責田 好(せめだ こう)

王子!
今日、バイト休みだったよな?
これから遊びに……

美家 王子(びいえ おうじ)

ごめん、用事があるんだ

責田 好(せめだ こう)

また空き教室の君に
会いに行くのか?

美家 王子(びいえ おうじ)

なんだよ、そのあだ名

責田 好(せめだ こう)

まあ、お前の自由だけどさ。
その気が無いなら
変に期待させない方がいいぜ

美家 王子(びいえ おうじ)

期待???
俺は秋生くんを大切な友達だと
思ってるだけだよ

責田 好(せめだ こう)

友達っつうかさあ……

美家 王子(びいえ おうじ)

なんだよ?

責田 好(せめだ こう)

お前の場合、
秋生ってやつに
同情してるだけだろ

美家 王子(びいえ おうじ)

違うよ。
同情とか、そんなんじゃ……

責田 好(せめだ こう)

中学一年の時に両親が
事故で死んだって聞いたせいで、
抱きしめられても
振り払えなかったんだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

だって、秋生くんは変な意味で
俺を抱きしめたんじゃなくて、
寂しかっただけだから……

美家 王子(びいえ おうじ)

振り払えるわけ、
ないじゃないか

責田 好(せめだ こう)

寂しかった、ねえ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

責田くんチャンスですよ。
寂しがれば何やっても
怒らないそうですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

いや度を越したら普通に怒るよ?
ていうか藤吉さんは
いつからそこに?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

私はいつでもBL王子を
陰から見守っています

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……

責田 好(せめだ こう)

いや今のときめくところ
じゃねえだろ。
藤吉は妄想のネタ
探してるだけじゃねえか

美家 王子(びいえ おうじ)

と、ときめいてなんかないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

そうですよ!
BL王子は男性に
ときめくのがお似合いです!

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さん……

責田 好(せめだ こう)

話、戻してもいいか?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

どうぞ

責田 好(せめだ こう)

王子、お前さあ……。
その秋生くんとやらにだったら、
何されても情にほだされて
許しちゃうんじゃねえの?

美家 王子(びいえ おうじ)

そんなわけないだろ!

美家 王子(びいえ おうじ)

(情にほだされて、か……。
俺、秋生くんに
同情してるのかなあ)

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、秋生くん。
良かった、まだ居たんだね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩!
来てくれたんですか

美家 王子(びいえ おうじ)

うん、今日はバイト無い日だから

京漆 秋生(きょうしつ あき)

嬉しいな。
あの親友さんよりも、
俺を優先してくれるなんて

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、そういうわけじゃ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

違うんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

しばらくここに
来てなかったから、
悪かったなあと思って

京漆 秋生(きょうしつ あき)

なるほど。
お詫びに何かして
くれるんですね

美家 王子(びいえ おうじ)

お詫び?!
ごめん、考えてなかった。
何すればいいの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

そうだなあ……。
例えばハグとか?

美家 王子(びいえ おうじ)

……えっ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あ、なんならほっぺに
チュウでもいいですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ええっ?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、冗談ですって。
来てくれただけで充分ですよ

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くん……。
俺をからかって
楽しんでるでしょ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

バレました?

美家 王子(びいえ おうじ)

ううっ……秋生くん……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

可愛い反応するから、
ついからかいたく
なっちゃうんですよね

美家 王子(びいえ おうじ)

(また可愛いって言うし……。
何か別の話題に変えなきゃ)

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、そうだ。
お詫びっていうのも変だけど、
明日うちにご飯食べにおいでよ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

えっ、いいんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

うんっ。
母さんが『たまには秋生くんを
呼びなさい』ってうるさいんだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、喜んで行きますよ。
ついでに泊まってもいいですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

泊まり……?
い、いいけど

京漆 秋生(きょうしつ あき)

やった。
楽しみにしてますね

美家 王子(びいえ おうじ)

(またこの前みたいに、
ベッドでキスされたり
しないよな?)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

いってきます

秋生の叔母

いってらっしゃい、秋生

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……あ、そうだ。
今日は友達の家で食べるから、
晩ご飯はいらないよ

秋生の叔母

最近、よく友達の家で
お夕飯をご馳走になるのね?
今までそんなことなかったのに

京漆 秋生(きょうしつ あき)

何か駄目?

秋生の叔母

駄目なわけ無いじゃない。
秋生にそんなに仲のいい友達が
できて嬉しいわ。
どんな友達か気になるわね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

(本当はただの友達じゃない……
なんて言ったら、
叔母さんびっくりするだろうな)

秋生の叔母

そうだわ!
友達へお礼もかねて、
今度うちに招待しなさい?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

えっ……うん

へえ、秋生の友達か……

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くんが来る時って、
いっつもハンバーグだよね

美家 妃(びいえ きさき)

秋生くんの好物は
ハンバーグだって言うから。
どう? 美味しい?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

美味しいですよ、お母さん

美家 妃(びいえ きさき)

ええ!?
お母さんだなんて
キュンときちゃう

美家 妃(びいえ きさき)

本当のお母さんだと思って、
もっと甘えてもいいのよ?

美家 騎士(びいえ ないと)

京漆くんは別の意味で
お母さんと呼んでる気が
するんだけど

美家 王子(びいえ おうじ)

別の意味って?

