渡斗真

デートしようよ、青木さん。



次の日の昼休み、屋上。
フェンスにもたれかかって渡くんが私に言ったこと。

渡斗真

映画のチケットもらったんだ。行こうよ、一緒に。



渡くんが私を映画に誘う。

渡斗真

昨日は自意識過剰な発言ごめんね。もうあんなこと言わないからさ、一緒に行こうよ。



ね?と笑いかけた渡くんは二歩だけ私に近付いた。

青木尚

いや、いいです、そんなことしなくても…。そういうカレカノっぽいこと、しなくてもいいですよ。私なんかと、

渡斗真

なんそれ、

青木尚

いや、デートする相手ならいっぱいいるでしょうよ。




私なんか誘わなくても、と付け足してはゼリーの蓋をあけた。


渡くんは私なんかと並ぶ相手ではない。
釣りあわなさすぎるのだ。


自意識過剰発言は間違ってなんかいなかった。

王子様と呼ばれるだけのものが、渡くんには、ある。



一般庶民である私なんかを、
相手にしなくてもいい。


青木尚

それこそ、木下さんとかと出かけたらいいじゃんか。




と、口にして渡くんを見て、
あ。と気付く。


青木尚

て、木下さんには彼氏いたんだった。




そういえばそうだ。

昨日、渡くんと木下さんが一緒に帰っているところを見かけて、それがあまりにもお似合いだったから、思わず。


渡斗真

…青木さん、ってさー。




青木さん、と彼の綺麗な声で呼ばれたかと思えば、急にくんと引っ張られた。

渡斗真

馬鹿なの?




胸ぐらを掴まれたのだ、と自覚をしたのは
切なげな顔をした渡くんとの距離が詰まってから。


青木尚

…へ?




驚いた。

はっと目を見開いて渡くんは私をすぐに開放した。


渡斗真

ごめん。




バツの悪そうに謝まる彼に、


青木尚

どうしてそんなに、切なそうな顔をするの?




思わずそんなことを口にする。
きっとこのときの渡くんは無意識だったのだと思う。

だからこそ、気になってしまった。


渡斗真

あー俺、んな顔してた?昨日あの子と喧嘩して、腹たってたからかな。ごめん。




喧嘩ですか?

私がそうたずねると、渡くんはひらひらと掌を遊ばせて言う。


渡斗真

もういい加減、屋上使って変なことするのやめろって。青木さんとは変なことしてないって言ってるのに。呆れ顔で信じなくて。




彼はそこでひとつため息をついて、


渡斗真

幼馴染には幸せになってほしいじゃんか、斗真も周りの女の子もかわいそう。だなんて言うから。さすがに腹たって。

青木尚

うわあ。



舌を出した。

青木尚

木下さん、意外と痛いところをついてくる人なんだ…。

渡斗真

酷いよね、遥香。自分が幸せだからって。




生意気な女だ。

そういった渡くんは、嫌気混じりの表情を浮かべたから、さっきの私の考えは間違えだったことに気付く。

青木尚

私はてっきり、木下さんに気があるのかと。

渡斗真

やめてよね、あんな性悪女。




性悪女、と言ってフッと視線を落としたと思ったら、


渡斗真

んなに、俺のことが気になるの?

青木尚

っ、




いつもの不敵な王子様フェイスにコロリと変わると、私にそんなことをぶつける。

青木尚

…ごめんね、それは、ないや。




絡ませた視線がただただ怖くて、
明後日の方向を向く。


渡斗真

はは、わかってるよ。とりあえずデートしようね、決定。日曜日は空けておいて。





近い距離で真っ直ぐにこっちを見ている彼のこの上ない鋭さと甘さ。
私からは見えないけれど、怖くて怖くて。



私に拒否権などはなく、
頷くしか残されていなかった。



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