめ、力一杯引き抜いた。

火哉

こ……これが……

 すると聖剣は、眩い光を放ち出した。

火哉

え?

 聖剣はなんと、少女へと姿を変えたのだった。

聖剣 ヴァイス

ふー、やっと出れました……

 少女は、ぐーっと背伸びをする。

火哉

剣が……剣がっ!!

アズール

女の子になった!?

聖剣 ヴァイス

貴方が私のマスター……?

 少女は火哉に近づき、顔を見つめながらそう言った。

火哉

あ、ああ……たぶん

聖剣 ヴァイス

会いたかったの

 火哉の胸に、ぴと、と身を寄せる少女。

火哉

か、可愛いなぁ……

アズール

火哉!

火哉

や、違うんだ! 人形みたいに可愛いってゆーか……

聖剣 ヴァイス

こっち、向いて……?

火哉

ん?

 少女は火哉の首に両手を回し――

聖剣 ヴァイス

んっ……

 火哉にキスをした。

火哉

っ……!

聖剣 ヴァイス

Loading……

聖剣 ヴァイス

登録完了なのっ!

アズール

ちょっ……なにしてんのよ!

火哉

オレのファーストチッスがああ!!

火哉

聖剣だし! ノーカンだよね!?

アズール

知らないっ……

聖剣 ヴァイス

これからマスターの物として、私を好きに使ってくださいなのっ

火哉

す、好きに使っていいの……?

アズール

顔がエロい……この、へんたいっ!!

火哉

ごごご、誤解だってばーっ!!

 こうして聖剣を手に入れた火哉たちは、風の民と共に城へと帰還した――

ラフィリア

お母さま……!!

ラフィ……無事だったか

ラフィリア

うん! お父様は!?

……すまない

ラフィリア

……え?

あの人は……王は……亡くなった

ラフィリア

うそ……だ……!!

アズール

……

すまない……だが、彼が呪いを解いてくれたので、安らかに眠ることができた……と思う

ラフィリア

うっ……うっ……

 母親は子を抱き締め、共に泣いた。

 そして王の死因や呪いについて、また聖剣についての出来事を皆に語る。

ラフィリア

じゃあ、その子がお父様の仇……ってことだよね?

聖剣 ヴァイス

ふえっ?

ラフィリア

やーっ!!

 火哉が聖剣ヴァイスを守るように弾く。

火哉

ちょ、ちょい待ち!!

聖剣 ヴァイス

ふえぇ……

火哉

き、気持ちはわかるけど、今聖剣ヴァイスを失う訳にはいかないんだ

アズール

それにこの子自身は何も覚えてないらしいのよ!

ラフィリア

ううっ……お父さま……

火哉に、アズールと言ったか

火哉

ん?

頼みがある……

アズール

何でしょうか?

この子を……

ラフィリアを水の国へ連れて行ってくれないだろうか?

ラフィリア

お母さま……!?

王亡き今、世継ぎとなるのはこのラフィリア。つまり政権争いで一番に狙われるのはこの子なのだ

アズール

そんな……

水の国はここと違い、強さだけが全てではないと聞く。どうかこの子を、ラフィの命をここで終わらせないでやってくれ

ラフィリア

じゃあお母さまも一緒に……!!

私は王の妻だ。王が眠るこの国の行く末を、見届ける義務がある

火哉

まあ子供一人ぐらいならまだ飛竜に乗るスペースはあると思うけど……世継ぎが決まればまた戻って来れるんすよね?

無論だ。むしろ今ここにラフィがいるほうが私たち一族にとっては危険なのだ。頼む

ラフィ。全てが終わったら、また会おう

ラフィリア

ほんと? お母さままでいなくならない?

ああ。先も言ったが、絶対にお前を一人にはさせない

アズール

では、責任を持ってお預かりしますわ

火哉

ああ、必ず生きてまた二人を再会させるぜ! 水の女神に誓って!

よろしく頼む

 そして母親は深々と頭を下げ、火哉たちに子を預けた。

アズール

では、また

火哉

さくっと魔王を倒してくるぜっ!

ラフィリア

行ってまいります……

ああ。気を付けてな

ラフィリア

お母さまーっ!! どうかご無事でー!!

強く、生きて……

 こうして風の王の子ラフィリアを仲間にした火哉たちは、飛竜の背に乗り、水の国へと帰路についた――

第一章 第五話『ヴァイス』

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