美家 騎士(びいえ ないと)

気づいてないなら
別にいい

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩。
口の横にソース
ついてますよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ほら……

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、ありがとう

美家 王子(びいえ おうじ)

(秋生くんの指で
口元をぬぐわれた……)

美家 妃(びいえ きさき)

秋生くんって大人よね。
王子より年下だとは
思えないわ

美家 王子(びいえ おうじ)

ほっといてよ母さん

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ありがとうございます。
お母さんは、
俺の年下かと思うくらい
お若いですね

美家 妃(びいえ きさき)

やだ~秋生くんったら!
お世辞なんか
言っちゃって!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

お世辞じゃないですよ。
本当のことです

美家 王子(びいえ おうじ)

うん……。
本当にうちの母さん、
化け物みたいに
若さを保ってるよね

美家 妃(びいえ きさき)

ちょっと王子!
化け物ってどういう意味?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

お化けなんてひどいですよ。
王子先輩にそっくりで、
こんなに可愛いのに

美家 妃(びいえ きさき)

可愛いだなんて~!
息子の友達に口説かれて、
困っちゃうわ~

美家 騎士(びいえ ないと)

今、口説かれてたのは、
どっちかって言うと
王子じゃないのか?

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ!
なんでそこで
俺が出てくるの?

美家 騎士(びいえ ないと)

王子、お前……。
どこまで鈍いんだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ。
そういうところが
可愛いですけどね?

美家 王子(びいえ おうじ)

わけわかんないこと
言いながら、
頭なでないでよ……

美家 王子(びいえ おうじ)

すごいな~!
秋生くんって
ゲーム上手いんだね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

空き教室にいるときは、
いつもゲームやるか
本を読んでますから

美家 王子(びいえ おうじ)

へえー。
どんな本読むの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ヘッセの車輪の下とか、
カフカの変身とか

美家 王子(びいえ おうじ)

なんか難しそう……。
俺が読んだこと無い
やつばっかりだ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

暇潰しに読んだんですけど、
案外面白いですよ。
今度貸しましょうか?

美家 王子(びいえ おうじ)

う、うん。
俺も何か貸すよ……
って言っても、
ラノベしかないけど

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子先輩のおすすめなら、
何でも読みますよ

美家 王子(びいえ おうじ)

そう?
ありがとう

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ふわあ~。
なんか眠くなって
きたなあ……

美家 王子(びいえ おうじ)

そろそろ寝ようか。
秋生くんの布団敷くね

京漆 秋生(きょうしつ あき)

王子せーんぱいっ

美家 王子(びいえ おうじ)

なっ……?!
急に後ろから抱きしめて、
ナニ?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ベッドで一緒に寝るから、
布団は要りませんよ

美家 王子(びいえ おうじ)

一緒に寝るって、
また変なこと
する気じゃないの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

添い寝するだけですよ?
期待させちゃって
ごめんなさい

美家 王子(びいえ おうじ)

期待なんか
してないよ!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
そんなに大きな声
出さなくても

美家 王子(びいえ おうじ)

うっ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……ね?
添い寝だけなら
いいですよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

別にいいけど……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

一緒に寝るの、
これで二回目ですね

美家 王子(びいえ おうじ)

うん……。
この前は兄ちゃんに怒られて
すぐに布団に戻ったけどね

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くん?
あの、手っ……!?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

離さないで、王子先輩

ドキドキ

美家 王子(びいえ おうじ)

(息があたるくらいに
顔が近い……)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ねえ、王子先輩……。
今度うちへ遊びに
来てくれませんか?

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……
秋生くんの家に?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

叔母さんがね、
王子先輩に会いたい
って言ってたんです

京漆 秋生(きょうしつ あき)

俺に良くしてくれてるから、
お礼がしたいらしくて

美家 王子(びいえ おうじ)

お礼してもらうようなこと、
何もしてないよ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

うちに来るの、嫌ですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

嫌なわけないよ。
行きたいな

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ありがとうございます、
王子先輩

美家 王子(びいえ おうじ)

……っ?!

美家 王子(びいえ おうじ)

い、今っ、キスした?!
暗くてよく
見えなかったけど!!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ううん?
してませんよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

絶対したよ!
何か柔らかいのが
口に当たったもん!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

柔らかいのって……
こういうのですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

ま、またキスした!!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、そんなに騒いだら
騎士先生に怒られますよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ううっ……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

じゃあ、もう寝ましょうか?

美家 王子(びいえ おうじ)

寝るのになんで
抱きしめるの?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

最近、抱きまくらが無いと
眠れなくなったんですよ。
何か抱きしめてると
落ち着くんです

美家 王子(びいえ おうじ)

仕方ないなあ。
それならいいよ、このままで

うとうと…

京漆 秋生(きょうしつ あき)

やっぱり王子先輩って
優しいですね……。
そんなんじゃ、
みんなが好きに
なっちゃいますよ……

美家 王子(びいえ おうじ)

ははは……。
そんなにモテないよ、俺

京漆 秋生(きょうしつ あき)

なんで王子先輩は、
俺だけのものじゃ
ないんだろう……

美家 王子(びいえ おうじ)

俺だけのって……!
あ、秋生くん?
寝ぼけてない?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

……すぅ、すぅ

美家 王子(びいえ おうじ)

(寝てる……。
やっぱり
寝ぼけてたのかな?)

美家 王子(びいえ おうじ)

おやすみ……

美家 王子(びいえ おうじ)

……すぅ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

…………

第18話 空き教室の君2 - 前編

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