バシャ
バシャ
バシャッ
バシャ
バシャ
バシャッ
はぁ………っ
はぁ…………。
この道を歩いたのは、どのくのくらい前か。
いや、歩き始めてどれほどか?
「どれくらい歩いてる?」
聞いたところで答えれる者もいない。
どれくらい歩いたか。
疲れが増していることだけは確かなのだ。
下手に弱音を吐けば
もう先には進めない程に疲労している。
口を開けば疲れるだけだ。
だが、口を開かずとも体力は尽きていた。
…………………。
……………………。
……………………………。
ふと、目が開いた。
あぁ…こんなありきたりな例え…なんて自分を嘲笑いかけて、ハッとする。
先ほどまでの重苦しい、鉛のような足、落ち着いた心音。全てが嘘のように軽かった…そして、ここはとても暖かい。
学校行事でキャンプファイアーに来ていたはずなのに、気づけば獣道で遭難していた。
それが今や、なかなか豪華な装飾が施されたエントランスのような場所に寝そべっている。
あ、起きた…。
キミ…名前なんて言うの?
え、いきなり名前聞くの…?
「いきなり聞いても…なぁ?」
「てっとり早いじゃない」
そんな明るい調子で話す男女へゆっくりと顔を向けた。
場所どころか、この男女に見覚えもなく、辺りをキョロキョロキョロと見まわして体を起こす。
それでキミ、いったい誰かね。
え、いや……はい?
お前さぁ…この人困ってるじゃん。
それに……名前聞く前に、まず名乗れって…
母ちゃんに習わなかったのか?
ども、初めまして。
田畑結城(たはた ゆうき)18歳
演劇部所属の眉目秀麗な将来有望生徒です。
黙れハゲ
ハゲてない!
はぁ……。
普通、自分で言うだろうか…。
この人達…かなりぶっ飛んでるかも。
あの…それで、ここはいったい…?
知ってる?
はい?
つまり、だ。
俺達にもわからない!
まぁ…あっちに他の人もいるよ。
そ、そうですか…。
で…俺は気になってるのだよ、君の名が!!
は…?
あ…名乗り忘れてたっけ
佐藤紘(さとう ひろ)です。
高校1年生なので…16ですね。
私、西園寺詩乃(さいおんじ うたの)
このナルシー野郎と同級生……はぁ。
よし…名乗った!
で…?
そういえば、キミの知り合いって子が
あっちで待ってるから行きましょうよ。
え…。
最初から、その人が起こしてれば…。
実は深刻なことに…。
君の友人は錯乱していてな。
はい?
実は俺達は閉じ込められた!
はい?
あの、話の脈絡がわかりません。
ようするに…。
ここが何処だかわからない…
しかも扉が開かない…
キミのような、初対面の人がいる…。
これは誘拐よ!
この人、大丈夫かな…。
遭難を助けついでに拉致監禁とか…?
……いやいや、ナイナイ。
ん?
お、起きてるな。
あぁ、千堂さん!
あなたも居たんですか!
千堂旭飛(せんどう あさひ)さん。
僕の三年生の先輩で、お世話になってる。
あの服は…演劇部の服かな?
あぁ、千堂!
佐藤くん…彼が錯乱してた友人だよ。
ん?
え?
千堂さんが錯乱…?
あぁぁぁぁぁ先輩待ってぇぇぇぇ!
違った、こっちの人だった☆
コホン。
あ、ナルシー先輩と眉目秀麗先輩…。
あ、あぁ…。
錯乱してる友人って…
七海秋人(ななみ あきひと)くんか。
びっくりした…。
この人も、千堂さんと同じで演劇部…なんだよね。
じゃなくて…
ナルシー先輩も眉目秀麗先輩も同じ人じゃ。
また、変な自己紹介してたんすか?
今は、誘拐について話してたのよ!
なんで嬉しそうなんだ…。
それなんだけど…。
一通り館内を回ったものの…
どこもかしこも外には行けそうにない。
帰れないなんて、嫌っすからねー!!!
あの話、本当だったんだ…。
まぁ、気を落とすな、髭くん。
髭くん……。
続けてもいいだろうか…?
ニコッ
食料はあったよ、食べられそうだ。
…今を生きるには苦労しないだろう。
ただ…思いのほか人が多い。
ここに来た経緯は、揃って山で遭難だ。
みんな…ですか。
美味しそうな幸があったのでつい。
素敵な幸があったのでつい。
あんたら阿保か!!!!
ま、まぁ…。
とりあえず…皆で揃って話をしよう。
西園寺 詩乃さん
田畑 結城さん
千堂 旭飛さん
七海 秋人くん
閉じ込められたなんて言われたとこで、
実感が湧くわけでも怖いわけでもなくて…
ただただ不可解で、イマイチぱっとしない。
この変な先輩も含めて理解不能で
気になることは山のようで頭が痛い。
千堂さんは、食糧まで確認してるのか!
僕の知り合いの遭難理由だとか。
そもそも誰が閉じ込めたんだ!
なんの目的があるんだ?だとか。
けれど気にしても…仕方ないよね?
そのうち考えればいいかな。
だって僕に………危機感はないのだから。
1話 山道は誘う 完